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慶応3年12月16日 伏見奉行所
油小路の変からひと月後、薩長両藩は本格的に軍備を整え、京へ軍隊を終結させていた。新選組は伏見奉行所に入り、戦闘に備えることとなる。油小路で瀕死の重傷を負った平助さんは、変若水を飲んで羅刹になることを選んだ。




 ***




慶応3年12月18日
今日、二条城からの帰り道に局長が狙撃された、と噂で聞いた。その噂に動揺していると、山崎さんに一緒に来るように言われた。慌てている山崎さんに、私はどうしたのか聞きたかったが、今はそれどころではないと山崎さんの言葉に頷いた。



「血が止まらない……!!」
「仕方ありません、焼きましょう」
「はいっ」



局長が傷を負った肩から、止めどなく血が流れている。布で拭いても、血は一向に止まらない。焼くしかない、と判断し、私は丸めた布を局長に噛ませる。私の行動に、左之さんと斎藤さんが局長の体を押さえつける。これは、局長が痛みに暴れて傷口では無いところまで焼いてしまわないようにする為だ。



「……行きます」



熱を帯びた鉄板を持つ山崎さんがそう言う。そして、その鉄板を局長の肩へと付ける。ジュゥウウ、という焼ける音と共に、局長が「ぅぐあぁぁぁぁ!!」と声をあげる。その悲痛な声に心が痛くなるが、このまま止めては局長の血が無くなってしまう。



「近藤さん、しっかりしろ!!」
「局長!!」



意識を失いそうな局長に、左之さんと斎藤さんが声をかける。しばらくして、山崎さんが熱を帯びた鉄板を局長の体から離す。傷口があったそこは、焼けて黒くなってしまっている。「はー…、はー……」と目に涙を溜め、息を整える局長。あの熱さだ、まだ痛みが残っているだろう。



「お疲れ様でした」



たくさん出ている局長の汗を布で拭きながら、そう言う私。すると、局長の口が少し弧を描いた。それでも、まだ辛そうだ。



「雪村君、これを頼む」
「はい」
「あ、俺も行く」



山崎さんが、近藤さんの血を止める為に使った今では血まみれの布と、水が入った桶を千鶴に渡す。受け取った千鶴は、平助さんと共に部屋を出て行った。



「……寧、総司の様子はどうだ?」
「割と大人しくしてくれています。おかげで、少しずつではありますが良い方へ向かっているようです」
「そうか……。お前には、迷惑をかけてばかりだな」
「そんな、私も好きでやっていることですから」



そう言うと、副長は「物好きな奴め」と言って微笑んだ。私もつられて微笑む。よく考えてみると、何故私が沖田さんのことを好きになったのか分からない。いつの間にか沖田さんのことが気になって、ずっと一緒に居たいと思うようになった。



「アイツは、お前みたいな小姓が居て幸せ者だな」
「左之さん、小姓が欲しいんですか?」
「可愛い女の子限定だがな。なんなら総司から乗り換えるか?」
「全力で拒否しますー」



左之さんの小姓になった何されるか……、想像しただけでもおぞましい。「か弱い女相手に、無理矢理襲おうなんざ考えてねぇよ」とかなんとか言いつつ相手をその気にさせ、最終的には交わろうって魂胆であろう。優しい振りをして本性は狼、そうやって左之さんは幾度と女性を落としてきた。



――ドンッ……!!



外から銃声が聞こえた。私達は一斉に銃声が聞こえた方へと目を向ける。こんな夜に、攘夷浪士達の争い事だろうか。重体の沖田さんが運ばれてきたのは、それから間もなくのことであった…――



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