ふざけ合えるほど仲が良い

「もうそろそろですかね」
「うん、そうだね」



救急箱を用意し、待機する三反田を除いた保健委員。そんな中に、保健委員でもない私も居る。やっだ、何これ気まずい。兄さんも保健委員だから尚更気まずい。



「善法寺せんぱーい!! 手当てお願いしまぁーすっ!!」



緑がかった髪の男子が、勢いよく医務室に入ってきた。えーと、名前は神崎なんとかって人。その後ろからは、わらわらと三年生達が次々と入ってくる。その中には、藤内と富松君も居た。二人は私に気づくと、こちらに歩み寄ってきてくれた。



「っはー、疲れた」
「お疲れー」
「おう。一気に来ちまって悪ぃな」
「ううん、平気。どっちから手当てする?」



救急箱を開けながら、私は二人にそう聞く。すると、二人は顔を見合わせて「作兵衛からでいいよ」「何言ってんだよ、藤内のほうが傷多いだろうが」と譲り合いをした。



「じゃあ、睨めっこして負けたほうから手当てしよ」
「はあ? 睨めっこ?」
「へえ、面白そう。やろう、作兵衛」
「……よっしゃ、負けねぇぞ!!」



私の提案に二人は意外とノリノリのようで、お互いに笑みを浮かべながら拳を作っている。えーっと、掛け声は私がやったほうが良いかな? 「にらめっこしましょっ! 笑うと負けよ! あっぷっぷ」と言う私の掛け声が終わると同時に、藤内と富松君は二人して変顔をやった。私はその瞬間「ぶふっ!!」と吹き出す。そして、腹を抱えて「ひーっひーっ!!」と笑った。だって、二人とも凄い顔してる。普通にしてれば美形のくせに、変顔をすると整った顔が崩れてしまっている。



「雫ちゃーん、笑ってないで仕事しようねー」
「そうだぞ。笑うなら俺の隣で笑え!!」
「そうじゃないでしょう、先輩……」



善法寺先輩が黒笑を浮かべていても、兄さんが悔しがっていても、乱太郎君がため息をついても、他の三年生達の視線が向いてても、私の笑いは止まらなかった。だって、美形の変顔って初めて見るし、二人が変顔するなんて思ってもみなかったし。我ながら、凄い事を提案してしまったと思う。



「っちょ、んな笑うなよっ……っ笑っち、まうだろ……!! ぶはっ!!」
「やった、俺の勝ちーっ」



あーあ、終わっちゃった。もっと変顔見て笑いたかったのに。気を取り直し、私は富松君に「じゃあ怪我したとこ出してー」と言いながら、救急箱の中をあさる。「ほい」と差し出された腕の傷を見る。うっわ、結構深いじゃん。大人しく手当てされときゃ良いものを。



「そういえば、くのたまっていつ帰ってくるんだっけ?」
「明日だよ明日!! やったね!!秋が帰ってくるよ!!」
「テンション高っ。そういえばお前もくのたまなんだよな、すっかり忘れてたけど」
「富松君、今まで私を何だと思ってたの。ちゃんと桃色の制服着てるじゃん」
「女って感じがしねぇ」
「私に謝れ、今すぐに」



私超ショック受けた!! 富松君は男前紳士だと思ってたのに……!! 腹が立ったので、巻いている包帯をわざとキツくしてやった。富松君が「なんかキツいんだけど」と言っているが無視だ。文句があるなら善法寺先輩のところに行って直してもらえ。



「はい、次は藤内」
「え、包帯直してくれねぇのか?」
「富松君なんて知るか。へいへーい藤内、私が優しく手当てしてあげる」
「あはは、なんか気持ち悪い」
「もうやだコイツ等」



なんだか最近、私の扱いが酷くなってきてませんか?

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