尾浜勘右衛門という先輩

食堂に着いた私達。



「あら雫ちゃん! 歩いて大丈夫なの?」
「にひひっ、善法寺先輩には許可貰いました。歩けるようにもなったし、無理をしなければ大丈夫です」



ニカッ、と笑うと、食堂のおばちゃんも「良かったわね」と優しく微笑んでくれた。そして、私専用の食事を手渡してくれる。やっぱり、完全に治ったわけじゃないから特別メニューなのか……。



「雫、俺が持つよ」
「いや、これくらいは大丈夫」
「ダーメ。物持っただけでも足に負担がかかるだろ」



そう言い、藤内は私から御膳を無理やり取る。それにより、藤内は自分の分と私の分、二つの御膳を持っていることになる。申し訳ないけれど、せっかくだし言葉に甘えよう。そんな時、「あっ! 妹ちゃんじゃーんっ!!」と後ろから声が聞こえた。誰のことを指しているのかは分からないが、急に背中に衝撃が走った。それと同時に、私は「うっ!!」と声を上げて前方に倒れる。



――ドスンッ
「っつ!!」
「あ」
「雫――ッ!!?」



前方に倒れ込んだ私。だが、私の背中に何かが乗っている。そのせいで苦しい。



「う、うおおおい!!? 雫!? 雫!!? 大丈夫か!!?」
「と、とうな……、落ち着いて……」
「ごめんね。勢いつけすぎちゃった」



背中に乗っている何かが、笑いを含みながらそう言った。そして、背中のものが退かれ、息がまともに出来るようになる。転んだ痛みと、苦しかった息に涙を浮かべながら上半身を起こす。



「雫、大丈夫?」
「ん、へーき」
「おおおおまっ、おまっ、額赤っ……!!」
「藤内落ち着け」



心配そうに私の顔を覗き込む秋と、あたふたするだけの藤内。富松君は驚いてはいるが、私の背後に呆れた顔を向けた。



「尾浜勘右衛門先輩、いきなりすぎです」
「あはは、驚かせようと思って」



後ろを振り向くと、そこには以前医務室で会ったことのあるうどん毛をした兄さんの友人が居た。なるほど、尾浜勘右衛門先輩というのか。尾浜先輩は、私に顔を向けると「本当にごめんね」と苦笑を浮かべながら手を差し伸べた。私は戸惑いつつも「いえ」と答え、その手を取る。すると、尾浜先輩が力強くグイッと私を持ち上げた。



「いやあ、誤算だね。抱きつこうと思っただけだったのに」



「あはははは」と笑う尾浜先輩。もしも足になにかあったら、私は尾浜先輩を恨んでいたことだろう。結果、何も無かったわけだけれど。



「じゃあ尾浜先輩、俺達は行きますね」
「んー、妹ちゃんと話したかったけど仕方ないか。じゃあね、妹ちゃん」
「え、あ、はい」



尾浜先輩はヘラヘラ笑いながら私に手を軽く振る。私は戸惑いながらも、軽く頭を下げた。そして、秋に手を引かれながら食卓へと足を動かす。ふと藤内を見ると、なんだか少し不機嫌そうだった。もしかして、尾浜先輩と仲が悪いのだろうか。……あ、今日はデザート無いんだ。

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