第7話


食堂に行くと、人がたくさん居た。綾ちゃんに手を引かれて食堂に入ると、結構な視線が私へと突き刺さった。その瞬間、私の口角が軽く引き攣った。今すぐにでも食堂を出たい衝動に駆られる。逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ。



「あら、四年生達来たわね。Aが焼き魚定食で、Bがハンバーグ定食よ」



食堂のおばちゃんの言葉に「あ、凄い。タカ丸と私が食べたいやつだ」と呟く。そんな私の言葉を聞き、「こんな偶然もあるんだねぇ!!」と笑顔を浮かべ、食堂のおばちゃんに「僕はA!!」と言うタカ丸。



「私もAで」
「僕と小雪はBでお願いしまーす」
「おばちゃん、私もB」
「はい、了解。緑子さん、Aが2つでBが3つね」
「はーい!!」



おや、奥にお母さんが居る。もう働いてんのか。そんなことを考えているうちに、お母さんが次々と定食を運んでくる。私はハンバーグ定食を受け取る為、釣竿型宝貝を腰の紐に引っ掛ける。「はい、ハンバーグ定食ね」とお母さんに出され、「サンクス」とお礼を言ってハンバーグ定食を受け取る。



「周りに男の子たくさん連れちゃって、さすがお母さんの子供ねぇ」
「ははっ、オカンにモテ期があったなんて信じられないや」
「お前今すぐ口縫い付けてやろうか」
「ゴメンナサイ」



思わずガタガタブルブル。そんな中、私のハンバーグ定食が誰かに奪われた。奪った本人を見ると、滝だった。すると、綾ちゃんが左手、タカ丸が右手を握ってきた。お?お?



「遅いよ、小雪」
「ほら、早く行きましょっ」



混乱していると、二人に手を引かれた。綾ちゃんとタカ丸の前には、滝と三木。後ろからは食堂のおばちゃんの「お残しは許しまへんでー!」と言うお馴染みの言葉が聞こえた。



「お、あそこ空いてる」



三木が先頭に、空いている席へと向かう。相変わらず、私の手は綾ちゃんとタカ丸に繋がれたまま。空いている席に適当に座る。隣に綾ちゃんとタカ丸。向かい側に滝と三木。二人は「何故お前が隣なんだ!!」「お前が後から座ったんだろ!!」と喧嘩をしている。こういう時は無視だ。巻き込まれたくないし。



「――モテモテだな、小雪」



頭上から声が聞こえた。後ろを向くと、お兄ちゃんと善法寺伊作、食満留三郎が居た。もしかして保健室繋がりで仲良くなったのだろうか。お兄ちゃんの言葉に、私はニヒッと笑う。



「ドヤァ。これぞ両手に花!」
「二人とも男だけどな」
「可愛いから良いんだよ」



そう言うと、何故か溜め息をつかれた。心外だわ。キッ、と睨むと「じゃ、俺等行くわ」とスルーされてしまった。チッ、後で嫌がらせしてやろう。気を取り直し、再び夕食に向き直る。



もぐもぐ。ゴクン。
「美味で御座る」



食堂のおばちゃんの料理は絶品だ。まるで戦国の大名が食べているような料理。いや、もしかしたら、それ以上かもしれない。それくらい、食堂のおばちゃんが作る料理は素晴らしい。



「小雪さんって、美味しそうに食べますね」



ふと、三木が私に顔を向けてそう言った。「ん? そう?」と聞くと、三木は笑顔で「はい。なんだか更に食べたくなります」と言った。私は嬉しくて、「あっははあ、三木は素直で可愛いなあ」と言う。私の言葉に、三木は顔を真っ赤にしながら固まってしまった。私は「ふふ」と笑みを浮かべる。



「ふむ、確かにこれは絶品だ」
「ね、本当に絶品だよね。っておいゴラ、テメェ何ナチュラルに私の定食食ってんだ」



いつのまにか、滝と三木の間に私のハンバーグ定食を食べている人間姿の太公望殿が座っていた。いきなり現れた太公望殿に、私達は驚く。だが、太公望殿は何食わぬ顔で私のハンバーグ定食を食べ続ける。



「口が悪いぞ、小雪。かぐやを見習え」
「その前にお前の食ってるものなんだ、答えろ」
「お前のハンバーグ定食だが?」
「”当然だろ”って顔してんじゃねぇよ。私の食いかけだろうが」
「仙人とはいえ、お腹は空くものだ」
「だったら何故私のを食べる? 新しく持ってこいや」



私の文句を聞き流し、まだ食べ続ける太公望殿。ああ、コレはもう何を言っても駄目だ。私は額に手をあてて溜め息をつく。すると、綾ちゃんにクイクイッと着物を引っ張られた。その動作可愛いお持ち帰りしたい。



「小雪、僕のひと口あげる」
「え、良いの!? ちょ、綾ちゃん本気で私の弟になりなよ!!」
「うん、なる。氷室喜八郎になる」
「よし、お前は今から私の弟だ」



そんな会話をしていると、何故か周りから和んだ視線が向けられた。うん、なんだろう。凄くね、違和感だよ。普通は殺気とか向けられるのにね。



「はい、あーん」
「え、やだ可愛い。あー…ん」



パクッ、と食いつく。もぐもぐ、と頬張る私。うへうへ。綾ちゃんから貰ったハンバーグ美味。その時、綾ちゃんが「あ」と呟いた。どうしたのだろうか、と滝達と一緒に綾ちゃんに視線を向ける。



「僕の食べかけハンバーグ、小雪が食べたでしょ? ――…間接ちゅー」
「……くあっ!!」
「小雪さんが壊れた!!?」



可愛いことを言うので思わず抱きしめちゃいました。ぎゅーっと抱きしめると、「苦しい」とは言うけれど嫌がらない綾ちゃん。そんな私達の姿に呆れたのか、太公望殿が「おい小雪。顔が緩みすぎだぞ、引き締めろ」と言ってきた。おおっと、いけねぇ。慌てて綾ちゃんから離れる。涎は出てない。大丈夫だ。



「お、皆食べ終わっちゃったんだ」
「小雪さんが遊びすぎなんです」
「小雪さんの夕餉、半分は太公望さんが食べちゃいましたしね」
「だが挫けない」



その後、食べ終わった為、皆が立ち上がる。私も立ち上がるが、やり残したことを思い出し、太公望殿に手を差し出す。太公望殿は私の意図に気づいたようで、釣竿型宝貝となって私の手元に戻ってきた。すかさず、釣竿型宝貝を腰の紐に引っ掛ける。そして、空の食器が乗ったお盆を持つ。



「「「「「御馳走様でしたー」」」」」
「はーい、お粗末様でした」



満腹感に満たされつつ、私達は食堂を出た。さて、これから仕事かな。

 
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