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慶応3年3月20日
御陵衛士として、斎藤さんと平助さんは伊東さんと共に此処を去って行ってしまった。あんなに賑やかだった幹部は、今では大人しい。
幹部が居間に集められた。沖田さんと共に行くと、女の子と女性が居た。こんな時間に珍しい客人だ。女性のほうは、吉原の君菊さんではないか。今では忍のような格好をしてはいるが。どうやら二人は千鶴に用があるらしい。どうやら女の子の方は千鶴の友人らしいのだ。しばらくして、千鶴を呼びに行った副長が千鶴と共にやって来た。千鶴は女の子の顔を見ると「お千ちゃん!!」と嬉しそうに笑った。



「私ね、千鶴ちゃんを迎えに来たの」
「時間がありません。すぐにここを出る支度をしてください」



二人の言葉に、私達は驚く。急に現れ、何を言っているんだ、この人達は。千鶴に「お千ちゃん」と呼ばれた女の子は、意を決したように口を開き「鬼と名乗る男、風間千景を御存知ですね?」と聞く。私は会ったことが無いので、どういう人物かは分からない。だが、自ら「鬼」と名乗るのは……。



「実は、私も鬼なのです」



その言葉に、誰もが唖然とする。どういうことなのだろう。



「こちらは旧き鬼の血筋、鈴鹿御前の末裔・千姫様。そして、私は代々お仕えしている忍びの者です」
「……なるほどな。新選組の情報を得る為に近づいたわけか」



眉間に皺を寄せて君菊さんを睨む副長。副長の言葉に、君菊さんは肯定するかのように微笑んだ。



「争いを好まぬ鬼の一族は、力を利用しようとする時の権力者から身を隠して暮らすうち、人との交わりが進みました。純血の鬼の一族も少なくなり、西国で最も大きいのは風間家。そして東国では…――雪村家」



”雪村”は千鶴の姓だ。今の長い話、作り話にしては少々出来過ぎている。ということは、千鶴が”鬼”というのは本当のことなのか。千姫の言葉に、千鶴は以前傷ついてしまった腕を擦る。「思い当たることがありそうね」と言う千姫の言葉に、千鶴は気まずそうな顔をする。そして、以前出来てしまった傷を晒す。だが、そこには傷など無かった。何故……、確かにあったのに。



「きっと……、私が鬼だからかもしれません」
「血筋の良い鬼同士が結ばれれば、より強い鬼が生まれる。おそらく、それが風間の狙い。薩摩の仕事で京を離れていた風間達が戻って来ています。近々彼女を奪いに来るでしょう。風間が本気で仕掛けて来れば、あなた達人間は無力です。ですから、私達に千鶴ちゃんを任せてください」



一気に話され、私は少し混乱する。えーっと、つまり、千鶴は”風間”という男に狙われている。もし風間の手に渡ってしまえば、強制的に風間の妻にされ子供を産まなければならなくなる。それで千鶴は幸せになれるはずもない。千鶴もそれを望んでいない。……と、いうことかな?



「雪村君、君が決めるといい」
「遠慮はいらねぇ。お前の正直な気持ちを言ってみろ」



局長と副長の言葉に、千鶴は俯く。そして、おずおずと口を開いた。



「……皆さんにご迷惑をかけるかもしれません。でも私…――ここにいたいです」



千鶴の言葉に、私は頬が緩むのを感じる。それは私だけではないようで、沖田さん達も笑みを浮かべていた。




 ***




「此処までで良いわ。ありがとう」



話が終わり、私は千姫と君菊さんを見送る為、二人と共に門へと向かった。しかし、門を目前に千姫に止められてしまう。「しかし、」と口を開けば「私達、こう見えて他の人より強いのよ?」と自信満々の笑みを浮かべられる。確かに、強くなければ千鶴を引き取りにはこないだろう。



「千鶴のこと、気にかけてくださって有難う御座います」
「友人だもの。千鶴ちゃん、無理をしないと良いけど……」



眉毛を八の字にし、そう言う千姫。千鶴は良い友人を持ったな。新選組に入隊する前は女友達は居たけれど、入隊してからは会ってもないし作ってもいない。だから、少し千鶴が羨ましい。「道中、お気をつけて」と言い、二人に向かって頭を下げる。二人は「また」と言い、門をくぐって行ってしまった。これから、更に厄介な事が起こりそうだ。



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