変魂-へんたま- | ナノ

『それは歓迎会ですか? いいえ、違います』


「歓迎会……?」



いつものように自室でダラダラ過ごしていた。伊作は忙しいようで、今日は来ていない。
何もする事がなく、部屋の中で無意味にゴロゴロと転がる。その時、来たのが五年生達だった。私の姿を見た五年生達は呆れたり苦笑したり驚いたり。「何か用?」と聞くと、久々知が「今日、冬さんの歓迎会をやるんです!」と言った。



「料理は私が作るんです! 腕によりをかけて作るので、楽しみにしていてくださいねっ!」
「なんでですかね、とてつもなく不安ですよ僕ァ」



久々知が作る料理なんて、全部豆腐料理に決まってる。「歓迎会」だなんて上辺だけの言葉で、本当は「豆腐地獄」なのではないだろうか。ふむ、そろそろ死ぬ覚悟が必要だな。あ、既に死んでるんだった。
「僕達五年生の他にも、六年生と四年生が参加するんです」「盛り上がりますよ〜!」と言う不破と尾浜の言葉に、私は少し眉間に皺を寄せる。



「ムサい男ばっかだな。女の子いないの? 歓迎会に華は必要でしょうよ」
「「「え」」」
「華が欲しいなら、私が女装すれば良い話だろう?」
「とびっきりの美人でお願いします、三子さん」



変装の名人が女装するとなっちゃァ、期待するしかねえ。うほほ、今から歓迎会が楽しみだぜ。じゅるっ。



「ってことで冬ちゃん、準備が出来次第迎えに来ますから」
「それまで食堂には近づかないようにお願いしますね」



尾浜と竹谷の言葉に「おー」と返事をする。用を終えた五年生達は、私に手を振りながら部屋を出て行った。
歓迎会かあ……。不安要素がたくさんあるけど、伊作と三郎が居るだけまだマシだな。




 ***




「フッフッフッ、歓迎会とは名ばかりの上辺の会! 本当の目的は、上級生が集まった中で天女の本性を見定めること!」



食堂にて、ほぼ全員の上級生が集まっていた。その中でも、文次郎は一際怪しく笑っている。しかし、冬紀の性格を知っている伊作と三郎。文次郎の意気込みを見て、伊作は「あの人なら無駄だと思うけど」と苦笑し、三郎は「一言で言えば変人ですからね」と言いながら面倒くさそうな顔をあらわにする。



「これで良し、っと。先輩、料理の準備完了しました!」
「うむ。では鉢屋、天女を呼んでこい!」



兵助の料理は完成した。後は主役の冬紀のみ。そこで、文次郎は三郎に冬紀を呼んでこいと命令する。それが不満だったのか「えー、私ですかー」と言う三郎。しかし、「お前は天女と仲が良いだろう」と言われ、三郎は口を尖らせながらも食堂から出て行った。
伊作を選ばなかったのは不運だったが故。文次郎は三郎の背中を見届け「後は天女を待つだけだな」と呟く。その時、隣に居る仙蔵がクスッと笑った。



「仙蔵、どうかしたか?」
「いや、楽しみでな。――…あの人は、きっと予想外な事を仕出かすぞ」
「……?」



仙蔵の言葉を理解できず、文次郎は首を傾げる。しかし、理解できなかったのは文次郎だけではなく、周りの小平太や長次達も同じだった。
予想外な事? 必要以上に近づかれるのだろうか。もしくは変な術をかけられて操られるかもしれない。だが、仙蔵が危ない事で笑うだろうか。
含み笑いをする仙蔵と、頭にハテナを浮かべる周囲。……ただ一人だけ、汗をかきながら口角を引き攣らせ、目線を泳がす人物がいた。



「冬さん、変なこと仕出かさないでね……」



そう言う伊作の呟きは誰にも聞こえることはなかった。



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