第28話


「小雪さん!! 大丈夫ですか!!?」
「小雪さん……!!」
「起きてよ、小雪っ……」
「なんで起きてくれないんですか……!!」



タカ丸、滝、綾ちゃん、三木の声が聞こえる。とても悲しそうな声だ。私を呼んでくれている。なんでだろう。……ああ、待って……。今、目を開けるから……。重い瞼を頑張って開ける。すると、そこには目に涙を溜めて私を心配そうに見つめる四年生メンバーの顔があった。え、何この状況。私が目を覚ましたことに驚く滝達。私は上半身を起こしながら、どういうことなのか、と頭でぐるぐる考える。



「小雪、さん……?」
「……生きてる……」
「え、そりゃ生きてるよ」
「その姿で当然のように言わないでください!!」
「僕達がどれだけ心配したと思ってるんですかぁー!!」



涙を流しながら唖然としている三木と綾ちゃん。涙を流しながら怒る滝とタカ丸。ちょ、やべ、ついて行けない。これ芝居かな、芝居なのかな。ふと、滝に言われたことを思い出し、自分の着物を見てみる。……おかしい。ただ寝ていただけなのに、着物のとことどころが焼け焦げているではないか。髪の毛を触ってみると、何本かチリチリになってるし。



「とりあえず医務室に行きましょう!!」
「そうです!! 顔色も良くないじゃないですか!!」
「うっく、ひっぐ……」
「ええええええ!!? 綾ちゃん、泣かないで!! 私生きてるから!!」



もう、何が起きているのか分からない。




 ***




三木に引っ張られながら、勢いよく医務室に入る。いきなり現れた私達に、医務室にいる皆に驚く。医務室に居るのはお兄ちゃん、保健委員会、人間姿の太公望殿、人間姿の酒呑童子、六年生。お前等六年生、よく医務室に集まるよな。



「伊作くぅぅぅん!!!」
「お願いします小雪さんの手当てしてください!!!」
「手当てしないと小雪さんが死んでしまいます!!!」
「小雪、死ぬの……? っうえぇ……!!」
「死なないからァァア!!! 生きるから泣かないでェェエエ!!!」



驚いている善法寺に詰め寄るタカ丸、三木、滝。泣き続ける綾ちゃん。ひたすらツッコミを入れる私。某混沌野郎がこの場にいたら楽しそうな表情をしそうだ。



「おい小雪、それは誰にやられた?」



いつもより声のトーンが低い太公望。私はビクッとしてしまった。「それが、その、身に覚えがなくて……」と小さく言うと、「身に覚えがない? その格好でもそんなことを言えるのか?」と言われてしまった。お、怒ってらっしゃる……!!



「ま、まあまあ、太公望さん」
「まずは小雪さんに怪我がないか診ましょう」
「……そうだな」



ムスッ、とした表情でそっぽを向く太公望殿。その姿に苦笑しつつも、善法寺が「小雪さん、こちらへ」と手招きをした。複雑な心境になりながらも、私は善法寺の元へ行く。私の姿に、「随分と着物が焦げてしまってますね……」と眉毛を八の字にして言う善法寺。確かに、結構焦げてしまっている。髪の毛だって少し焼け焦げているではないか。善法寺の前に座ると、善法寺が私の腕を取って裾を上げる。



「……あれ? 怪我してない…」



唖然としつつ、私の腕をまじまじと見る善法寺。しかし、かすり傷すら無い。善法寺が細かく私の体をチェックしていく。けれど結局、体のどこからも傷は見つからなかった。着物も髪の毛も焦げている。なのに、体にはどこにも怪我が無い。おかしな話である。



「小雪さん、ずっと何をしていたんですか?」
「え、寝てた」
「……ね、寝てただけ、ですか?」
「そう、寝てただけ」



数馬の言葉に素直に答えると「ありえない」という表情をする。そりゃそうだ。私だって信じられない。私と数馬の会話を聞いていたお兄ちゃんが「なあ、滝夜叉丸達が行ったとき、小雪はどんな状況だったんだ?」と四年生達に聞く。



「私達が行ったときには、既にこの姿で……。あ、一番最初に行ったのが喜八郎だったんです。喜八郎が私達を呼んだので」
「喜八郎、お前が行ったときはどうだった?」
「僕が行ったときには、小雪さんは普通でした。でも、急に魘され始めて、段々と着物や髪の毛に焦げ目がついてきて……。慌てて、滝達を呼んだんです」



え、でも私寝てたんだよね? 綾ちゃんの言葉に、私達は無言になる。明らかにおかしい。寝ている間に焦げる? しかも、体以外? でも、綾ちゃんが来たときには私は夢の中で……、



「あ」



私は夢を見ていた。
その夢は、いつのまにか赤壁の燃え盛る炎に包まれた船の上から始まる。私はそこに居て、目の前には曹操と夏候惇、夏侯淵の姿。三人は気づかずにどこかに逃げてしまったけれど、分かったのは曹操たちが戦、後の赤壁の戦いを行っていたということ。私は急いで船の上から脱出したわけだけど、そこには何故か、赤壁時には既に亡くなっている魏の軍師である郭嘉がいた。
そのことを話すと、お兄ちゃんは「なんで郭嘉がいたんだ?」と聞いてきた。



「それは私もよく分かんない。あ、そういえば郭嘉が、いずれ私達のもとに現れる、って言ってた。あと、消える時に郭嘉が、――…”軍師は覚えているよ”って」



私の言葉に、その場に居る全員が首を傾げる。うん、私も分からない。「覚えている」って、なんのことだかサッパリだ。ただ、太公望殿だけは顎に手を当てて何かを考えていた。

 
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