第37話


「ゴフッ!! ゲホッゲホッ、グフッ!!」
「小雪さん!? 大丈夫ですか!!?」
「死なないで小雪!!」
「なんでですか!!? 死なないって言ったじゃないですか!!」
「い、いやっ、ゲホッ……、死な、ない、っから……!!」



いきなり咳込んだ私に、ハチが背中をさすってくれる。だが、綾ちゃんと三木は私の肩を掴んだガクガクと揺らす。ちょ、激しくて吐きそう。太公望殿も妲己も面白そうにニヤニヤすんのやめてくれるかな。



「っだっは……!! やっと落ち着いてきた!!」
「だいぶ咳込んでましたね……、風邪ですか?」
「いや、ちょっと驚いて」
「驚く? 何に?」
「ああ、空から…――ってやってる場合じゃないっての!! 太公望殿、なんとかして!!」



首を傾げるハチを余所に、私は太公望殿に助けを求める。それはもう、ドラ○もんの○び太の如く。だが、太公望殿はニヤニヤしているだけ。おいおい、なんだこの野郎。「太公望殿?」ともう一度声をかけると「お前が行け」と言われてしまった。何故。そうこうしている間にも、空から落ちてくる人の速度は遅くはならない。次第に地面に近づいている為、そろそろ助けなければ。



「でも吃驚よね〜。空から落ちてくる女の子が、かぐやちゃん、だなんて」



ええ、吃驚ですよ。吃驚すぎてどうすれば良いのか……。かぐやの落下地点には、土井先生が居る。ならば、土井先生に頼めば良いじゃないか。「土井先生ー」と声をかけると「なんだ?」と言いながら私に顔を向ける土井先生。



「誰かをお姫様抱っこするような格好してくださーい」
「は? なんだソレ?」
「良いから良いから。あ、腕に力を入れて」
「え? え?」



混乱している様子の土井先生。だが、私の指示通りの格好になってくれる。動かないで。そのまま行けば、かぐやを助けることができるから。



「おい小雪、これは一体どういうk――」
――ポスッ
「――おおおおお!!!?」



無事、土井先生の腕の中へおさまったかぐや。土井先生も周りの皆も驚いている。私と太公望殿、妲己は、土井先生とかぐやの元に駆け寄る。私達が駆け寄ったことにより、残っていた他の皆も駆け寄る。太公望殿と妲己が「かぐや、起きろ」「かぐやちゃーん、大丈夫ー?」と声をかけるけれど、かぐやは目を覚まさない。



「小雪さん、土井先生が抱えている女性は一体……?」
「ああ、太公望殿達と同じ仙界の住人」



ケロッとした表情で言うと、滝は「あたかも当然のように言わないで下さいよ」と呆れた。やっぱり、何にしても慣れってあると思うんだ。ふと、かぐやが薄らと目を開けた。「かぐや、起きたか……!!」と少し安心した表情を見せる太公望殿。素直になれば良いのに。かぐやは辺りをキョロキョロ見渡す。その時、バチッ、と私とかぐやの目線が交わった。かぐやの目が丸く開かれる。



「氷室小雪様、ですか……?」
「え? あ、うん、そうだけど」
「良かった! お会いできたこと、心から嬉しく思います……!!」



私の顔を見て、頬を緩ませるかぐや。目には、何故か涙が溜まっている。



「どうか、どうか、お願いいたします!! 貴女様方にしか頼めぬことなのです!!」



私に手を差し伸べて、そう言うかぐや。かぐやの姿は、まるで神様に懇願している少女の様だ。私はかぐやに近寄り、かぐやの手を握る。すると、かぐやも私の手を握り返した。弱々しいながらも、精一杯私の手を握るかぐや。「仙界で、何かあった?」と聞くと、かぐやは目を伏せる。



「仙界ではございません。三國の世界に異常があったのです……」



異常?



「三國の世界に、妖蛇が現れました。それにより、魏呉蜀やその他の勢力も、ほぼ壊滅状態に……」



かぐやの言葉に、私は太公望殿に顔を向ける。太公望殿は眉間に皺寄せ、恐い顔をしていた。かぐやの話によると、生き残っているのは、魏の郭嘉、呉の周瑜さんと小喬、蜀の諸葛亮さんと月英さん、晋の司馬懿さんと張春華さん、董卓軍の呂布さんと貂蝉さんのみらしく、他の人達は亡くなってしまったそうだ。随分少ない人数だ。



「でも、かぐやちゃんって人間になったはずよね? どうして仙界の力が使えるの?」
「それは、仙界の皆様が、僅かながらも残った力を全て私に注いでくれたからにございます」



妲己の疑問にかぐやが弱々しく答える。とにかく、今はかぐやを休ませたほうが良い。私が見る限り、今のかぐやは万全ではないし力が弱まっている。



「土井先生、かぐやのことお願いできますか? 私の客人として迎え入れたいのですが」
「ああ、分かった。学園長先生には私から言っておく」
「お願いします」



かぐやを抱えたまま、土井先生は私達に背を向けて歩いていく。
顎に手をあてて考える。三國で残ったのは、僅か9人。私達家族や忍術学園の皆を合わせても、きっと妖蛇や遠呂智には勝てない。もしかしたら死人が多発するかもしれなくなる。綾ちゃんが考え込む私を心配してくれたのか、「小雪、大丈夫?顔、真っ青だよ」と言ってくれる。私は綾ちゃんに視線を向け、それから他の皆にも視線を向ける。



「ごめんね、きっとこの先、皆には辛い戦いが待ってると思う」
「そんな……、小雪さんが謝ることじゃ……」
「そうですよ。貴女は、俺達を助けに来てくれたのに」
「ん、ありがとう……」



心配してくれる皆。綾ちゃんは、私の腰にぎゅっと抱きついている。勝てる自信なんて無い。このままいけば、私達は負けて死ぬことになるだろう。なんとか、戦力を増やさなければ。――……せめて、戦国の人達もいてくれたら……。

 
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