第12話


その日、山田先生が部屋を訪れた。シナ先生に用かと思ったのだが、どうやら相談事らしい。とりあえず、部屋の中に入れて座ってもらう。気を遣って「お茶淹れましょうか?」聞くが、「いや、大丈夫」と断られてしまった。気を取り直し、「それで、相談とは?」と聞くと、山田先生は遠い目をした。余程のことがあったのだろうか。山田先生は溜息をつき、深刻そうな表情で口を開いた。



「私には、山田利吉という息子がいる。その息子はとても優秀で、今は売れっ子のフリーの忍者だ。その利吉は、小雪ちゃんと同じ18歳。でも、利吉は全く結婚をしようとしない。それは、忍者の三禁もあるから仕方ないのだが……、親としては早く孫の顔が見たい。そこでッ!!」



長々と話す山田先生に、ガシッ、と手を握られる。何故だろうか。嫌な予感しかしない。



「――小雪ちゃんに利吉と会ってほしい!!」



キリッ、とした表情で言う山田先生。いやいやいや、ちょっと待ってくださいよ。慌てて断ろうと口を開くが、先に「きっと小雪ちゃんなら利吉の心を射止められると信じている!!」と言われた。な、何言ってるんですか!!



「頼む!! 同じ年齢ともなれば、アイツも心を許してくれるかもしれん!! あ、そろそろ利吉が来る時間だ。小雪ちゃん、行こう!!」
「え!? ちょ、待っ……!!」



山田先生に手を引かれ、私は部屋を出た。




 ***




連れてこられたのは、門のところだった。そこには小松田秀作と、一人の若い男性がいた。男性はきっと、山田先生の息子である利吉さんだろう。



「父上、調度良いところに。母上が”帰ってこい”と言っていましたよ」
「利吉、お前に紹介したい子がいるんだ!」
「ちょ、父上、私の話は無視ですか!?」



利吉さんの言葉を無視し、山田先生が話を進める。すかさず利吉さんがツッコミを入れるが、山田先生はお構いなしの様で、私を利吉さんの前に差し出した。混乱する中、利吉さんは私を見て「父上、彼女は?」と首を傾げる。



「氷室小雪ちゃんと言って、忍術学園のお悩み相談室を受け持っているんだ。利吉と同い年だぞ」
「わ、私と同い年!? あ、えっと、山田利吉と言います!」
「あ、改めまして、氷室小雪です……!」



軽く頭を下げる。すると、利吉さんが「よろしく」と手を差し出した。「え、えっと……、」と驚いているうちに、利吉さんが私の手を握って微笑んだ。うわ……!! なんつー爽やかな笑顔……!! イケメンが更にイケメンになっている……。



「じゃ、利吉。小雪ちゃんのことは頼んだぞ。小松田君、君はまだ仕事が残ってるんだろう?」
「あ、そうでしたっ!! では二人とも、ごゆっくり〜!!」



山田先生と小松田さんが行ってしまった。取り残された私と利吉さん。こ、この状況をどうしろと!!? 汗だらだらでいると、「あの、小雪さん?」と話しかけられる。突然のことに「は、はいっ」と声が裏返ってしまいながらも返事をする。



「同い年ということなので、お互いに呼び捨てにしませんか? あ、もちろん敬語も無しで」



利吉さんのいきなりの申し出に、私は固まる。わ、わわわわわ私なんかで良いんですかね? 貴方にはもっとふさわしい人がいると思いますよ。こんなんが仲良くなっていい人なのでしょうか? だが、不安そうな表情をされ、咄嗟に「ぜ、ぜひ!」とOKを出してしまった。私ってば単純なんだから、もー!! 私の言葉に、利吉さんもとい利吉は安心したように笑う。その笑顔だけで、どれだけの女達がずっきゅんとくることだろうか。私は惚れなかったがな。



「あ、一緒に図書室行かない?」
「図書室?」
「うん。探してみたい本があるの」



私の言葉に、利吉は笑って「分かった」と言ってくれた。いや、だからアンタのその笑顔にたやすく落ちる女gゲフンゲフン。




 ***




「あ、あった」



図書室に来て、お目当ての本を見つけた。正直、見つかるとは思わなかったけれど。でも、見つかるとやっぱり嬉しくて、自分の頬が自然と緩むのを感じた。古びれてはいるけれど、図書委員の仕事もあってか、本はしっかりしている。題名のところを手でなぞると、余計に頬が緩んだ。



「……”三国志”?」
「うん、三国志」



私が読みたかった本。それは、”三国志”という本。利吉は三国志の本を持って笑う私に驚いているようだ。確かに、この時代の女性はこういうものに興味は示さないかもしれない。「珍しいんだな」と言われ、「あー、だよね」と苦笑する。でも、凄く好きで仕方ないんだ。三国志の本を抱きしめる。会いたくて、でも会えない人達。いつか、会えたら良いな。そんなことを思っていると、利吉の手が私の頭に乗った。そして、わしゃわしゃと頭を撫でられる。



「えっ!? な、なに!?」
「好きになることに性別なんて関係ないよな」



利吉が言った言葉に、私は驚く。利吉の表情は穏やかで、それにも驚いた。次第に、利吉は私の頭を撫でる手を止めた。



「さて、そろそろ帰ろうかな」
「え、待って! 見送るよ! あ、そのまえに本借りてこなくちゃ!」
「ははっ、そうだな。図書室の入り口で待ってるから、借りてきな」
「うん、そうする」

 
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