第20話



妲己と共に、縁側に座って月を眺める。私も妲己も風呂上りの為、寝間着姿で髪の毛が濡れている。太公望殿は力を使って疲れたのか、寝てしまっている。シナ先生は、仕事がまだ残っているとかで今は居ない。この場には妲己と私の二人だけ。



「――…遠呂智様は、きっと助けに来てはくれない」



沈黙が続く中、静寂を破ったのは妲己の方だった。その言葉に、私はチラッと妲己を見る。妲己の表情は寂しげで、どこか諦めているような顔。「なんで?」と聞くと、「なんとなく分かるの」と言われた。



「遠呂智様は、私抜きでもやっていける。私、きっと捨てられる」



長年連れ添った間だからこそ分かる、ということだろうか。確かに、妲己を捕まえてから、遠呂智軍が来る気配は一切しなかった。妲己の言った通りになってしまうのだろうか。



「……正直、なんで妲己が遠呂智に惚れたのか理解できないな。遠呂智にそんな魅力があるとは思えないし……、なにより、皆を巻き込んだことが許せない」



自分の身勝手な行動で、三國や戦国、忍術学園の皆を巻き込んだ。それにより、一度は亡くなった人だっている。それなのに、平然と巻き込みを繰り返して。



「……でも、小雪ちゃんの力じゃ遠呂智様には勝てない」



妲己の言葉に、私は静かに「確かに、そうだね」と言う。
きっと、私達家族が揃ったって遠呂智は倒せない。でも、三國の人達、戦国の人達、忍術学園の人達……、どの世界にも、守りたい人達がたくさんいる。我ながら、守る対称がたくさんできたと思う。……でも、作ろうと思ってできたわけじゃないんだ。いつのまにか、自然と、大好きな人達ができただけなんだ。そのことを伝えると、妲己が膝を抱えて、膝に顔を埋める。そして「理解できない」と言った。



「きっと、妲己にも分かるときが来るよ。守る対象が、遠呂智だけじゃない、ってこと」



そう言って、月を見上げる。やっぱり、この時代に月ははっきり見えて綺麗だ。妲己は小さく「守りたい人が遠呂智様だけじゃないなんて、絶対にありえない」と呟く。



「自分ではそう思ってても、自然とできるもんだよ」
「……できないよ……。ずっと悪女としてやってきたんだもの。今更、そんなのできない」



か細い妲己の声。いつもより小さく見える、その体。余裕たっぷりではない妲己の姿に、私は少し戸惑う。こういう時、私が妲己にしてあげられることは一体なんだろう。



「どんな悪役だってね、正義になることだってあるんだよ」



ベ○ータとかピッコ○みたいにね。あの堅物達だって出来たのだから、妲己にだって出来るはず。ふと、隣から鼻をすする音が聞こえた。そして、泣くのを我慢する声も。我慢なんてしなくていいのに。「…………」と無言で妲己の背中を、ポンポンッ、と優しく叩く。すると、妲己が私へと寄り添い、私の肩へと頭を乗せた。少し驚きはしたけど、私はそれに従った。




 ***




「……落ち着いた?」と、泣き止んだ妲己へと声をかける。妲己はただ「ズビッ」と鼻をすするだけだった。そんな妲己に密かに笑う。悪女なんて言われていても、こんなに可愛らしい一面だってある。



「どうして、敵である私に優しくするの……?」



泣いたせいか、妲己の声はトーンが少し低く掠れている。私は妲己の言葉に「愚問だね」と言葉を返す。



「女性に優しくするのが生き甲斐でね」
「……嘘くさ」
「嘘だもん。でも、女性には優しくするよ」
「それが敵でも?」
「うん。ま、例外もいるかもしれないけど」



今のところはいないけどね。妲己は私の言葉に安心したのか、眠そうな表情をあらわにする。地味に頭がカクカクと揺れている。「寝ようか」と声を掛けて私が立ち上がると、妲己も立ち上がった。二人で布団へと向かう。妲己はフラフラしていて、なんだか危なっかしかった。妲己が布団の中へ入ったのを確認し、私も布団の中へと入る。



「おやすみ」
「……おやすみ」



――…少しでも、妲己の心を開くことはできただろうか。

 
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