09


元治元年10月
あの衆道である伊東甲子太郎さんが新選組に入隊した。あの人は、私が女であることを知らない。その為、私にまで色々と手を出そうとしてくる。……苦手だ。




 ***




元治2年2月
新選組隊士が次々と増えて行く。それは喜ばしいことなのだけれど、今居る新選組屯所が狭くなっていってしまう。その為、新しい屯所を”西本願寺”にする予定らしい。西本願寺といえば長州に協力的だけれど、どうやら強引に押し切るつもりのようだ。



「……もう寝たらどうですか?」



夜。空は暗くなり、辺りを静寂を保っている。小姓である為、沖田さんが寝るまで沖田さんの部屋に居なければならない。だが、沖田さんはお酒を飲み続け、寝る様子を見せない。私はそろそろ眠くなってきたのに。



「ああ、寧ちゃんはおこちゃまだから眠いんだね」
「おこちゃまではありません。……眠いのは確かですけど」
「この時間帯で眠くなるのはおこちゃまである証拠だよ」
「……、それより寝てください。御容態が悪化したらどうするんですか」



私の言葉に「えー」と口を尖らせる沖田さん。この子供じみた表情、昔から変わらない。



「…………」
「なんですか、人の顔をジロジロと見て」



私の顔をじっと見る沖田さんを、私は眉間に皺を寄せて睨む。好きな人に顔をじっと見られるのは……、だいぶキツい。顔が赤くならないように、必死に沖田さんを睨む。今が夜で良かった。暗い中では、私の顔色などあまり分からないだろう。何か言おうと思った時、「寧ちゃんは……、」と言った。しかし、その先を言わない為「はい」と返事をすると、再び口を開いた。



「寧ちゃんは、僕から離れていかないよね……?」



弱々しい声に弱々しい表情。滅多に見ない沖田さんの姿に、私は内心驚く。私は視線を畳に下げ、「分かりませんよ」と静かに言う。



「この御時世物騒ですからね、いつ死ぬか分かりません」
「…………」
「でも今は、私より沖田さんのお体が心配です」



そう言うと、沖田さんは「そっか……」と呟いた。沖田さんと目を合わせづらい。そう思っている時、グイッと腕を引っ張られた。思わず「はっ!?」と声をあげてしまう。それと同時に、私の顔は何かに当たる。



「……沖田さん……?」



私は、いつの間にか沖田さんに抱きしめられていた。私の顔に当たった”何か”は沖田さんの胸板だったようだ。何でこうなった。顔を上げて沖田さんの顔を見ようにも、沖田さんの手が私の頭に乗っかっている為、顔を上げることができない。先程のように名前を呼んでも、返事さえしてくれない。うーん、どうしたものか。正直、異性(好きな人)に抱きしめられていることは、とてつもなく恥ずかしい。でも嬉しい。でも恥ずかしい。



「急にごめんね」
「あ、いえ……」



ゆっくりと放された。沖田さんの顔を見上げると、悲しそうに微笑んでいた。どうしてそんな表情をするのか分からなくて、私はただ困惑した。



「誰か!! 誰かいませんかーっ!!」



静寂の中、千鶴の声が聞こえた。只事ではない焦った声に、私と沖田さんは刀を持って千鶴の声がした方へと走る。途中で副長や斎藤さん達と合流しながらも、千鶴の声がした部屋へと辿り着いた。副長が勢いよく襖を開けると、部屋の中には変若水を飲んだであろう山南さんと千鶴が居た。白髪で紅目である山南さんは刀を持って自分を刺そうとしている。それを、千鶴が止めていたようだ。副長が素早く手刀で、山南さんが持っている刀を落とす。ゴトッ、と音を立てて畳の上へと落ちる刀。



「よかっ、た……」
「っ千鶴……!」



私達の登場に安心したのか、千鶴は気を失って倒れてしまう。私は千鶴を慌てて受け止める。山南さんを見ると、山南さんは沖田さんと斎藤さんによって取り押さえられている。副長は辺りを見渡し、いつの間にか来ていた新八さんと左之さんに「新八は前川邸、原田は八木邸を見張ってくれ。この部屋には誰も近づけるな」と指示を出した。次に斎藤さんへと目を向け「斎藤は中庭で待機しろ。伊東一派の警戒と牽制を頼む」と言う。副長の言葉に、斎藤さんは静かに頷いた。



「総司と寧、お前達は…――」
「――…分かってますよ」



副長の言葉を遮って言う沖田さん。山南さんを見る沖田さんの表情は、なんとなく切ない。……先程の弱々しい沖田さんは、これを予想してのことだったのだろうか。



「いざという時は、僕が楽にしてあげますから」
「……ああ。どうせ今夜が峠だろ。生きるか死ぬか……、」



――狂うかのな。



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