第19話


「血が滲んでますね……、包帯を取り換えましょう」
「うん」



あの後、私は血が更に滲んでいることに気づき、竹谷に医務室へと連れられた。学園長に説明しなくては、と思い「後でいい」と言ったのだが……。他の皆にも「早く行ってきたほうが良い」と言われ、渋々医務室へと来た。私と竹谷、三年生以外の皆は、この件の説明をする為、学園長の元へと行った。私達と共に医務室に行くと思っていた太公望殿まで、学園長の元へ行ってしまったのだから驚きだ。



「やっぱり痛みますか?」
「っ……ん、少し……」



再び消毒液をかけられ、痛みに顔を歪める。善法寺は消毒液をかけるのをやめ、ガーゼを当てて包帯を巻き始める。



「怪我したら、また医務室に来てくださいね」
「可愛い女の子が居るなら毎日来たいね」
「ははっ、なんですかソレ」



私の言葉に、善法寺が面白そうに笑う。だが、私としては本心なのだ。かっこいい男も目の保養だが、この忍術学園は女の子が少ない。その為、可愛い女の子が見たい、という欲が増している。



「あのぉ、小雪さん、」



手当てされている反対の袖を、クイクイッ、と引っ張られる。そちらを向くと、遠慮がちに私を見上げる鶴町伏木蔵が居た。それが何とも角度の良い上目使いで、私は咄嗟に鼻を抑えた。大丈夫、鼻血は出ていない。



「僕、一年ろ組の、鶴町伏木蔵っていいます。よろしくお願いしますねぇ」
「伏木蔵か。よろしくね」



私がそう言うと、伏木蔵は安心したように笑った。ヤバいです、この忍術学園、可愛い子が多すぎです。ショタコンになっちゃいそうだよhshs。伏木蔵が名乗り出たことにより、自己紹介をしてもらってない他の子達が身を乗り出した。



「二年い組、川西左近です」
「一年は組、猪名寺乱太郎ですっ!」
「三年は組、浦風藤内といいます」
「三年ろ組、次屋三之助です」
「「「「小雪さん、宜しくお願いします!!」」」」
「うん、此方こそ宜しくね」



忍術学園の下級生天使。まだ一部の下級生には会っていないけれど。下級生に癒されていると、「はい、出来ましたよ」と善法寺に言われた。「ありがとう」とお礼を言うと、「どういたしまして」と人の良さそうな笑顔を浮かべる善法寺。その笑顔はなんとも可愛らしい。是非とも女装姿を拝みたいものだ。包帯が巻かれた腕を眺める。私だけ怪我しちゃって、なんだか情けない。



「あまり怪我をしている腕を使わないようにしてくださいね。悪化する場合がありますから」



その言葉に、思わず「えー」と声に出す。善法寺は私の言葉に「”えー”じゃありません!! 女の子なんですから!!」と言う。女の子扱いされるのは嬉しいけれど、今は皆を守る立場にあるしなあ……。



「それに、まだ結婚してないんでしょう? 体に傷があると結婚が遅れますよ」
「んー、相手いないし……」
「今はそうでも、これから見つかるかもしれないでしょう?」



なんだか善法寺がお母さんみたいだ。私のほうが年上なのにな。その時、左近が思い出したように「あ、利吉さんなんてどうですか?」と聞いてきた。あー、利吉……、利吉ねえ……。利吉は恋人でも結婚相手でもないし、普通に友達って感じだな。それに……、



「結婚っていっても、実感が湧かないんだよね」
「婚期逃しますよ?」
「う、グサッときた」



呆れて言う左近に、私の心が傷ついた。私のハートはガラス製よ!! ガラスのハートなのよ!! もっと繊細に扱ってちょうだい!!



「それより女性なんですから、胡坐をかいて座らないでください」
「何故」
「はあ……」
「「(某曲者を思い出す……)」」



そんな時、医務室の障子が、スパァーンッ、と勢いよく開いた。私達はいきなりのことに驚いてしまう。開いた障子に目を向けると、そこには人間姿の妲己がいた。妲己は私を見つけると、ニヤニヤしながら私の元へと歩み寄る。そのことに、竹谷は瞬時に私の前へと移動し、武器を構える。



「ちょっと、何もしないわよ」



妲己がムスッとしながらそう言っても、竹谷は武器を下ろさずに妲己を睨み続ける。妲己はそのことに溜め息をつき、「ま、このままでも話せるか」と諦める。そして、私へと視線を向けた。



「えーっと、小雪ちゃんだっけ?」
「……なんでしょう?」
「これから同じ部屋同士、仲良くしましょうねーっ」



妲己の言葉に「え」と固まってしまう。それは竹谷も同じようで、驚いた表情でチラッと私を見た。妲己は余裕の笑みだ。すると、バタバタ、と慌ただしい足音が廊下から近づいてくる。姿を現したのは、四年生達だった。



「先に行かないでください!!」
「む、指図しないでよね。おこちゃまじゃあるまいし」
「おこちゃまかどうかなんて関係ありません! あなたの信用性に問題があるんです!」
「はいはい、大人しくしてますよーっだ」



妲己が拗ねた表情を見せる。えーっと、もしかして……、妲己にはこの学園の捕虜の為、私とシナ先生の部屋で過ごしてもらう、とか?私とシナ先生、太公望殿は監視役?



「竹谷、大丈夫。武器下ろして」
「あ、はい」



私が声をかけると、竹谷はスッと武器をしまう。そして、私の隣へと移動した。再び妲己へと目を向ける。今の妲己は武器を持っているどころか、きっと私達に敵意さえ向けていない。それはきっと、自分が人間になってしまったことで、私達に抵抗できないと悟ったからだろう。



「あーあ、人間になってなかったら、今頃計画通り事が進んでたのになー」
「こっちは計画が進まなくてホッとしてますよ〜」
「うっわ、笑顔で言うなんて」



こうして見ると、いたって普通の女性だ。これなら、警戒なんてしなくても良い気がする。むしろ普通に接しても良いくらいだ。じっと妲己を見ていると、妲己が私に視線を向けた。そして、「そういえば小雪ちゃん、太公望さんとはどういう関係なの?」と聞く。



「凄く仲良いみたいだし、もしかして恋人同士とか?」
「いんや、ただの相棒。私が太公望殿に惚れることは有り得ないな」
「えー、つまんなーい」



興味ある恋に目を輝かせたり、的が外れて口を尖らせたり。妲己も女だ。そういう恋愛話をするのが好きなのだろう。妲己のコロコロと変わる表情に私は笑みを浮かべる。



「……なに笑ってんの?」
「んー? 可愛いなあ、って思ってさ」
「……小雪ちゃんさ、」



天然タラシって言われない?、そう言われて「えっ?」と変な声が出た。

 
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