第23話


お兄ちゃんから、「今から保健室にくるように。」というメールが送られてきた。黙ってたけど、私達スマホ持ってんだよね。



――スパァーンッ
「兄上ー! 妹が参りましたよー!」



保健室に着いた。無表情ながらも、勢いよく障子を開ける私。中を見ると、保健室に居る全員が驚いた表情で私を見ていた。今保健室に居るのはお兄ちゃん、善法寺と食満を除いた六年生、利吉。……なんで利吉がいるんだ?



「や、やあ。気配も足音も無く現れたから驚いたよ。君は何者なんだ?」
「そこんとこ複雑なのよね。山田先生に聞けば教えてもらえると思うから」
「そ、そうか……」



利吉との会話を終わらせ、お兄ちゃんに「で、用は?」と聞きながら歩み寄る。お兄ちゃんは「まあ座れ」と言い、私はお兄ちゃんの言うように、胡坐をかいて座る。そんなに長くなる用なのだろうか。「あの、小雪さん……?」と潮江に呼ばれ「ん?」と言いつつ、潮江を見る。



「胡坐をかかないでください! あなた女性でしょう!」
「だって楽だし。つかデジャヴ」
「はあ……」



あれ、溜め息つかれちゃった。最近は溜め息つかれることが多くなった気がする。お兄ちゃんは潮江の肩に手を置いて、「そういう奴なんだ」と悲しそうに言った。失礼な人達だな、シバくぞ。



「で、お前を呼んだのは他でもない。今この場にいない伊作と留三郎のことだ」



……ああ、そういえば居ないな。
お兄ちゃん曰く、二人が喧嘩をしてしまったらしい。いつもの不運で善法寺が落とし穴に落ちた際に食満が助けようと手を伸ばしたのだが、善法寺がそれを払ってしまったらしい。食満は善法寺を助けたかったのだが、善法寺は食満を巻き込みたくなかったようなのだ。それでいざこざ発生、喧嘩となってしまったわけだ。



「なるほど……」



うーん……、でも、それはお互いにお互いのことを考えてるわけで。そんなに心配しなくても良い気がする。でも、お互いに罪悪感が生まれて顔を見合わすことさえも出来ない時だってある。



「殴り合いさせちゃえば?」



私の言葉に、皆が「ええ!!?」と声を上げる。うむ、予想通りの反応だ。しかし、立花だけは「なるほど」と納得した顔をあらわにする。理解していない七松が「何々? 何がなるほど?」と立花に聞く。



「殴り合いをさせてお互いの本音をぶちまけさせる。そうすれば、お互いの意図も分かり、仲直りするはずだ」
「んー、分からないけど分かった!!」
「お前は実戦の方が向いているな」
「よく言われる!!」



ニカッ、と言う七松。お前は正直者だね、うん。



「そういえば小雪、太公望は?」
「妲己と喧嘩してるから置いてきた。そういうお兄ちゃんも酒呑童子いないみたいだけど」
「いつの間にか寝てたから置いてきた」



酒呑童子って結構のんびり屋さんなのね。そこで、今まで黙っていた利吉が「さて、」と口を開く。そして、私の隣へ移動して、私の肩へ手を乗せる。



「私と小雪は食満君の方へ、柊さんと立花君は善法寺君の方へ行きましょう。殴り合いをさせる場所は庭。潮江君達は、殴り合いができるように庭の確保。良いね?」
「「「「おう!!」」」」




 ***




「食満ー!」
「ちょっと良いかい?」
「小雪さんに利吉さん? 珍しいですね、あなた方が俺に用なんて」



食満が居るであろう用具倉庫へと訪れた。案の定、食満は用具倉庫で委員会の仕事を行っていた。真面目にやっているところを悪いが、話をさせてもらう。早速、利吉が「直してもらいたい物があるんだ」と話しを切り出す。それに続き、私も、



「大きくて持ってこれなくてね。庭にあるから、今から一緒に行こう」



と言う。食満は「そんなに大きいんですか」と少し驚きながら、「あ、でも道具を持って行かないと」と道具を用具倉庫まで取りに行こうとする。利吉が慌てて「だ、大丈夫!!向こうにあるから!!」と食満を引きとめる。食満は首を傾げながら「そうですか」と言い、大人しく私達に着いて来てくれた。




 ***




庭についた。そこには既に善法寺やお兄ちゃん、立花達が立っていた。食満は善法寺と目が合った瞬間、善法寺を睨む。善法寺も同じようで、食満を睨んだ。早速、険悪ムードだ。二人を庭に残し、私達は縁側に避難をする。



「上手く、行くんでしょうか……?」
「微妙だね。食満が先に手を出してくれることを祈るよ」



これで二人が本当に仲直りするとは限らない。最悪、更に仲が悪くなってしまう可能性だってある。でも……、六年も同室だったあの二人になら、きっと仲直りできるはず。
先に口を開いたのは食満の方で、いつもよりだいぶ低い声で「……なんでテメェがここにいんだよ」と言った。それに対し、善法寺も負けじと「それはこっちの台詞」と食満を睨む。



「チッ、見たくねぇ顔見せやがって」
「ッ僕だって、好きで君に顔を見せてるわけじゃない!! 第一、気に入らないなら君がどっか行けば良いだろう!!?」
「ッテメェ……!!」
――ガッ!!
「ッぐ……!!」



食満が善法寺を殴った。それにより、善法寺が尻餅をつく。二人の間からは、殺気がプンプンと漏れている。良いね、そのまま本音を曝け出してしまえ。



「ッ迷惑なんだよ!! いつもいつも、僕を助けようとして!! 君まで巻き込まれて!!」
「迷惑ってなんだよ!!? こっちは、お前が怪我しないようにと思ってやってんのに!!」
「それが迷惑なんだよ!! 今日だって、君を巻き込まないように手を払ったのに勘違いして!!」
「仕方ねぇだろ!!? 巻き込まれても、不運のせいでお前がいつも怪我してんのが痛々しくてたまらねぇんだからよ!!」



お互いの言葉を頭で整理したのか、「え?」と言いながら唖然とした表情をする二人。自然と、自分の口角が上がるのを感じる。



「……留さん、そんなこと思ってくれてたの……?」
「……伊作こそ……」



唖然として見つめ合う善法寺と食満。私達はそんな二人に、歩み寄る。きっと、私達の顔は安心した顔になっているだろう。「仲直りは済んだかい?」という利吉の言葉に、食満と善法寺は何故連れてこられたのか理解する。



「良かったなー! 二人ともぉー!!」
「ったく、心配させおって」
「……仲直り、できて良かった……」
「小雪さんのおかげだな」



爆笑し合う善法寺と食満に飛び掛かる七松。苦笑する潮江に、無表情の中在家。そして、微笑む立花。これで、本来の六年生が戻った。



「やっぱ、みんな揃ってた方が良いな」
「うん、そうだね」
「イキイキしてるしな」

 
24/68
しおりを挟む
戻るTOP



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -