変魂-へんたま- | ナノ

『前の天女とは違う女の人』


風呂から出た私は、伊作と三郎と話しながら自室へと向かっている。



「そういえば、私何もしなくて良いの?」
「え? どういう事ですか?」
「居候してる身だからさ、手伝いしなくて良いのかなって」
「学園長先生が言ったのならまだしも、勝手に行動するのはやめといた方が身の為だと思うぞ」
「確かに。勝手な行動をして周りに怪しまれたら殺されかねないですから」



二人の言葉に「ああ、そういう事もあるのか」と納得する。なら学園長先生が何か言うまで、下手に出歩いたり行動するのは危険だな。”何もするな”ってことか。
ふと、前方で何かにつまづいたのか、くのたまの女の子が「きゃっ!」と声を上げながら転んでしまった。その”何か”は此処からじゃ見えない。私は慌てて女の子に駆け寄る。



「大丈夫? 怪我ない?」
「は、はい……、大丈夫です」



手を差し伸べると、女の子は私の手を取ってくれた。「よいしょ」という私の言葉を合図に、女の子は私の力を借りて立ち上がる。しかし、ガクンッ、と地面に座り込んでしまう。慌てて「す、すみません!」と謝る女の子を安心させる為、「いや、大丈夫」と言い、話を逸らすために「足首痛めた?」と聞く。「そう、みたいです……」と足首を擦る女の子は、一人じゃ立てないようだ。



「ごめん、ちょっと我慢してて」
「え? ひゃっ!?」



足首を痛めて立てなくなってしまった女の子。よく見たらこの子、トモミちゃんじゃないか? まあ、今は確かめなくて良いか。
私は無理矢理女の子を横抱きする。少し腕に負担がかかるものの、幸い女の子は華奢で私より背が小さい。足元を見ると、結構大きな石があった。女の子はこの石につまづいて転んだようだ。



「伊作、医務室まで案内してくれる?」
「あ、はい。こっちです」



伊作が歩き出す。私と三郎も、伊作の後を追うように歩き出す。ふと、女の子が私をジッと見ていることに気づいた。



「そ、その、重くないですか……?」
「全然。軽いよ」
「もしかして……、天女様、ですか?」
「あー…、そう言われてるみたいだね」



思わず苦笑してしまう。女の子は私の言葉に目を丸くする。それと同時に、体が少し強張ったのを感じた。どうやら警戒し始めたらしい。すかさず三郎と伊作が「冬さんは、そんなに警戒する奴じゃない」「そうそう。”天女じゃない”って言うほどだからね」と女の子に言ってくれる。それでも彼女の警戒は解けないらしい。そんな様子に気づいたのだろう、鉢屋が口を開いた。



「それに死んでるし」
「この姿は仮の姿!! 本当はあらゆる死を司る死神なのだ! フハハ!」
「冬さん、冗談はやめてください」



私達の言葉に戸惑う女の子。混乱しているようだ。無理に弁解しようとして余計に混乱させるのは可哀想だな。少しずつ、分かっていってもらおう。



「名前は? 私は神田冬紀。”冬さん”もしくは”冬ちゃん”って呼んでね」
「あ、トモミっていいます。えっと、じゃあ、冬さんって呼ばせていただきます」



「よろしくね、トモミちゃん」と言うと、「こちら、こそ」と控え目に笑うトモミちゃん。やだ何この子可愛すぎるんですけど。襲っちゃ駄目なの? え、駄目なの?
その後、医務室で足首を捻ったトモミちゃんの手当てをした。少しトモミちゃんとの距離が近づき、嬉しくなった。



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