第38話


「――…それぞれの国から軍師達が集まっている……、もしかしたら勝てるかもしれないな」



ぽつり、と呟いた太公望殿。私達は太公望殿に目を向ける。だが、妲己は眉間に皺を寄せて「無駄よ。遠呂智様には勝てない」と言う。それをきっかけに、「人の子の力を侮ると、また痛い目を見るぞ?」「フン、精々粋がっていればいいわ!」口喧嘩を始める太公望殿と妲己。日常茶飯事となってしまっている為、溜め息しか出ない。全く、飽きないなあ。



「小雪さん小雪さんっ」



私の袖を引っ張る左門。顔は私を見上げている為、自然と上目使いになっている。くそ、可愛いな。襲っちゃおうかな。デレデレしながら「どうしたの?」と聞くと、



「あそこに変な人いますけど、誰ですかね?」



と返事が返ってきた。左門が塀の上を指さす。そこには、何やらキョロキョロと辺りを見渡している雑渡昆奈門と諸泉尊奈門がいた。誰かを探しているのだろうか。しばらく見ていると、雑渡昆奈門が塀付近を通るお母さんに「おや、緑子さん」と声をかけた。



「偶然この辺を通ったので、少し寄ってみたんです。貴女に会えて良かった。相変わらず美しい」
「相変わらずお世辞が上手!」



仲良さげに話すお母さんと雑渡昆奈門。私は思わず固まってしまった。まさか知り合っていただなんて。隣のハチと鉢屋が「あれは、タソガレドキ忍者隊組頭・雑渡昆奈門……?」「隣に居るのは、部下の諸泉尊奈門だ」と会話するのが聞こえる。いやいや、冷静に分析しなくて良いんだよ。あの人は曲者でしょ? 捕まえなくて良いの……?



「お、雑渡さんと諸泉さんじゃん」
「あはは、相変わらず昆奈門さんは緑子さんが好きですね」



その時、お兄ちゃんと善法寺が現れた。善法寺の言葉に、私はピシッと石のように固まる。は? 今なんと? なにかの冗談では無いのですか……? 雑渡昆奈門がお母さんに惚れている? しかも、お母さんを口説いている?私は夢を見ているのではないのか。



「そんなに信用ないなら、連れ去って認めさせてあげますよ」
「え?……っ!!」



雑渡昆奈門がお母さんの首裏に手刀を落とす。それにより、お母さんが気絶して倒れてしまう。雑渡昆奈門が気絶したお母さんを担ぐ。は!!? いやいやいや!!



「雑渡さぁぁぁああん!!! 何してるんですかぁぁぁあああ!!!?」



お兄ちゃんが雑渡昆奈門に向かって叫ぶ。それにより、雑渡昆奈門と諸泉尊奈門は私達に目を向ける。呑気に「やあ」と片手をあげながら言う雑渡昆奈門に、お兄ちゃんが「”やあ”じゃないですよ!!」とツッコミを入れる。



「母をどうするつもりですか!!」
「どうするつもりって……、連れ帰ってナニを」
「馬鹿ですかぁぁぁああ!!?」



ああ、神様仏様しずかちゃん。どうか私をお助け下さいませ。「もうやだよハチ、引きこもりたいよ」と遠い目をしながらハチに言うと、「駄目ですよ」と返ってきた。ちくしょう。そんな時、雑渡昆奈門と目が合ってしまった。



「あれ、君って緑子さんの娘?」
「え? ああ、まあ、そうですけど何か」



私の言葉を聞き、何を思ったのか雑渡昆奈門が「諸泉、あの娘も連れて帰るよ」と言った。その言葉に、諸泉は勿論、ハチとお兄ちゃん、義弟三人組が「はあ!!?」と声をあげた。ちなみに、義弟三人組とは、綾ちゃん、三木、左門の三人のことである。ああ、余計面倒くさいことに。私はとりあえず、何食わぬ顔でハチの腕にしがみつく。それにより、ハチは「え!?」と驚いていたが、今はスルーさせていただく。



「ごめんなさーい。私ぃ、この人と結婚する予定なんですぅ。だからー、私のことは諦めてくださーい」
「ちょ、ちょ、小雪さん!!?」



これで私のことは諦めてくれるだろう。



「まあ、私と同じように奪っちゃえば良い話だけどね」



は、マジかい。



「やだよ、混沌だよ。混沌混沌」
「お前、その言葉で某混沌忍者を呼び寄せるなよ」
「そんな力私には無いわ」



絶望しながらお兄ちゃんとそんなことを話していると、雑渡昆奈門が諸泉尊奈門に「行け」という命令を出した。それにより、諸泉尊奈門が私の元へ物凄い速さで駆け寄って来る。「きゃっ! はっちゃん、助けて!」とハチの腕にしがみつくと、「からかってません?」と呆れられながら言われてしまった。



「余裕だな!!」



いつの間にか目の前に居た諸泉尊奈門が、私の腹へ拳を決めようとしてくる。チッチッチッ、私を侮っちゃいけませんぜ。諸泉尊奈門の拳を掴み、背負い投げをする。



「なっ……!!」
――ドスンッ
「がはっ……!!」



プロの忍者ということで、容赦なくやってやった。地面へ背中を思いっきり打ちつけた諸泉尊奈門は、動けずに苦しそうに息を整えている。もしかしたら、今の衝撃で一時的に声が出にくくなっているのかもしれない。



「小雪さん、怪我してませんよね……?」
「うん、七松につけられた怪我ならあるけどね」



そう言うと、安心した笑みを見せるハチ。ハチってなんだか太陽みたいだなあ。



「――母は返してもらいますよ、雑渡さん」
「なっ……」



いつの間にか、お兄ちゃんが雑渡昆奈門からお母さんをとり返していた。私も気がつかなかった俊敏な動きに、雑渡昆奈門も驚いている。お母さんを横抱きして距離を取るお兄ちゃんに、雑渡昆奈門が目を細めて「君達兄妹、一体何者?」と聞く。けれど、お兄ちゃんは何も答えない。そのことに諦めたのか「ま、今は退散しとこっかな」と言ってシュッと消えてしまった。さすが忍者。



「……この諸泉って人は放置ですか」
「……私達も放っておこうか」

 
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