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慶応元年閏5月
新選組が長州に協力的だった西本願寺へ無理矢理屯所を移した後、江戸から平助さんが帰ってきた。峠を越えた山南さんは、あの日以来外へは出なくなった。それは、山南さんが”死んだ”ことになっているからだ。いや、実際それだけでは無いが。



「流れが変わってきたね」
「そうですね……」



沖田さんの言葉に、私は頷く。悪い方向へ行かなければ良いと願うが、もう既に悪い方向へ行っているのかもしれない。行方不明の綱道さん、新撰組入りしてしまった山南さん。私達が行く先に、光があるとは思えない。



「お、総司と寧ー!」



前方から平助さん率いる八番隊が歩いてくる。その中には千鶴も居る。「そっちはどうだった?」と聞く平助さんに、「別に、普段通りだね」と返答する沖田さん。しかし、「でも、将軍上洛の時には忙しくなるんじゃないかな」と続けて言う。



「上洛って……、将軍様が京を訪れるんですか?」
「はい。だから局長ってば、凄く張り切ってらっしゃるんです」



私の言葉に、張り切る局長の姿が想像できたのか千鶴がクスッと笑った。しかし、平助さんの表情は暗い。微妙にしか聞こえなかったが「近藤さんはそうだろうな……」と言った気がする。声をかけようかと思った矢先、沖田さんが咳込んだ。慌てて沖田さんの背中をゆっくりと擦る。千鶴が「沖田さん、大丈夫ですか……?」と心配そうに声をかけたその時、沖田さんがバッと何処かを見た。視線を辿ってみると、女の子が二人の男に絡まれているではないか。



「やめてください! 離してっ!!」
「民草のために攘夷を論ずる我ら志士に、酌の一つもするのは当然であろう!」



なんという言い草だ。私は沖田さんと顔を見合わせ、頷く。そして、絡まれている女の子と男達の元へと向かった。



「――…やれやれ、攘夷って言葉も君達に使われてるんじゃ可哀想だよ」
「嫌がっているではありませんか。その手を離してさしあげたらどうです?」



いきなり現れた私達の登場に、男達は動揺している。女の子は驚いているようだ。女の子と目が合い、軽く頭を下げる。すると、女の子は驚きながらも頭を下げてくれた。「浅黄色の羽織……、新選組か!!?」と動揺する男達に対し、「知ってるなら話は早いよね。どうする?」と笑みを浮かべながら男達に聞く沖田さん。その余裕の笑みを見て、男達は「覚えてろ!!」と捨て台詞を言って逃げて行ってしまった。男達の様子を見て、沖田さんは溜め息をつく。と、女の子が私達を見て「ありがとうございました」と頭を下げた。



「私、南雲薫と申します」
「あ、これは御丁寧に……」



思わず軽く頭を下げる。ふと、沖田さんがジッと南雲さんを見ているのに気づいた。そして、何を思ったのか千鶴の腕を引っ張って南雲さんの隣に並ばせる。これはこれは……。



「やっぱり……、よく似てるね」
「はい、他人とは思えない程……」
「そっかぁ? 俺は全然似てないと思うけどなぁ」
「いや、似てるよ。この子が女装したら、そっくりだと思うな」



そう言う沖田さんの目は、何かを探るような目をしている。その目に気づいたのか否かは分からないけれど、南雲さんはフイッと私達に背を向けた。千鶴が声をかけようとするが、南雲さんはそれを遮るかのように私達を振り返る。



「きちんとお礼をしたいのですけれど、今は所用がありまして。このご恩はまたいずれ、……新選組の沖田総司さん」



……あれ、私には無いの? 去っていく南雲さんの背を見ながら、私は思わずそう思ってしまった。



「おいおい、ありゃ総司に気でもあるんじゃねーの?」
「今のがそう見えるんじゃ、平助は一生左之さんとかには勝てないよね」
「どっ、どういう意味だよ!?」



平助さんの一方的な喧嘩を聞きながら、私は一人落ち込むのであった。



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