第21話


「それで、ハチは小雪さんとどこまでいったの?」
「……は……?」



いつものメンバーと一緒に食堂へ向かう途中、勘右衛門がそんなことを聞いてきた。俺は一瞬、勘右衛門の言っていることが理解できなかった。阿呆面する俺に、勘右衛門は呆れながら「少しは進展したのか、ってこと!」と言う。ああ、そういうこと。……進展、したのだろうか。それは俺からじゃなくて、小雪さんからじゃないと分からない気がする。でも、正直自信が無いのは事実だ。



「駄目だなあ。ガンガン行かないと他の男に取られてしまうぞ?」
「そうそう。ハチはヘタレなんだから」
「う、それは……」



雷蔵に言われると、余計に傷つく。確かに、俺は好きな人に対して上手くアタックできた試しがない。初恋が一番酷かった。恋を始めて知り、何をどうすれば良いか分からずにいたら、「八左ヱ門君って男の人が好きなの?」と勘違いされてしまった。その時、石の如く固まったのを覚えている。



「おはようございます。緑子さん、豆腐定食ありますか?」
「あ、おはよー! 今朝はBが豆腐定食だね。Aが焼き魚定食」
「じゃあ、Bの豆腐定食で」
「はーい、了解しました」



食堂に着いた途端、兵助が真っ先に緑子さんの元へ行った。アイツどんだけ豆腐好きなんだよ。いつものことだから慣れたけど。兵助に続き、俺達も定食を選ぶ。横で雷蔵が「焼き魚美味しそうだなあ……、でも、たまには豆腐も食べたいし……」と悩む。そんなことは毎日のことなので、慣れたように三郎が「俺と雷蔵はAの焼き魚定食でお願いしまーす」と言う。



「じゃあ、俺もAで」
「俺はBの豆腐定食でお願いします」
「はーい」



緑子さんは俺達の注文に笑顔で頷き、「Aが3つでBが2つでーす!!」と、奥の方にいるおばちゃんに声をかけた。その言葉に、奥から「はーい!」と返事が返ってきた。その言葉を聞いた後、緑子さんが「あ、そうだ」と呟き、俺に顔を向けた。



「ねえ、竹谷君」
「なんですか?」
「――竹谷君って、小雪のこと好きだよね?」



緑子さんの言葉に、俺はピシッと音を立てて固まる。俺の様子に、緑子さんは楽しそうに「うふふ、やっぱり」と笑った。三郎が「気づいてたんですか?」と聞くと、「女だから、どうしてもそういうのに敏感でね」と頬に手をあてて微笑む。



「でも、小雪は手強いわよ〜?」
「手強い?」
「あの子は本の登場人物とかに恋しちゃう子だから」
「へえ、変わってますね」
「兵助、お前にだけは言われたくねぇだろうよ」



この豆腐に恋してる豆腐小僧が。とりあえず、隣にいる雷蔵が「分からなくもない」と言っているのは無視で良いよな。



「竹谷君、応援してるからね!!」
「え!? 応援してくれるんですか!?」
「勿論!! 竹谷君、良い子だし!!」
「ありがとうございます!!」



緑子さんが味方というだけで心強い。前のこともあって、柊さんには少し警戒されているけど。




 ***




朝食を食べ終わり、お盆を返す。食堂を出ると、少し行った先に小雪さんが眠そうに歩いて来るのが見えた。隣には人間姿の太公望さんと、同様に人間姿の妲己さんがいる。しかし、二人は何やら口喧嘩をしているようだった。だが、小雪さんは気にしていない様子。



「昨日の今日で何故小雪に懐いた?」
「べっつにー?」
「何か企んでいるのか?」
「企んでないわよ。っていうか、女同士の仲を男が口出ししないでくれる?」
「同性か異性かなど関係ない」
「はいはい、どうせ私は怪しい人物よ!」



口喧嘩をする二人を余所に、小雪さんは眠そうに目を擦っている。心なしか、歩く速度は遅く、若干フラフラしている。ということは、寝起きなのだろうか。ずっと見ていると、小雪さんと目が合った。まさか目が合うとは思わなくて、ドキッとしてしまう。



「お。目が合ったみたいだな?」
「い、いちいち言わなくていいっつーの!」



小雪さんが眠そうな顔ながらも、笑って手を振ってくれた。寝ぼけている笑顔を見ているようで凄くキュンとする。駄目だ。小雪さんが好きすぎて生きるのが辛い。笑顔を見て心臓がバクバクと反応しつつも、俺はペコッと軽く頭を下げる。俺の行動を見た小雪さんは、再び前を見て食堂へと歩みを進めた。
どうやら俺は、貴女を相当愛しているみたいです。

 
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