変魂-へんたま- | ナノ

『自分の無力さに反吐が出る』


今日は伊作が私に大福を買ってきてくれる日だ。久々の大福、楽しみすぎて待ち遠しい。だが、今は既に午後。大福が私の元へ来るまで後少しなのだ。大福よ、早く私の元へおいで!



「冬さん! 伊作見ませんでした!?」
「っうおっと!? い、いや、見ていないけど」



いきなり私の部屋に入ってきた留。驚きすぎて変な声をあげてしまった。話を聞けば、伊作を探しているようではないか。今日、伊作は一度も私の元へ来ていない。三郎は朝餉を持ってきて一緒に食べたけど。私の言葉に「そうですか……」と力なく返事をする留。うーむ、これは只事ではない気がするな。



「何かあったの?」
「今日は伊作や仙蔵達と町へ行く約束をしていたんです。でも、伊作がいつまで経っても見当たらなくて……、授業にも出なかったし……」



思い詰めた顔でそう言う留。なんだろう、胸騒ぎがする。もしかして、虐めのことが原因で居ないのでは……。



「……留、私も探す」
「え?」
「隅から隅までくまなく探す。行くぞ留!」
「え、あ、はいっ!」



小走りで部屋を出る。辺りを見渡しながら走るが、どこにも伊作の姿は無い。居るとすれば、昼休みを利用して外で遊ぶ生徒達ばかり。とりあえず立ち止まり、留を見る。すると、留も立ち止まり私を見た。



「探した場所はどこ?」
「長屋の各部屋を。庭は今仙蔵達が探していると思います」
「そうか……」



忍術学園の敷地が広いというのは、こういう時に裏目に出るな。そう思ったその時、「留三郎!」と留を呼ぶ声が聞こえた。二人で声のした方を見ると、七松を筆頭に他の六年生達が私達の元へ駆け寄ってきていた。眉間に皺を寄せた潮江が「一通り庭を探したが、どこにも居ねえ」と、そう告げる。次に中在家が留に視線を向けて口を開いた。



「……そっちは、どうだった?」
「駄目だ。冬さんも今日は一回も見てねぇらしい」
「……そうか……」



不安がどんどん増していく。虐めが辛く、伊作が自殺でもしていたらどうしよう。あの時、私が無理矢理聞いて留に相談していれば、何かが変わっていたかもしれないのに。迂闊だった。自分がこんなに鈍い人間だとは思わなかった……。



「小松田さんにも確認を取ったが、伊作は外に出ていないらしい」
「だとしたら、やはり忍術学園の中に居るわけなのだが……」



七松と立花の言葉に、私は思考を巡らせる。忍術学園内にも居ない。外にも出ていない。なら、何故伊作はどこにも居ないんだ? もしかしたら、既に自殺もしくは殺されている可能性もあるのだろうか。……あ。



「小松田秀作は今どこに?」
「え? 門のところだけど……?」



七松の言葉に、私はすぐに小松田秀作が居る門へと向かう。私の行動に、留達は驚きながらも着いて来る。別に外出をするわけではない。ただ、少し確認を取りたいだけ。



「ちょ、冬さん!? どうしたんですか!?」
「確認だ確認。少し気になることがある」
「気になること……?」



私の言葉に首を傾げる留達。早歩きで歩いていると、だんだんと小松田秀作の姿が見えてきた。小松田秀作は門の近くで、ほうきを手に持ち掃除をしている。「すんまっせーん」と声をかけると、「あ、天女様」と私の方へ顔を向けた。



「初めまして神田冬紀です”冬さん”もしくは”冬ちゃん”とお呼びください少し時間をいただいても宜しいでしょうか少々聞きたいことがあるのです迷惑なようでしたらすみません」



リーガル○イの古○門のように無表情ながらも早口で言う私。そのことに小松田秀作は驚き、目をパチパチさせる。だが、すぐに我に返り「あ、えっと、はい」と戸惑いながら返事をした。「今日一日の出門票を見せてくれますか?」とお願いすると、「えっと、これですね」と出門票を手渡され、一通り目を通す。今日、外出したのは全部で十人。この中に、絶対居るはず。私は留達に出門票を見せる。



「この中に居る六年生は誰?」
「……音松 円蔵おとまつ えんぞうと、朧 勝之助おぼろ かつのすけ、です」



六年生は二人だけのようだ。どちらも”は組”らしい。私はそれを聞き、再び小松田秀作を向く。



「この二人、何か怪しい物を持っていませんでしたか?」
「怪しい物?」
「例えば、大きな荷物が入った袋とか、明らかに町に行くには邪魔な物です」



私の言葉に、小松田秀作は「うーん……」と考える素振りを見せる。何か思い出してくれないか見守っていると、肩を叩かれた。後ろを振り返ると、そこには不安そうな留の姿。「どういうことですか?」と聞かれ、言葉を選びながらも口を開く。



「伊作は、多分虐められてたんだろうな。原因は、きっと私。この二人は、伊作が私と仲が良いのが許せなかったんだと思う。皆が私を警戒してる中、伊作は私と仲が良い。裏切られた、そう感じても無理はない」
「だったら、俺はどうなるんですか?」
「不運な伊作ならまだしも、武力に長けてるお前に適うと思うか?」



私の言葉に、留は黙り込んでしまう。どうやら納得したようだ。「さて、どうするか」と思っていると、立花が「あの」と私に話しかけてきた。



「では、何故五年生の鉢屋三郎は何も被害が無いのですか?」
「アイツは逆に返り討ちにしそうだろ。それに、元々五年生は全体的に仲が良い」
「なるほど……」
「どういう経緯か分からないけど、伊作は人目のつかない場所に連れて行かれた可能性が高い。もしかしたら、殺される可能性も……」
「っそんな……!」



その時、小松田秀作が「あっ!」と声をあげた。どうやら何か思い出したらしい。私達は一斉に小松田秀作を見る。



「そういえば、中身が入ってる凄く大きい袋持ってました! しかも、裏山に行くとかなんとか」
「それだ!」
「裏山か、探す範囲が広いな……」
「だが、探すしかない」
「私はまだ外出許可もらってないから行けないけど、保健委員集めて手当ての準備しとく」



「お願いします」と言う立花の言葉に「うん」と言う。それを見た立花が、出門票に自分の名前を書く。続いて、留達も次々と書いていく。「冬さん、後の事お願いします」と留に言われ、「勿論」と頷く。私の返事に留は少し微笑み、裏山へと向かった。出て行った留を見て、立花達も裏山へと向かう。それを見届けた後、私は乱太郎の元へと走り出した。



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