第32話


雀の鳴き声が聞こえる。朝なのだと気づき、「ん……」と声を漏らしながら目を開ける。すると、隣から「あ、おはようございます」と声が聞こえた。横を見ると既に竹谷は起きていて、私服姿になっていた。私は目を擦り「おはよ」と言いながら上半身を起こす。



「うっ、腰痛い……」



上半身を起こしたときに襲ってきた腰の痛み。思わずお婆ちゃんのように腰をさする。うー…、忍術学園に帰ったらシップ貼らなきゃ。私の様子に、竹谷が慌てて「す、すみませんっ!!」と謝ってきた。昨日の夜は本当に大変だった、色々と。



「あ、あの、俺のこと、帰ってからも昨日みたいに”ハチ”って呼んでくださいね?」
「え。……あー、まあ、うん」



恥ずかしくて、そっぽを向いて言う私。その顔は、自分でも分かるほど真っ赤だ。ただ名前を呼ぶだけなのに、それが好きな人相手だと凄く恥ずかしい。照れる私に、ハチが「小雪さん、可愛すぎ」とガバッと抱きついた。ハチはヘタレだと思っていたけれど、スイッチが入ると豹変するようだ。その姿はまさに獣。



――チリッ
「っん!?」



ハチが鎖骨の上らへんに吸いついてきた。いきなりのことで驚いてしまう。「な、何……?」と同様しながら聞くと、ハチは「内緒です」と言って教えてはくれない。



「さ、支度をして忍術学園に帰りましょうか」
「う、うん……」



ハチは何やら嬉しそうな顔をしているが、何なのだろうか。とりあえず、着がえることにしよう。ハチに「絶対見るなよ!!」と言うことを欠かさずに。




 ***




「あ、おかえりなさーい!! 入門票にサインお願いしまーす!!」
「ただいまー」
「ただいま帰りました」



忍術学園の門をくぐった私と八は、渡された入門票に自分の名前を書く。その時、ドドドドドッ!!、と凄まじい足音がたくさん聞こえた。



「小雪ーっ!!」
「何もされてないだろうなァァアア!!!」
「ハチ、おかえりぃー!!」
「ちゃんとお遣いできたかー?」
「豆腐うま」
「ちょっと兵助!! 豆腐食べながら歩かないの!!」



その足音は、お父さんとお兄ちゃん、ハチを除いた五年生メンバーによるものらしい。お父さんとお兄ちゃんが物凄い形相で「無事だよな!!?」と言いながら私に近寄る。「笹餅買いに行っただけなのに」と思わず呆れてしまう。



「宿に泊まったんだろ!?」
「部屋別々で、しかも遠かったし」
「うわぁーん!! 柊、小雪が冷たいよぉー!!」
「まあ、何もなければ良いんだけどな」
「じゃ、私は学園長に笹餅届けてくるから」



適当に嘘をついてお父さんをスルーし、学園長の庵へと向かう。お父さんの扱いが酷い?いつものことだから大丈夫。




 ***




「学園長先生、ただいま戻りました」と言い、学園長の許可を得て、部屋の中へと入る。部屋へ入ると、学園長先生とヘムヘムがお茶を飲んでいた。それから、土井先生と山田先生もいた。



「お取り込み中でしたか……?」
「いや、ちょうど話が終わったところだよ」
「我々に気にせず、用事を済ませちゃいなさい」
「はい」



二人の御厚意に甘え、学園長の前に行き、正座をする。学園長は「待ってました!」と言わんばかりの笑みで私を見ている。「遅くなってしまい、申し訳ございません」と言いながら買った笹餅を学園長に渡すと、「美味そうじゃのぉ……!!」と涎を垂らした。ヘムヘムがすかさず、その涎を拭く。さすがヘムヘム。



「あ、そうじゃ小雪。明日、氷室家の腕試し大会をやるから覚悟しておくように」



腕試し大会……?



「忍術学園の誰か一人と、一対一で戦ってもらうんだ」
「私の対戦相手は決まってますか?」
「まだ決まってないんだ。対戦相手はくじ引きで決めるつもりだからね」



くじ引き……。ということは、強い人に当たるかもしれないし、弱い人に当たるかもしれない。うーん、弱い人に当たると良いんだけどなあ。



「では、私はこれで」
「ああ、御苦労じゃったの」
「ヘムー」



庵を出た後、学園長が含み笑いをしていたことを私は知らない。

 
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