第11話


部屋に戻ると、シナ先生は布団を敷いてぐっすりと寝ていた。お優しいことに、私の布団まで敷いてくれている。シナ先生大好き……!! シナ先生が起きていたら即行抱きついていたところだ。



「……?」



机の上に、何か置いてあるのに気づいた。机に置いてあるのは、寝間着と一枚の紙。紙を手に取り、内容を見てみる。そこには、この部屋から風呂までの道のりが書いてあった。シナ先生優しすぎっ!! シナ先生の優しさに感動しつつも、私は寝間着と紙を持って部屋を出る。そして、風呂までの道を紙で確かめながら歩く。



《私も連れて行くつもりか?》
「”災い”がいつ起こるか分からないから、一応ね」
《自分の体を見られても良いのか?》
「見せないし。布で隠すから」



鼻で笑うと、太公望殿は「だろうな」と言った。そんな易々と自分の体を見せられるほど良いスタイルはしていない。ふと、裏山の方から「いけいけどんどーん!!」と言う声が聞こえた。その直後「ぎゃぁああ!!! と、止まれぇぇえ!!!」というお兄ちゃんの声も。ああ……、お兄ちゃんはあの暴君に振り回されているのか。御愁傷様です。




 ***




衣類を入れる籠の中に寝間着と紙を入れる。釣竿型宝貝はさすがに入らない為、置くだけにしておいた。その上に、布を被せておく。



「そっちから私見える?」
《いいや、見えない》
「よし、バッチリだ」



そう言って、私は今着ている太公望殿の着物を脱ぐ。この着物、複雑で面倒くさい。慣れないとスムーズに着れないな。全て脱ぎ終わり、「じゃ、此処で待ってるように!」と太公望殿に言い、風呂場の中へと入る。ふいー……。体を洗い流し、髪の毛もシャンプーを使って洗い、浴槽へと入った。程良く温かくて気持ち良い。木で出来ている風呂。うんうん、風情があってとても良い。私の家も、こんな風呂場だったら良いのにな。



「……風呂入ってると、なんか歌いたくなっちゃうよなー」



この風呂場には、私二人しかいない。歌ってしまおうか。でも、途中で人が来るかもしれない。歌いたい衝動に駆られ、ウズウズしてしまう。うあー、ゲームやりたくなってきた。アニメも見たいし漫画も読みたい……。いかんいかん。のんびりしすぎて欲望が……。さて、そろそろ出ようかな。ザブンッ、と音を立てて浴槽から出る。



「はー、眠い」



そんな事を言いつつ、籠の中から手拭いを取って髪の毛や体を拭く。体を拭き、髪の毛もある程度拭いた後、寝間着を着る。着つけ方はよく分からないけど、適当にやっておけば良いだろう。寝間着を着るのは寝る時だけだし。



「お待たせ、行こう」
《ああ》



荷物を全て持ち、釣竿型宝貝を担ぐ。




 ***




風呂場からの帰り道。私は眠気に襲われながら、のそのそと歩いていた。空を見上げ、「……うお」と呟く。その声に、太公望殿が「どうした?」と聞いてきた。私は、秘かに微笑む。



「――…月が、綺麗だなあって」



とても明るく、丸い月。今日は満月だったのか。



《……月、か。かぐやを思い出すな》
「ああ、かぐや姫といえば月だもんな」
《……早く、皆を元に戻さねば……》



太公望殿の、悔むような声。太公望殿達も、半分は仙人で半分は人間となってしまった。そうだ、一刻も早く元に戻さなくてはならない。助けてみせるよ、絶対に。

 
12/68
しおりを挟む
戻るTOP



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -