第35話


小雪さんの対戦相手は七松小平太先輩。小雪さんは、もしかしたら不運の持ち主なのかもしれない。



「は、ハチ、小雪さん大丈夫なのか……?」
「わ、分かんねぇ……」



七松先輩を見て青ざめている小雪さん。だが、七松先輩はそれはそれは素晴らしい笑顔でワクワクしていた。土井先生、お願いします止めてください。俺の願い虚しく、土井先生が「では、始めッ!!」と言い、始まってしまった。その瞬間、七松先輩が小雪さんに向かって走り出す。小雪さんは青ざめながらも身構えた。小雪に向かって殴るやら蹴るやらの攻撃を繰り出す七松先輩だったが、全て避けられている。



「むっ、無理無理無理!! 速いって!!」
「小雪、頑張れー。ちなみにどちらかが”参った”と言わないと終わらないからな」
「参ったー!!」
「小雪限定で無効だ」
「土井先生の馬鹿ぁぁあ!!!」



涙目になっている小雪さん。土井先生は楽しそうに小雪と七松先輩の試合を傍観している。いつもの苦労人オーラはどうしたんですか。



「集中しないと痛い目見るぞ?」
「っ……!!」
――ゴッ
「っぐ……!!」



七松先輩の拳が小雪さんの頬に当たる。小雪さんは七松先輩に殴られたことにより、ズザザザァ!、と地面に倒れる。俺は思わず立ち上がりそうになったが、隣にいる兵助に止められた。あの暴君である七松先輩に殴られたのだ。相当痛いはず。倒れこんで動かない小雪さんに、周りがざわつく。



「ゲホゲホッ……、あー、ちょっと砂入った……気持ち悪……」



呑気にそんなことを言いながら起きあがろうとする小雪さん。顔は俯いていて見えない。「……太公望殿、隅に寄ってて」と少し低くなった声で言う小雪さん。すると、太公望さんが人間の姿になって此方に来た。俺達のもとに来た太公望さんは、俺の隣に座って団蔵を自分の膝に乗せた。



「あの、小雪さんは……」
「大丈夫だ。ククッ、今からが見物だぞ」



小雪さんを見て、楽しそうに微笑む太公望さん。その言葉と表情に、俺達は首を傾げる。



「――…行かせてもらう」



そう言って七松先輩を睨む小雪さんの目は鋭く、思わずゾッとした。七松先輩は、そんな小雪さんに冷や汗を流しながらも、ニッと笑った。小雪さんが、ダッ!、と地を蹴って、七松先輩に詰め寄る。小雪さんに拳で攻撃する七松先輩。しかし、小雪さんはいとも簡単に避ける。そして、くるっ、と一回転をして七松先輩に回し蹴りを繰り出した。



「ぐあッ!!」



七松先輩はその回し蹴りを食らい、宙に浮く。だが、宙で体勢を立て直し、地面に降り立つ。そのまま小雪さんに向かって走る七松先輩。小雪さんも七松先輩に向かって走る。



「はあっ!!」



二人の距離が近くなったところで、七松先輩が小雪さんを殴る。しかし、小雪さんはそれをしゃがんで避ける。避けられるとは思ってなかったのか、七松先輩が「何!!?」と驚く。小雪さんは隙ができた七松先輩にニヤリと笑い、自分の足で七松先輩の足を引っ掛ける。



「のわあっ……!!」



倒れかける七松先輩。だが、後ろに側転をすることによって、体勢を持ち直す。そして、七松先輩は瞬時に小雪さんの目の前へ移動する。そのまま小雪さんの首を両手で掴んで押し倒す。それにより、小雪さんの顔は苦痛に歪む。



「さあ、”参った”と言え!」
「っ……だ、れが、言うか、ボケ……!」



七松先輩の手首を掴む小雪さん。爪が刺さっているのか、七松先輩の手首から少し血が出ている。そのことに眉間に皺を寄せる七松先輩。小雪さんは、自分の体と七松先輩の体の間に、自分の曲げた足を器用に入れる。そして、そのまま七松先輩の腹部を蹴った。



「うっ!!?」



七松先輩は手首に気を取られていて、小雪さんの足の動きには気付かなかったらしい。七松先輩の体が再び宙に舞う。小雪さんは、倒立をするように七松先輩の頭を両足で挟む。七松先輩が「しまった……!!」と言ったときには既に遅し。小雪さんは足で七松先輩を力強く飛ばす。七松先輩はその力に抗えず、地面に勢いよく落ちる。



「う、ぐ……っ……参った……!!」



動けなくなってしまった七松先輩が、苦しそうにそう言った。小雪さんは、その言葉に驚いて、その場に座り込む。「わぁぁあああ!!」と、先程よりも遥かに大きな歓声があがる。



「しょ、勝者、小雪!!」
「あ? 勝った……?」



息を整えつつ、唖然とする小雪さん。場外にいた、司会である土井先生が小雪さんに駆け寄って頭を撫でまわす。



「凄いじゃないか!! あの小平太を負かすなんて! さ、保健委員のところに行って怪我の手当てをしなさい」
「でも、七松は動けないみたいですけど……」
「ああ、そうだな。伊作、小平太を運んでくれないか?」
「あ、はい! 分かりました!!」



伊作先輩が慌てて小平太先輩を担いで、試合場を出る。それを見た小雪さんは立ち上がり、土井先生に支えられながら試合場を出て行った。



(俺、ちょっと行ってきます!! by.八)
(ああ、行ってこい。by.太公望)

 
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