第36話


現在、乱太郎と伏木蔵に傷の手当てをしてもらっている。



「唇の角、切れちゃってますねぇ……」
「んー、道理で痛いと思った」



伏木蔵に切れている口角を小さな絆創膏で貼ってもらう。きっと殴られた衝動で切れてしまったのだろう。ヒリヒリする。七松は伊作、数馬、左近に手当てをしてもらっているようだ。七松は背中の怪我が酷い様子。最後、思いっきり叩きつけたのが原因だろう。



「次は湿布ですね」



そう言って湿布を持ち、私の殴られた頬に貼ろうとする乱太郎。しかし、私の頬を見た瞬間顔を顰める。「随分腫れてますね……」と言う乱太郎の言葉に、「ああ、殴られたときは凄く痛かったよ」と思わず苦笑しながら言う。



「いやあ、すまんな! 小雪とは本気で戦ったみたくて」
「だからって小雪さんは女性なんですから、手加減してくださいよ」
「そうですよ。顔に傷が残ったらどうするんですか」
「えー、だって腕試しだしぃー」
「勝ったのは私だけどな」
「む、次は負けないぞ!!」



できればもう二度と戦いたくないんですがね。なんて言ったって、七松には通用しないんだろうけど。乱太郎に湿布を貼ってもらった。「ありがとう」とお礼を言うと、「いいえ」と可愛らしく笑みを浮かべる乱太郎。少し痛む頬と口角。少し不便だけれど、戦いに傷は付き物だ。ふと試合場を見ると、お兄ちゃんは食満と戦っていた。食満が押され気味なので、そのうちお兄ちゃんが勝つだろう。



「小雪さん、大丈夫ですか……!?」
「ああ、ハチ。大丈夫だよ」



心配そうな表情で現れたハチ。私は笑って、その言葉に答える。すると、ハチは安心したように笑った。私とハチの様子に、乱太郎と伏木蔵が「おお」と声を上げた。



「小雪さんと竹谷先輩って、本当に付き合ってるんですね」
「スリルとサスペンスぅ〜」



二人の言葉に、思わず固まる。「な、なんで、」と顔を真っ赤にしながら言うと、善法寺が「ははっ、小雪さんも竹谷も顔真っ赤!」と笑う。その言葉に、更に顔が赤くなるのを感じる。思わず、自分の顔に風があたるように、パタパタと手であおぐ。目線は泳いでいる。ああ、恥ずかしい。もう学園中の噂になっているのか。松千代先生じゃないけど、恥ずかしい……。



「お、俺達、戻りますんで……!! 行きましょう、小雪さん!!」
「あ、うん……! 手当て、ありがとね!!」



ハチに手を引かれ、私達は保健委員達の元を離れる。背後から「お幸せにー!!」という声が聞こえる。私の手を引いているハチを盗み見ると、後ろから見ている為、顔は見えないけれど耳が物凄く赤いのが分かる。繋いでる手は熱い。ハチも、私と同じなんだな。




 ***




「あー、やっと戻ってきたー!!」



私達を見つけるなり、そう言ってきた妲己。妲己の言葉に、太公望達も私達に目を向ける。「あ、手つないでる」「ヒューヒュー! お熱いわねぇ」なんて言う綾ちゃんと妲己。「う、ううううるさい!!」と顔を真っ赤にしながらも言うと、妲己にケラケラと笑われた。



「ははっ、小雪さん可愛い! 俺、ハチから小雪さん奪っちゃおうかなあ」
勘右衛門、拷問って受けてみる気ねぇか?
「ごめんなさい」



とりあえず座ることにした。気づけば団蔵は太公望殿の膝の上に座って、試合を見ている。私が試合を行う前までは私の膝の上に座っていたというのに。試合を見ると、お父さんと立花が戦っていた。お兄ちゃんと食満の試合は終わってしまったのか。



