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「此処が忍術学園ですか……、ふふっ……」
忍術学園の門前に佇む影がひとつ。まるで僧侶のような格好をしているが、その肌は魚の鱗のように煌びやかで青緑色をしている。口角が上がると、鋭い八重歯が見えた。瞳の色は金色で、ギラギラと輝いている。
「あの人のお気に入りの場所……、此処に居れば、いずれ目の前に現れるはず」
喉でクツクツと笑うと、男は踵を返して忍術学園から離れた。長く白い髪は、体が動くごとに左右に揺れる。
「ああ、早く会いたい。――…坂田真白さん」
***
ゾッとした。肌寒いわけでも、風邪を引いているわけでもない。何の前触れもなく背筋がヒヤッとした。まさか、私が諸泉の饅頭を黙って食べてしまったことが気づかれたのだろうか。やべぇな、逃げねぇと。
「いや待てよ? あの時、雑渡も一緒に饅頭食べたよな?」
ってことはだ。私だけ怒られるのはおかしい。だが、あのお堅い諸泉が本当のことを聞いてくれるかどうか分からない。よし、忍術学園に逃げよーっと。善は急げ、だ。私は木刀を腰に下げ、ブーツを履いて小走りで部屋を出た。
***
忍術学園内にある建物の一室に、白髪の男と橙色髪の女が座っていた。両方とも、静かな空間で姿勢を正している。目を瞑っている白髪の男に対し、橙色髪の女は不安そうな表情で男を見ている。
「――…親父、」 「何も言うな」 「でもっ、それじゃアネキはっ……!!」 「……それが、アイツの運命さ」 「っそんなのおかしいです!! アネキにだって、望んでる未来があるのに!!」
何やら言い争っている両者。男の名を、泥水次郎長。女の名を、泥水平子。何故2人が言い争っているのか、それは数分前に遡らなければ分からない内容だ。 二人の話の内容は、坂田真白のこと。次郎長の証言によると、以前忍術学園で会った時、真白の首裏に丸型の痣があったというのだ。その痣は、天人である竜王族が婚姻相手に付ける痣。その痣がついている限り、竜王族はなんとしてでも婚姻相手を我が手におさめるようだ。つまり、それは真白が竜王族に狙われているという証。そして、竜王族は婚姻相手がどこにいても追いかけてくる。……たとえ、異世界であっても。
「絶対に結婚しなきゃいけないなんて……」 「それが竜王族の掟だ。拒むことはできやしねぇ」 「……どうしてその痣がアネキに……」
平子の言葉に、次郎長は目を開けて平子を見る。そして、重そうに口を開いた。
「あの女、攘夷戦争に出ていたらしい」 「で、でも、攘夷戦争って10年前の戦争ですよね!?その時、アネキは13歳ですよ!!?」 「……ああ、アイツの力は計り知れねぇ。13歳で戦に出れる程、その実力は本物ってこった」
その時、外からなにやら騒がしい声が聞こえた。その声が気になり、平子は立ち上がり、障子を開けて外を見る。そこには、いつの間にか来ていた真白と、六年生達が居た。
「お前が白羅刹なんて聞いてねぇぞ!!」 「だって言ってねーし」 「俺と勝負しろ!!そして俺を認めろ!!」 「違う!! 先に俺を認めろ!!」 「俺が先だ、バカタレィッ!!」 「なんだと馬鹿文次!!」
いつものように喧嘩を初めてしまう食満留三郎と潮江文次郎。真白はそんな二人に、面倒くさそうに頭をボリボリと掻いて溜め息をついた。他の六年生は、二人を放っておいて四人だけで話している。その時、小松田秀作の「入門票にサインお願いしますよ〜っ!!」と焦った声が聞こえた。客人だろうか、と誰もが小松田秀作の声がした方へ目を向ける。
「――…やっと会えた。愛しい妻よ」 「――…テメェ、あの時の……」
波乱の予感だ。
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