第39話


「おばちゃーん!! 魚たくさん釣ってきたー!!」
「あらー、随分たくさん!! 助かるわ!!」
「でへへ」



川で大量に釣ってきた籠の中に入った魚を、食堂のおばちゃんに渡す。魚はざっと50匹を超えているだろう。釣竿は勿論、釣竿型宝貝を使った。魚が入った籠の中を覗き込み、「わあ〜っ」と言う人間姿の三蔵様。



「小雪ちゃん凄いね!! 太公望さんは一日もかかかるのに!!」
《一言多い》



人間姿の三蔵様の言葉に、すかさずツッコむ太公望殿。うん、確かに一日は長すぎだな。三蔵様と太公望殿のやり取りに思わず笑ってしまった。その際、太公望殿に「笑うな」と言われてしまったけれど。



「そういえば小雪ちゃん、土井先生が探してたわよ。自室に戻るって言ってたから、今は自室かしら」
「ん、分かった。じゃ、私は行くね!」
「ええ。魚、ありがとね!!」
「はいはーい!!」



おばちゃんと三蔵様に手を振りながら食堂を出る。小走りで目指すのは土井先生の部屋。あ、魚臭くないかな。




 ***




土井先生の自室の前に立ち、中にいるであろう土井先生に「土井先生、いますか?」と声をかける。すると、中から「いるぞ」という声が聞こえた。続いて「その声、小雪か。入ってくれ」と入室許可を貰う。「はい」と土井先生の言葉に返事をし、障子を開けて中へ入る。障子を閉めて土井先生を見ると、なんだか疲れた顔をしていた。



「わざわざ来てもらちゃってごめんな」
「あ、いえ。それで、御用は?」
「ああ、そうだな」



何やら眉間に皺を寄せて真剣な表情になる土井先生。もしかして、用っていうのは相談のことかもしれない。土井先生は少し言いづらそうに「その、私のクラスの摂津きり丸のことなんだが……」と話し始める。



「最近アルバイトが忙しいらしいんだが、私は仕事が溜まっているから手伝えなくてな」
「それはつまり、私に手伝ってほしいと?」
「ああ、そういうことだ」



ふむ、なるほど。アルバイトの手伝いか……。「良いですよ、内容によりますけど」と言うと「っ本当か!! 助かる!!」と、ガシッ、と私の手を掴んで喜ぶ土井先生。その目はとても輝いている。いや、だから内容によるってば。思わず苦笑してしまった。




 ***




「――というわけで、小雪が手伝ってくれることになった」
「マジっすか!! れでガッポリ金儲け!! ひゃひゃひゃ!!」



きり丸、乱太郎、しんべヱの部屋に来た私と土井先生。目が銭になっているきり丸。土井先生はすかさずきり丸の頭を殴る。きり丸は「いてっ」と頭を手で擦りながらも、私に顔を向けて「あ、俺、摂津きり丸っていいます!! ろしくッス!!」とニカッと笑みを浮かべて言った。私も「うん、よろしく」と返事をする。



「今日のバイトは野菜の売り込みです。小雪さんには、ちゃんとおめかしをしてもらいます!」



おめかし、ということは化粧したりとか着飾ったりとかだよね。うーん、ちゃんとした着物を着て髪の毛を整えることは良いんだけど……。「実は私、化粧ってしたことないんだよね」と正直に言うと、「ええっ!!?」と二人揃って驚かれてしまった。やっぱり、18にもなって化粧したことないって異常なのかな……。



「化粧は仙蔵の頼むか」
「それが良いッスね」



お手数かけて申し訳ございません。



「仙蔵は私が呼んでくるから、小雪は着がえてきなさい」
「あ、はい。お願いします」




 ***




「着替えてきましたっ」とバタバタと慌ただしくきり丸達の部屋に戻ってきた私。おっと、いけねぇ。着物が少し崩れている。慌てて崩れている部分を直す。



「髪の毛のほうもやったほうが良いんで、タカ丸さんも連れてきやしたー!!」
「小雪さん、こんにちはー」
「うお、タカ丸」



のほほんとしているタカ丸。その雰囲気に呑まれそうだ。立花に「こちらへ」と手招きされる。立花の隣には化粧道具が揃えられている為、今から化粧をするのだろう。私は「うん」と返事をし、立花の前へ向き合うように座る。



「では、良いと言うまで目を閉じていてください」



緊張するけれど、目を閉じる。土井先生達が居る目の前で化粧されるのは恥ずかしい。でも我慢我慢。そういえば、ハチは今頃なにをしているんだろう。

 
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