18


局長の容体はすっかり良くなり、数日前に隊へと復帰した。
接吻をしたあの日以来、沖田さんは私を求めるようになった。求めるといっても、やらしい方ではない。普通に抱きしめる回数が明らかに増したということだ。現に今だって、「寒い」と言いながら私を後ろから抱きしめている。



「もうすぐ春なのに、まだ寒いなんて」
「……あの、耳元で喋らないでいただけますか」
「なんで?」
「”なんで”って……、その、違和感が……」



違和感というより、ゾクゾクするというか、なんというか。とりあえず耳元で喋るのはやめていただきたい。



「あれ、もしかして感じてる?」
「……小姓に痴漢する気ですか、貴方は」
「えー、酷いなあ」
「そういうのは小姓ではなく好きな人にやってください」
「……僕の気持ち、薄々気づいてるくせに」



沖田さんのその言葉に、私は少しドキンとする。……これは、本当に期待しちゃっても良いのだろうか……。心臓がうるさいくらい響き、私は思わず俯く。これは反応に困る、もの凄く困る。「あの、それは、その……」と、聞きたくても上手く言葉が出ない。私の言葉に、沖田さんが「ん?」と聞き返す。……ええい、言ってしまえっ……!!



「そういう気持ちだと、受け取っても良いんでしょうか……?」



恐る恐る聞いてみる。これで違ったら、相当恥ずかしいことになる。



「――そのつもりだけど」



軽く言ってのけた沖田さん。私は驚き、固まってしまう。まさか本当に沖田さんが私のことを好きだったとは……。反応の無くなった私に、沖田さんは「寧ちゃん……?」と声をかける。



「……もしかして、迷惑だった……?」
「っ迷惑なんかじゃ……!! むしろ嬉しいですし……!!」



沖田さんの言葉に、私は慌てて訂正を入れる。好きな人に告白されて嬉しくないわけがない!!私の反応に、沖田さんをクスッと微笑み私から離れた。離れてしまった体温に不安になりつつも、沖田さんを振り返る。と、また沖田さんに抱きしめられた。今度は前から。



「あーあ、両想いならもっと早く言っておけば良かった」
「今更ですね」
「ほんと今更」



それでも、両想いだったことが嬉しくて、遅くてもこういう関係になれたことが嬉しくて。込み上げる愛しい想いと嬉しさが、私の頬を緩ませる。沖田さんの顔を見ると、目が合い、思わず視線を逸らす。と、その時…――



「ごめんくださーい」



どうやら客が来たらしい。この声は千鶴かな。私は沖田さんから離れ、玄関へと向かった。




 ***




「寧さん、お久しぶりです!」
「よう」
「副長、千鶴!」



玄関へ向かうと、相変わらず可愛い千鶴と洋装に身を包んだ副長が居た。副長の髪の毛は短くなっていて、一瞬誰か分からなかった。とりあえず「中へどうぞ」と二人を上がらせる。



「総司の様子はどうだ?」
「まだ療養が必要かと思われます」
「そうか。……千鶴、例のやつを」
「はい」



千鶴が、手に持っていた二つの箱のうち一つを私に「どうぞ」と手渡した。私はそれを受け取りながら「これは?」と聞いた。



「寧さんの西洋の服です。これからは、これを着てください」
「そうだ、今から着替えてこい」
「え? 今からですか?」
「ああ。きっと似合うだろうからな」



そう言う副長に「はあ……」と返事をする。そして、二人に沖田さんの部屋を伝え、私は千鶴から受け取った箱を持って着替えに行った。




 ***




窮屈でピッタリとした肌触りに違和感を感じながら、なんとか着替え終えた。そのまま副長達の声がする沖田さんの部屋へ来た。「失礼します」と言って襖を開けて中へと入る。千鶴の「わあ」という声をと共に、三人の視線が私へ一斉に降り注ぐ。



「寧さん、凄く似合ってますっ!!」
「へえ、洋装もなかなか」
「大きさがピッタリみたいで安心したぜ」



水色の模様が入った洋装に身を包んだ私。ずっと袴だったから、こんなキッチリした服装は慣れない。この先ちゃんと慣れなくては。そう思いながらもハッとし「あ、話の途中でしたよね? 続けてください」と言う。副長は苦笑しながら「ああ、すまねぇな」と言うと、沖田さんへと顔を向けた。千鶴も、副長と同じように沖田さんへと顔を向ける。私は、寝ている沖田さんを挟んで二人の前に座った。



「で、近藤さんも甲府へ行くんですか?」
「ああ、日野にも立ち寄る予定だ」
「……僕も行きます」
「っ、そんなお体では無理です……!!」
「そうですよ、沖田さん!!」



立ち上がろうとする沖田さんを、私は抑える。沖田さんの息は荒く、やはりまだ安静が必要だ。



「僕が、近藤さんを守らなきゃ……」
「――…今のお前では、近藤さんの足手まといだ」



副長の言葉に、沖田さんは眉間に皺を寄せ、傷ついた顔をあらわにする。副長の言葉に、千鶴が「土方さん、そんな言い方……」と眉毛を八の字にして言う。が、私は副長の言うとおりだと思う。



「まず身体を治せ」



真剣な表情で言いながら、副長は沖田さんに私のものとは違う洋装を渡した。あれは沖田さんの洋装のようだ。



「……待ってるぞ」



副長はそう言うと、背を向けて行ってしまった。千鶴は慌ててそれを追う。咳込む沖田さんを放ってはおけない為、私は「有難う御座いました」と二人に向かって頭を下げる。すると、千鶴は慌てて「お邪魔しました!!」と言って行ってしまった。二人が出て行った後、沖田さんはずっと渡された洋装を見ていた。



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