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「松本先生、こちらで宜しかったでしょうか?」
「ああ、充分だ。ありがとう」



今日は松本良順先生が、健康診断の為やって来た。私は隊士達の健康診断が終わった後、松本先生に診てもらう予定だ。私は持ってきた小さな手鏡を松本先生に渡す。この手鏡は、どうやら見えない歯の裏を確認する為に使うらしい。



「見ろよ寧!! 俺のこの筋肉!!」
「ちょ、寧を巻き込むなよ新八っつぁん!!」



私に筋肉を見せつける新八さん。ああ、この上なく面倒くさい。昔からこうやって筋肉を見せつけられることがあったが、その度にあしらうのが大変だった。新八さんへと視線を向けると、新八さんは「どや」と言わんばかりの満面の笑みで筋肉を浮かせている。そのことにわざとらしく「はあ」と溜め息をつく私。



「新八さん、後ろが閊えています。診察が終わったのなら速やかに着物を着て退場なさってください」
「左之ぉぉおお!!! 寧が反抗期だぁぁぁあああ!!!」
「いや、寧は尤もな事を言ってると思うぜ?」
「……寧も大変だな……」



泣き喚く新八さんに再び溜め息をつきながら、私は松本先生に「失礼します」と言って部屋を出た。ふぅー…、後で新八さんにネチネチ言われそうだな。




 ***




松本先生に、沖田さんと共に庭に呼び出された。呼び出された庭は、人通りの少ない場所。少し、嫌な予感がする。



「……結論から言おう。――お前さんの病は労咳だ」



松本先生の言葉に、私は驚きを隠せなかった。体が固まり、松本先生を凝視してしまう。松本先生の視線の先に居る沖田さんを見ると、特に驚いた様子もなく、ただ無表情だった。涙が出るのを必死で堪え、二人の会話を静かに聞く。



「なんだ。やっぱり、あの有名な死病ですか」
「……驚かないのか?」
「自分の身体ですから。……でも、面と向かって言われると、さすがに困ったなあ」



笑いながらそう言う沖田さん。私は、ぎゅっと拳を固く作った。掌に爪が喰い込んで痛い。



「笑いごとではなかろう。今すぐ新選組を離れて療養しないと――」
「――それはできません」



松本先生の言葉を遮る沖田さんに、私は反対することなどできなかった。それは、沖田さんがどんな想いで新選組に居るのかを知っているからだ。沖田さんの覚悟は、私より明らかに大きく、揺るぎない。



「命が長くても短くても、僕にできることなんてほんの少ししかないんです。新選組の前に立ちふさがる敵を斬る……、それだけなんですよ。――ここにいることが、僕の全てなんです」



意志の強いその瞳に、松本先生は「覚悟は分かった」とやむを得ず了承する。しかし、「無理はするなよ」と注意をしておく。その言葉を聞いて、沖田さんは少し笑みを浮かべ「あ、近藤さん達には言わないでくださいよ、先生」と言う。沖田さんの言葉に答えるかのように、松本先生は私達の元から去りながらも手を挙げる。残された私と沖田さん。沖田さんは私にも「さっきの言葉、寧ちゃんもだからね」と釘をさした。私は頷き、「言える筈もありません」と答える。その言葉に満足したのか、沖田さんは少し笑う。



「……では、私は松本先生を見送りに行って参ります」
「うん」



沖田さんの返事を聞き、駆け足で松本先生が言った方へと向かう。涙が少し流れてくるが、袖で必死にゴシゴシと拭く。この場に斎藤さんが居たら「目が赤くなるだろう」と叱られるだろう。それでも、涙は止まってはくれなかった。



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