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『委員長方! 予算会議の書類をどうぞ!』


彦四郎と夕餉を食べた後、私は彦四郎と別れて事務室へと向かった。まだ仕事が残っている為、なかなか部屋に戻ることができないのだ。ああ、いつも居た部屋が恋しい。伊作と三郎も恋しい。あの二人、何してるかなァ。……伊作は不運に見舞われてそうだな。



「吉野先生、只今戻りました」
「ああ、お帰りなさい」



事務室に戻ると、吉野先生は机に向かって何かを書いていた。何を書いているのか全く分からないけれど、吉野先生がまだ夕食を食べていないことは分かる。
「休憩なさったらどうです? あまり詰めてやられると、お体に障りますよ」と私が言うと、吉野先生は「うっ……」と言って目頭を掌で抑えた。「は?」と驚きつつ、吉野先生の顔を覗き込む。



「あの、大丈夫ですか?」
「す、すみません……ズズッ、あんなに丁寧に優しくされたの久しぶりで……」



この人どんだけ苦労してきたんだ……。ま、まあ良いか。とりあえず、吉野先生を食堂に行かせないと。



「後の仕事は私がやりますから。何が残ってますか?」
「えーと……、それでは、この書類を各委員会委員長に渡してください。夕食が済んでも、まだ委員会はやってるはずですから」
「分かりました」
「では、お願いしますね」
「はい。行ってらっしゃいませ」



吉野先生に手渡された書類を手に持ち、私は吉野先生を見送る。さぁーて、書類を届けに行かないと。




 ***




まずは見つけやすいであろう七松率いる体育委員会の元へ向かった。体育委員会が居たのは校庭。だが、そこには体育委員会だけではなく、会計委員会と用具委員会も居た。潮江と食満は何やら言い争っている様子。



「あ! 冬さんだ!」
「本当だ! 冬さーんっ!」



私を見つけた喜三太としんベヱが、キャッキャッ、と満面の笑みを浮かべながら私の腰へと抱きついた。私は頬が緩むのを感じながら、二人の頭を撫でる。チクショウ、可愛い奴等め。



「冬さん、どうなさったのですか?」
「やほ、金吾。吉野先生に頼まれて、各委員会委員長に書類を渡しに来たんだ」
「その手に持ってる紙が書類か?」
「そうそう」



七松の言葉に答え、「ほい」と、七松に書類の一枚を渡す。七松はキョトンとしながらも、書類を受け取った。「予算会議の日程時間が書かれているようだな」と言う七松の言葉に、「もうそんな時期なんですねえ」と平滝夜叉丸が言う。体育委員会が予算会議の書類を、七松の後ろから覗き込んで見ている。潮江と食満にも渡したいけれど、今は喧嘩している為渡すことが出来ない。なんで喧嘩してんだ、アイツ等。



「これ、潮江と食満にも渡しといてくれない?」



二人が喧嘩をやめそうにない為、そう言いながら七松に二枚の書類を渡す。だが、七松は首を傾げてキョトンとするだけで、受け取る素振りを全く見せない。
「自分で渡さなくて良いのか?」と言われ、「あの状態で渡せると思うか?」と呆れて言うと、 七松は少しキョトンとした後「そうか!」と、ニカッ、と笑った。そして、何を思ったのか、私の頭を豪快に撫でてきた。



「っ!? ちょ、髪型くずれるっ……!」
「なはは! 細かいことは気にするな!」
「気にするわボケ! やめんか!」



七松の手を掴んで、乱暴に放り投げる。眉間に皺を寄せながら髪の毛に手を当てると、滅茶苦茶ボサボサになっていた。とりあえず髪を結っていた髪ゴムを解き、手櫛で髪を整えて結い直す。よし、元通り。



「じゃあ、私は他の委員長に渡さなきゃいけないから行くわ」
「っえ!? 冬さん、もう行くの!?」



皆に背を向けて歩き出そうとすると、団蔵がそんなことを言った。私は歩みを止め、団蔵をニヤニヤとした面持ちで見る。



「な、なんだよ、そのニヤニヤ……」
「いやはや、まさか団蔵が私を引き留めるとは思わなくて。ふぅーん、へぇー? そうなんだー?」
「なっ! い、行けよ、もう! 引き留めたわけじゃないし!」
「本当かなー? んー?」



ニヤニヤしながらからかうと、団蔵は顔を赤くしながら反抗してきた。その姿が、どうしても愛らしく思えて仕方ない。可愛くて可愛くて仕方ない為、もっとからかいたくなる。



「こ、このっ……、冬さんのくせに生意気!」
「ムフフ、ごめんごめん」



顔を赤くしながらギッと睨む団蔵が可愛すぎて、思わずニヤニヤしながら団蔵の頭を撫でる。すると、喜三太としんベヱが目をキラキラしながら私を見上げていることに気づいた。



「どうした?」
「冬さん! それ、」
「僕達にもやってくださーい!」
「えー、仕方ないなァ」



口では「仕方ない」と言っても、本心では「是非!」と喜ぶ私。優しく二人の頭を撫でると、二人は嬉しそうに頬を緩めた。……襲っても良いですk(駄目です。 by.伊作) またもや邪魔立てするか、伊作よ。
ふと金吾を見ると、金吾が羨ましそうにしんベヱと喜三太を見ていることに気づいた。金吾もやって欲しいのかな、と思いつつ、私は「金吾もおいで」と金吾に声をかける。金吾は、驚きつつも照れながら私のもとへ来た。



「金吾は、ぎゅーっ!」
「っひゃ!?」



真正面から金吾に抱きつくと、金吾は可愛らしく驚いた。それを見ていた団蔵は驚き、しんベヱと喜三太が「良いなあ」と呟いた。



「冬さん冬さん! 私にも、ぎゅー、って!」
「でかい子供はお呼びじゃねえ、帰りな、七松」
「え、何この扱いの差」



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