第24話


「ああ、今日の私も美しいっ! 何故私はこんなに美しいのだろう!! なあ、輪子?」
「馬鹿を言うな。一番はこの私、田村三木ヱ門だ。なあ、ユリコ?」
「なんだと三木ヱ門貴様ァァアア!!!」
「やるかこの滝夜叉丸ゥゥウウ!!!」
「ザックザックあっな掘っりたっのしいなあ〜」
「平和だな」
「平和ですねぇ」



滝も三木も可愛いのになあ……。庭で喧嘩をし始める輪子を持った滝とユリコを持った三木。皆を余所に歌いながら穴を掘っている綾ちゃん。ほのぼのとした雰囲気で縁側でお茶を飲む人間姿の太公望殿とタカ丸。縁側で座りながら滝と三木の喧嘩を眺める私。うん、日常だ。



「誰かぁぁ!! ソイツ捕まえてくれぇぇえええ!!!!」



何処からか、大きな怒声が聞こえた。私達は一斉に、その怒声が聞こえる方へ顔を向ける。そこには、大勢の生徒に追いかけられている左門の姿があった。怒声は、追いかけている一人である潮江のものだったようだ。



「どうしたのかな?」



綾ちゃん、滝、三木の三人が左門達をキョトンとした表情で見ながら、此方へ歩いてきた。追いかけているのは六年生と五年生の一部。どうやら各委員会の委員長と委員長代理の生徒達のようだ。追いかけている皆は、なにやら怒っている様子。左門が何かしてしまったらしい。



「綾ちゃん、泥ついてる」
「んお」



綾ちゃんの鼻や頬についたら泥を取る。取っても、少し泥の残りカスがついてしまって取れない。まあ、仕方ない。と、その時「こっちだぁぁあああ!!!」と言いながら、ビューン!!、と風のように目の前を走って通る左門。その素早い走りに、私達は「おお」と声をがあげる。



「小雪さんに太公望さん!!」
「なんで左門を止めてくれなかったんですか!!」
「お前等四人も!!」



私達のもとに来た各委員長、委員長代理が怒った表情で私達に詰め寄る。そんなことをしている間にも、左門は走って行ってしまい、姿が見えなくなってしまった。



「落ち着け。急に現れた者を”捕まえろ”と言われても無理がある」
「話、聞かせてもらえる?」



太公望殿とタカ丸の言葉に、委員長と委員長代理が顔を見合わせて頷く。そして、1番隅にいる立花が口を開いた。どうやら立花は委員会の仕事で生首フィギュアを整理していたら、左門が現れて荒らしていったらしい。それは立花だけではなく、潮江は大事な予算表に墨をかけられ、食満は道具をぶちまけられ、中在家は本をぐちゃぐちゃに、七松は塹壕堀を邪魔され、久々知は食べていた豆腐を地面に落とされ、竹谷は生物委員会で飼っている虫の餌を捨てられたらしい。中でも善法寺は薬草をぶちまけられ包帯でぐるぐる巻きにされ、そのまま転がって落とし穴に落ちたという不運だ。鉢屋にいたってはノリらしいが。



「でも、左門君ってイタズラするような子じゃなかったよね?」
「はい。迷子になって迷惑をかけますが、いたって真面目ですし」
「まるで誰かに操られているみたいで妙だな……」



うん、確かに。左門はこんな大勢にイタズラするような子じゃない。決断力のある方向音痴で迷惑をかけるけど。……ん? ”誰かに操られている”……?



「……おい小雪、まさか……」
「……皆まで言うな……」
「――それって、悟空さんの仕業じゃないの?」



太公望殿と項垂れていると、後ろから誰かが抱きついてきた。「悟空さんなら妖術使えるし」と言葉を続ける後ろから私に抱きついている人物は、どうやら妲己のようだ。妲己の大きな胸が背中にあたる。うむ、極楽極楽。



「”悟空”って誰です?」
「ああ、まだ会っていないのか。孫悟空という朝司の相棒だ」
「小雪さんと太公望さんの朝司さんとその悟空さんVer.ってことですね〜!」



キョトンとした綾ちゃんとニコニコしたタカ丸天使。悟空の仕業と考えれば、辻褄が合う。きっと、悟空が左門を操ってイタズラをしているんだろう。なら、悟空はどこかで高みの見物でもしているはずだ。「三蔵様に頼むか」と言う私の呟きが聞こえたのか、竹谷が「三蔵様?」と首を傾げる。



「それはそれは可愛らしくて愛想が良い悟空のお師匠様。あ、三蔵様がいくら可愛いからって惚れんじゃねぇぞ? 惚れて当然だけど惚れんじゃねぇぞ?」
「「「「(そんなに可愛いのか)」」」」



さて、三蔵様を探さなくては。ふと、妲己が私から離れた。どうしたのか、と思い妲己を見上げると、妲己は「ふふ」と笑っていた。そして、「私、三蔵さんの呼び方知ってるんだ〜!!」と言いながら得意げな表情を見せる妲己。余程自信があると見える。妲己は、スゥー、と息を吸うと、



「三蔵さぁーん! 悟空さんが皆に迷惑かけてるわよー!!」



と、大きな声で言った。いきなり大声を出した為、私達は驚く。しかし、それだけで三蔵様は現れるのだろうか。



――シュバッ
「コラ悟空ー!!」



…………現れおった。三蔵様は悟空が居ないことに気づくと「あれ?」と首を傾げた。周りの皆が三蔵様の可愛さに「おお」と声をあげた。「確かに可愛い」と言う鉢屋の言葉に、立花達が「うんうん」と頷く。惚れんじゃねぇぞ。三蔵様には悟空がいるんだから。……つか、なに竹谷まで頷いてんだ馬鹿。



「三蔵さん、悟空さんがね、神崎左門っていう忍たまを操ってるみたいなの」
「操ってる……!!?」
「そこで、三蔵様から悟空を叱ってほしくて」
「勿論だよ! 人を操るなんて、悟空ってばなんてことを……」



プンプン、と怒った表情になる三蔵様。怒っても可愛く見えるのは何故だろうか。



「皆、迷惑かけてごめんなさい!!」



バッ、と頭を下げる三蔵様。その後、すぐに頭を上げて、「今すぐ悟空を叱りに行ってくるね!!」と、走って行ってしまった。三蔵様も苦労するなあ。――…その後、悟空の悲鳴が聞こえてきて私達は一斉に青ざめた。

 
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