第22話


「はー……」と呟きながら、読んでいた三国志をパタンと閉じる。目からは、少しの涙。孫堅様が亡くなる場面を読んでいて、自然と涙が出てきてしまった。いかんいかん。文面だけでもこんなに泣けてきてしまうとは。私は相当、彼等が好きなんだな。……あ……? 手で涙を拭いていると、目の前にジュンコが居るのに気づいた。ジュンコは私を見て、舌を出している。私なにか用だろうか。



《――…太公望さんと一緒にいないなんて、珍しい》



ふいに聞こえた声。女の子っぽい声だったけれど、誰のものだろうか。辺りを見渡すが、誰もいない。……まさか、今の声はジュンコ……? 試しに話しかけてみよう。



「太公望殿は、食堂で騒いだから妲己と一緒に食堂のおばちゃんに怒られてるんだ」



私の言葉に、ジュンコが舌を動かしながら「私の言葉が分かるの?」と少し私に近づく。ああ、やっぱりジュンコだったのか。確信に繋がり、「うん、分かるみたいだね」と頷くと、「珍しい人もいるのね」と驚きながら言うジュンコ。きっと太公望殿が力を貸してくれているおかげだろう。「おいで」とジュンコに手を差し出す。すると、ジュンコは迷いもなく私の手へ寄り添ってきた。そして、しゅるしゅる、と私の腕へ巻きつく。



《ねえ小雪さん、相談があるの》



おや、動物からのお悩み相談は初めてだ。



《生物委員会の毒虫が逃げ出したの。生物委員会の皆は今必死で探してるんだけど、見つからなくて》
「毒虫が? それは大変だ」
《生き物の言葉が分かる小雪さんにも手伝ってほしいの! 駄目?》



首を傾げて上目使いで私を見るジュンコ。そんなに可愛くお願いされたら断れないじゃないか。これが「あざとい」というものなのか。私はジュンコの頭を撫でて、微笑む。



「――その相談、承りました」




 ***




とりあえず、生物委員会の誰かを探してみることにした。そしたら、孫兵が茂みに頭を突っ込んで「ジュンコ〜? どこだ〜?」と言っていた。貴方のジュンコは此処ですよ、孫兵殿。そう心の中で言いながら、孫兵に近寄る。「孫兵、」と声をかけると、「んあ?」となんとも間抜けな声で頭を茂みの中から出して私を見た。瞬時に視線がジュンコへと行く。



「ジュンコぉぉおお!!! どこ行ってたのぉぉおおお!!!」



涙を流しながらジュンコへと飛びつく孫兵。少し離れていただけなのに、そんなに会いたかったのか。ジュンコが「大袈裟ねえ」と呆れている。ジュンコさん、大人ですね。



「生物委員会の毒虫が逃げたらしいね?」



そう言いながら、ジュンコを孫兵へ渡す。孫兵はジュンコを丁寧に受け取りながら「はい」と頷き、「でも、全然見つからなくて……」と言う。どうやら20匹くらい逃げたらしく、5匹は見つけたのだが残りをまだ見つけていないんだそうだ。残りは15匹。うーん、全部捕まえることは可能だろうか。少し不安だが、人数は多いほうが良いだろう。



「私も一緒に探して良い?」
「え!? 良いんですか!!?」



私の言葉に、孫兵が驚く。そんな孫兵の頭を優しく撫で、くすりと笑う。「ジュンコの頼みだからね」と言うと、孫兵は首を傾げた。その表情はキョトンとしている。まあ、当然だけれど、分からないよね。



「さあ、探そうか。毒虫の名前は?」
「キミコとベニとムラサキとツムギとチヅt――」
「――よっしゃ、まずはキミコからな」



毒虫達の名前を全部言おうとする孫兵の言葉を遮る私。



「――あれ? 小雪さん?」



と、その時、後ろから声がした。振り返ると、竹谷がいた。……あ……、何故だろう……。守られた時のことを思い出してしまった。あ、なにこれ、恥ずかしい。竹谷の姿を見た孫兵が「委員長!」と笑みを浮かべる。



「孫兵、キミコ達は見つけたか?」
「それが、まだ……。あ、でも、小雪さんが手伝ってくれるみたいで」
「え、小雪さんが?」



孫兵の言葉に、竹谷が私へと目を向ける。うわ、うわわわ!! 目が合った!! どうしよ……!! さっきの余裕な態度はどこへ行ったのか、「や、えっと、迷惑だったらいいの……!!」と少し戸惑ってしまっている私。その理由が、自分にもイマイチ理解できていない。私は一体どうしたというのだ。竹谷は私の言葉に、ニカッ、と笑った。



「むしろ助かります!! お願いしても良いですか?」
『あ、うん。任せて!』



顔の熱が徐々に上がっていく気がする。どうしよ、なんで。ほんとに何があった自分。……まさか……。その後、一時間くらいかけて全ての毒虫を捕まえた。



(綾ちゃんんんん!!! by.小雪)
ぎゅっ
(小雪? どうしたの? by.綾部)

 
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