第29話


「学園長先生、小雪です」
「うむ、入れ」
「失礼いたします」



学園長に呼び出された。内容はまだ聞かされていないが、私に学園長に呼ばれているということを知らせてくれた土井先生が言うには「学園長のお遣い」という線が一番高いらしい。正座をし、「何の御用でしょうか?」と学園長を見て聞く。すると、学園長は何やら真剣な表情で私を見る。



「――…町に新しく出来た店の笹餅が食べたい!!」
「は……?」



真剣な雰囲気が出ていたから、何事かと思えば……。思わず間抜けな声を出してしまった。ああ、自分ってば情けない。



「今すぐ着がえて行ってくるのじゃ!!」
「何をおっしゃっているんですか! 急すぎでしょう!!」
「食べたいものは食べたいんじゃ!!」
「我が儘言わないで少しは我慢してください!!」
「いーやーじゃー!! 笹餅食べたーい!!」
「子供ですか貴方は!!」



駄々をこねて転がる学園長。ずっと見ていたヘムヘムが、私の膝へ「ヘム」と手を置いた。その表情は「こうなったら何を言っても無駄だよ」と遠い目をしていた。私は諦め、「分かりました、ヘムヘムに免じて行ってきます」と溜め息をついて言う。私の言葉を聞き、「本当か!!?」と目を輝かせて、私に詰め寄る学園長。本当に、この人は……!! 口元が引き攣りながらも「はい」と返事をする私。



「一人、忍たまを同行させるからの。そやつには門で待つように言っておる」
「分かりました。では、私はこれで失礼いたします」
「うむ!!」



障子を開けて部屋を出る。そして、再び学園長へと体を向けて、その場で正座をし「では、行って参ります」と軽く頭を下げる。「行ってくるが良い!」「ヘム!!」と言う学園長とヘムヘムの返事を聞き、障子を閉める。




 ***




「うーん、これでも無いわねえ……」
「んー、これも微妙……」



只今、出かける為に着物を選んでもらっている。さすがに太公望殿の着物で行けないからね。着物を選んで貰っているのは良いのだけれど、シナ先生も妲己も悩みまくっている。
ごめんなさい、元が駄目だから……。



「貸していただけるだけで良いので、着物はなんでも良いですよ」
「駄目よ!! せっかくだから可愛いのを着てもらいたいじゃない!!」
「そ、そうなんですか……」



どうしよう。一緒に行ってくれる忍たま待たせちゃうよ……。



「あ、これ良いんじゃない?」
「あら、素敵ね!!」
「それで良いです。早く着がえちゃいましょ」



妲己とシナ先生が選んでくれたのは、青と水色の着物だった。柄は白鳥を描いている。私には勿体ない着物だなあ。




 ***




シナ先生に着物を着つけてもらって、急いで門へと向かう。ちゃんとした着物の為、走りづらい。途中でお父さんと会ったけれど、「学園長先生のお遣いに行ってくる!!」とだけ言ってスルーさせてもらった。ごめんよ、オトン。



「……あ……」



門へと向かうと、既に誰かが待っていた。その姿をちゃんと認識したのは、目が合った後だった。「小雪、さん……?」と驚いたように言う、私の視線の先にいる竹谷。竹谷は私服姿で、誰かを待っている様子。学園長が言っていた同行人とは、どうやら竹谷のことだったらしい。思わず、目線を思いっきり逸らしてしまった。



「……その着物姿、可愛いですね」



目を逸らしてしまったというのに、竹谷が話しかけてくれた。私はぎこちなく「ありがとう」とお礼を言う。



「太公望さん、いないんですね」
「う、うん。ちょっと出かけるだけだから」
「そうですか」



どうしよう。気まずすぎて、どうすればいいのか分からない。

 
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