「先程の試合、柊が勝ったぞ。負けた時の食満留三郎の悔しそうな顔は傑作だった」
「性格悪」
「いつものことだろう」



まあ、確かに。つか、太公望殿自身認めちゃってるのね。試合に目を戻すと、立花が焙烙火矢をお父さんに投げつけていた。お父さんはそれを避け、焙烙火矢は何もない地面に落ちて爆発する。……少し焦げる地面。それを見て、私は夢のことを思い出した。



「ねえ、太公望殿」
「なんだ?」



私も太公望殿も、試合に目を向けながら会話をする。



「夢のことなんだけどさ、そう。郭嘉が言ってた、私達はいずれ君達のもとに現れる、って言葉。あれは、郭嘉達が私達のもとに現れるって意味なのは分かる」
「ああ、馬鹿でも分かる言葉だな」
「うるせ。でも、軍師は覚えているよ、っていう言葉。あれは何だったんだろう?」
「……遠呂智世界でのことを思い出して考えてみるといい」



遠呂智世界での? それは、OROCHI2で良いのだろうか。試しに、OROCHI2の世界観で考えてみよう。
まずは、三國と戦国が混ざった世界に妖蛇が現れて、それにより英雄達が次々と亡くなる。生き残った馬超、司馬昭、竹中半兵衛は妖蛇に挑むも、敗北。その際に、かぐやに助けてもらった。かぐやは過去へと渡る能力を持つ。世界を変える為、かぐやの能力を使って過去に戻り、英雄達を救っていく。……最後は、遠呂智を倒し、太公望達仙人は世界を元に戻す為に、三國や戦国の人々の記憶を消して元の世界に帰す。



「……あ、そういう事か」
「ようやく気づいたか」



なんで気づかなかったんだろう。遠呂智世界で過ごした郭嘉達の記憶を全て、太公望殿達仙人が消した。なのに、元の世界に戻っても、何故か軍師達だけは遠呂智世界でのことを覚えている。郭嘉はそのことを私に伝えたかったはずだ。何故覚えているのかは太公望殿でも分からないらしい。それは、太公望でも酒呑童子でも三蔵様でも悟空でもない誰かがやったことだから。では、一体誰が? そんなこと、分かるはずがない。



「立花せんぱぁーい!!」
「頑張ってくださぁーい!!」
「なっ!! しんベヱに喜三太!! やめろ、応援するn――」
――ドッカァーンッ
「あ、自滅」



しんベヱと喜三太に応援された立花は動揺し、火を付けていた焙烙火矢を足元に落としてしまった。それにより、焙烙火矢は爆発し、立花はその爆発に巻き込まれる。煙が晴れた頃には、立花は丸焦げの状態だった。土井先生が苦笑しながらも「勝者、朝司さん!!」と言う。



「ど、土井先生!!? 私、まだ”参った”なんて……!!」
「その状態じゃ戦えないだろう?」
「そんな……!!」



ショックを受けた立花の表情は怒りに変わり、視線はしんベヱと喜三太をとらえる。「しんベヱぇぇえ!! 喜三太ぁぁあ!!」と怒る立花に、何故怒られているのか分からない二人が「はにゃ? なんで怒ってるんですか?」「お腹でも空いたんですか?」と首を傾げた。全く、この子達は……。



「えー、まあ、全ての試合が氷室家の勝利に終わったわけですが……。学園長先生、なにかありますか?」
「うむ。勝利した氷室家には、後々景品を与える!! 以上!! 解散!!」



学園長の言葉に、周りは慣れたように散らばって行く。散らばりながらも話すことは、今の試合の話。中には私を褒める言葉もあって少し恥ずかしい。私もこの場から解散しようと立ち上がったその時、太公望殿に「小雪、」と呼ばれた。



「……あれを見てみろ」



そう言う太公望殿が指さしたのは、空。私はその指先を辿り、同じように空を見る。見た瞬間、思わず咳込んだ。

 
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