第10話


「………さん……て、さい……!!」



何処からか声がした。意識がボーッとする中で、重い瞼を開ける。ぼやけた視界がクリアになっていくと、目の前に団蔵と佐吉の顔があることに気づいた。寝起きということで驚きはしなかったものの、「迎えにきてくれたのか」と納得する。とりあえず上半身を起こし、頭をボリボリと掻く。あ、今の女子力低かったわ。



「小雪さん、寝ぼけてます?」
「少し……」



ふと床を見ると、そこには電卓があった。腰に掛けていたはずの釣竿型宝貝がなくなっている。ということは、この電卓は太公望殿か。「行こうか」と電卓を持ちながら、団蔵と左吉に言う。二人は「はい!!」と元気よく返事をした。あれ、そういえばシナ先生はどこに行っちゃったんだろう。




 ***




「文次郎先輩!! 助っ人連れてきましたぁー!!」



団蔵がとある部屋の障子を開けながら、そう言う。中からは「うるさいぞバカタレィ」という声が聞こえた。団蔵と左吉に手を引かれ、部屋の中に入る。その瞬間、「え!? な!? 小雪さん!?」という声が聞こえた。声のした方を見れば、驚いた表情の三木。隈ができていて、顔色があまり宜しくないのが気になる。



「二人が言っていた助っ人って小雪さんのことだったんですか!」
「そうよー」
「じゃあ、ぜひ私の隣に来てください!!」



キラキラした笑顔で言う三木。その笑顔にデレッデレになりつつも「三木が良いなら」と返事をした。すると三木は「当たり前じゃないですか!!」と言ってくれた。三木可愛いお持ち帰りしたい。団蔵と左吉が自分の場所に座ったのを確認し、私も三木の隣に座る。



「小雪さん、僕は三年ろ組の神埼左門っていいます!! 宜しくお願いします!!」
「会計委員会委員長、六年い組の潮江文次郎です。宜しくお願いします」
「左門に潮江ね。宜しく」



左門は元気よく、潮江は戸惑い気味に自己紹介をしてくれた。そんな二人に、私は薄らと笑う。すると、横から筆が差し出された。差し出してくれた人を見ると、三木だった。「ありがとう」とお礼を言うと、「いいえ」と返ってきた。



「小雪さんには、火薬委員会の計算をしてもらいます。はい、これが火薬委員会が使ったお金の内容です。あ、墨は一緒に使いましょう」
「ん、了解」



三木から火薬委員が使った金の表を受け取る。お金の合計は1番下の隅っこに書くらしい。三木が仕事に取り掛かるのを見て、私も仕事に取り掛かる。指で数字を追いながら、電卓でカタカタと打っていく。商業高校に通っていたこともあり、スムーズに計算が進んでいく。




 ***




「……ふう……」



合計を書き、筆を置く。これで火薬委員会の計算が全て終わった。隣を見てみると、三木は机に伏せて寝てしまっていた。三木が担当している図書委員会のお金の合計を見てみる。なんだ、最後までできてるじゃないか。「お疲れ様」の意味を込めて、三木の頭を優しく撫でる。



「終わったんですか?」



声をかけられた。潮江を見ると、なんだか驚いた表情で私を見ていた。



「うん、終わったよ」
「普通の人ならもっと時間がかかると思ったんですが……」
「商業系の学問を習うところに通ってたからね、結構得意なんだ」
「そうだったんですか」



潮江が薄らと笑った。おや、これには驚いた。先程から笑わなかったのに。私が秘かに驚いていると、潮江が辺りを見渡した。私もつられて辺りを見渡す。



「……全員寝てやがる……」



潮江の言葉通り、潮江と私以外の皆は寝てしまっていた。徹夜が続くとなれば、無理もない。潮江が立ち上がり、三木達の合計表の紙を見て行く。「なんだ、皆しっかりできてるじゃないか」とホッと安心した表情の潮江。その表情が何だか皆の父親っぽくて、秘かに笑ってしまった。



「小雪さん、手伝っていただいて有難う御座いました」
「どういたしまして」
「後は俺がやりますから、小雪さんは休んでください」
「ん。三木達は起こさなくて大丈夫?」
「はい。仕事が終わったら、俺が起こしますから」
「そっか。じゃ、お疲れ様」
「お疲れ様でした」



電卓を持って立ち上がる。そして、潮江に見送られながら私は部屋を出た。あー、眠い。早く風呂入って寝よ。

 
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