変魂-へんたま- | ナノ

『鉢屋三郎? え、ちょ、お前何様』


翌日。
この世界に来て二日目。なんだか急に目が覚めてしまった。目に映るのは和風な壁。どうやら私は、横向きで寝ていたようだ。太陽の光が障子越しに部屋へと射し込んでいる。
……あれ、何かがおかしい。
朝だから明るいはずなのに、何故か私がいる場所だけ暗い。ふと、自分の手に誰かの手が添えられた。え、ちょ、なに!? コレまさか添い寝ってやつ!? 私は驚いて恐る恐る天井へと顔を向ける。



「っい……!」
「ぐっ……!」



天井へ顔を向けると、あと少しでキスができそうなくらい近くに狐のお面があった。驚きすぎて変な声を上げて、狐のお面を被った人物を肘で殴る。その人物は私の肘攻撃を食らい、私の隣に倒れる。その隙に私は立ち上がり、逃げる為に障子へと手をかける。だが……――、



「――待て!」
「っうあ!」



反対の手を狐面の人に掴まれる。その反動で、スパァンッ!、と思いっきり障子を開けてしまう。その出来事に「あ」と言って、私の手を放す狐面の人。
そのままで終われば良かったものの、勢いは止まらなかった。
私は足がもつれ、縁側で転びそうになる。が、一本足でケンケンをし、バランスを取ろうと試みる。しかし、上手くいかずに自分の足と足を絡ませてしまう。



「嘘っ!?」



縁側から足が浮き、体は庭へと宙に浮く。え、ちょ、嘘でしょ。何コレ有り得ないんだけど。口角を引き攣らせてしまう。顔はきっと冷や汗が出て、真っ青になっていることだろう。でも私は負けない! 右足を地面に付け、態勢をを整えようとする。



――ズボッ
「づあぁぁあっ!?」



地面に足を付けた瞬間、足場が無くなった。ドッ!、と尻から落ちる。何なんだコレ。私は何故朝から不運に見舞われているんだ。涙目になりつつ、痛む尻を手で擦る。



「い、た……」



起きたばかりだというのに、この上なく目は覚めていて体は泥だらけ。落とし穴の中で、どうやって出ようか考える。とりあえず、土に無理矢理指を喰い込ませる。足はどうしようかと思ったけれど、手とは反対の足を土に突っ込む。おっし、コレなら登れる。もう片方の手で、更に上の土に指を喰い込ませる。



「っはあ……」



変な手段ながらも、なんとか登りきることが出来た。しかし、私の指先はボロボロだ。まあ、仕方ないだろう。ふと、前方から「あっはははは!」という笑い声が聞こえた。私は驚き、その笑い声をあげた人物を見る。



「ちょ、善法寺先輩みたいに不運……! つかっ、自分で蛸壺から上がってくるとかっ、ははっ……!」



爆笑しているのは狐面の人。そうだ、コイツが居たのを忘れていた。……ていうか、コイツ私が落とし穴に落ちたのに助けてくれなかったな。嫌な奴。



「今回の天女様は愉快な奴だな。名前はなんだ?」
「……神田、冬紀……」
「そうか、冬紀か」



そう言って、狐のお面を取る目の前の人物。面を取ると、そこにはニヤリと笑った不破雷蔵の顔があった。しかし、狐面をしていた事と、声が山崎さんである事により、目の前の人物は鉢屋三郎だということが分かる。



「知っているとは思うが、私は鉢屋三郎。今日のアンタの監視を任せられた」
「……それ、本人に言って良いんですか?」
「いいや、駄目だろうな。しかし、不本意だが私はアンタが気に入った」
「…………」
「眉間に皺を寄せるな。昨日から監視していたが、アンタは今までの天女とは違うようだからな」



はあ、そうですか。「どこにも気に入られる要素は無かった」と、私はそう断言できる。鉢屋三郎はなんだか感情が掴めない。
ふと、「アンタ、なんか楽しくなさそうだな」と言われ、逸らしていた視線を鉢屋三郎に向ける。……楽しくなさそうなのは、どちらかというとお前なんじゃないか。



「今までの天女はキャーキャーうるさいくらい喜んでたぞ。それなのに、アンタはずっと無表情だ」
「あー……、」



まあ、私は死んでるわけだし。何故かこの忍たま世界で生きてるわけだし。しかも疑われて監視されて避けられてるみたいだし。



「実を言うと、私この世界に来たかったわけじゃないんです」
「なに?」
「本当は、ずっとずっと、行きたい世界があったんです。でも、よく分からないけど、この世界に居て……」



呟くように言う私。チラッと鉢屋三郎を見ると、驚いた表情をしていた。アレ、何か爆弾発言をしただろうか……? どうしようか困っていると、「アンタの行きたい世界って?」と聞かれた。その言葉に、慌てて部屋の中に入り、「これ」と言いながら銀魂の単行本の一巻を見せる。鉢屋三郎は「これ……?」と首を傾げ、まじまじと銀魂の単行本を見る。



「これ、本だろう?」
「はい」
「……借りて良いか?」
「え、構いませんけど……」



どういう風の吹き回しだろう。まさか忍たま、しかも鉢屋三郎に銀魂の単行本を貸す日が訪れようとは……。「それから、」と言葉を続ける鉢屋三郎。思わず何を言われるのかビクビクしてしまう。



「――…私の事は”三郎”と呼んでくれ。敬語も無しで良い」



そう優しく微笑んで言う鉢屋三郎。私は「は?」と間抜けな声を出してしまう。
いやいやいや、急にどうした。なんで仲良くしようとしてくれるの。それも作戦ってやつ……?
私の反応が気に食わなかったのか「なんだよ、私が味方してやろうとしてるのに」とムスッとした表情で言う鉢屋三郎。おいおい、戸惑うからやめろよ、その表情。とりあえず私が言いたい事は…――、



「18歳な私はアンタより年上なんだから敬語使いなさい! それと、私の事は”冬さん”もしくは”冬ちゃん”と呼べ!」



その時の三郎の顔はポカンとしていて傑作でした。



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