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「君、アレだよね? 近所に住んでた子だよね? ほら、あの亀好きの」
「え? いや、あの、」
「なんか肌色悪くね? つーか、鱗みたいになってんじゃん。肌の手入れは大切だよ、うん」
「そうじゃねぇだろ、クソ女」
「んだとコラ」



食満の言葉に怒りつつ、目の前にいる男に視線を向ける。私は確かにこの男を知っている。
僧侶のような格好をしているが、その肌は魚の鱗のように煌びやかで青緑色。瞳の色は金色で、髪の毛の色は白に近い灰色。忘れるはずもない、あの忌々しい記憶の男。コイツは、攘夷戦争の時に戦った竜王族の天人だ。しかも、私と婚約するとかなんとかほざいてた野郎。攘夷戦争の時に殺したと思っていたが、まさか生きていたとは。



「見せもんじゃねぇぞ。散れ散れー」



まだ此処にいる六年生達に顔を向けて言う。しかし、六年生達は「でも……、」と困惑したように渋る。と、その時、目の前に槍の先を向けられた。



「……おいおい、これは何の遊びだ?」



槍の先を向けた竜王族の天人を睨みつける。だが、相手は「ふふふ」と優雅に微笑んだ。その笑みにムカついていると、相手は槍を構えた。その行動に戦うつもりかと思い、腰に下げている木刀に手をかける。



「式場の準備は整いました。極上の式場の為、10年もかかってしまいました。が、ここで貴女に勝ったら、すぐにでも式を挙げさせていただきますよ」
「本人の意見まる無視かよ。お前と結婚するんだったら、六年生の誰かと結婚するわ」



私はそう言い、間を取る為に後ろに跳び下がる。正直、木刀で勝てる気はしねェ。それに、此処で戦ったら無関係の奴等まで巻き込んじまう。



「此処じゃ狭ぇだろ。場所変えようぜ?」
「クスクス。いいえ、逆に狭いほうが燃えます」



おいおい、マジかよ。気づいてか気づいてねぇのか知らねぇが、私の気遣いを無駄にしやがった。少し項垂れていると、相手が「行きますよ!!」と言い、槍を構えながら此方に走って来た。「やべっ」と思いつつ、腰にぶら下がっている木刀に手を付ける。



「アネキ!! 木刀じゃ無理です!! 私の刀を使ってください!!」



しかし、いつの間にかこの場に居た平子が、私にそう叫んで刀を投げてきた。私が持っている木刀は本当は刀なのだが、平子の厚意を無駄にしない為、私は平子の刀を慌てて受け取り、「サンキュー!!」と礼を言う。そして、鞘から刀を出し、刀を構えた。前を見ると、相手は既に近くに接近しており、槍を振り下げようとしていた。



――キィンッ!!



ギリギリではあったが、私は刀で槍を受け止める。だが、相手の動きのほうが速いらしく、相手の蹴りが私の腹部に思いっきり入り込んだ。



――ドッ!!
「がッ……!!」



蹴りが強かったのか、私の体は数mにわたって飛ばされた。平子が「アネキッ!!」と私の身を案じているのが分かった。背中から地面に落ちた為、背中が熱く痛い。蹴られたお腹を擦りながら上半身を起こすと、竜王族の天人は綺麗に微笑んでいた。



「その苦しそうな表情、とても良いですねぇ。貴女をもっと苦しめたくなります」



そう言いながら、舌で上唇を撫でる相手。その表情にゾッとしつつ、私は立ち上がって刀を構える。コイツ、やっぱりヤバい奴だ。早くなんとか対処しねぇと。



「――結構苦戦してるみたいだなァ、真白ちゃんよォ」



ああ、この声は……。
厄介な奴が増えたことに顔を顰めながら、私は声が聞こえた頭上へと顔を向ける。そこにはニヤリと妖しく笑いながら建物の屋根の上に立っている高杉晋助の姿。竜王族の天人もお前も、どうやってこの世界に来たんだよ。そんなことを思っていると、高杉が私の隣に降り立った。



「……おい、一瞬パンツ見えたz――」
「――見物料取るぞ」



人の台詞遮りやがったよコイツ。その時、目の前から殺気がぶわっと出たのが分かった。驚いて殺気が感じる方へ顔を向けると、竜王族の天人が高杉のことを”これでもか”というくらいに睨んでいた。額には青筋がたってしまっている。



「我が妻になる人と馴れ馴れしく……、貴方は彼女とどういう関係ですか?」
「ああ? ……ただの知り合いだ」
「ただの知り合いが、彼女と親しいのは何故です?」
「親しいつもりはなかったが、テメェにはそう見えちまうのか」



竜王族の天人も、高杉も、お互いを睨んでいる。殺気も凄まじく、私が入る隙さえも出来ない。挙句の果てには、高杉が鞘から刀を出し、お互いに構え合ってしまった。慌てて「お、おい!! これは私の問題で……!!」と止めようとするが、「うるせぇ」と一刀両断されてしまった。



「誰もお前なんかの為に戦うつもりじゃねェ」
「そう言いながら私を背中に隠すんじゃねェェエ!!! ツンデレか!!? ツンデレなのかオイ!!?」



私の言葉に、高杉は私の頭を思いっきり殴った。思わず「いでっ!!」と声に出してしまう。つーかオイ、なんだよ、私のこのヒロイン的な位置は。敵に狙われるヒロインと、ヒロインを救う主人公みたいな感じだよ、コレ。私そういうキャラじゃねぇんだけど。どっちかってーと主人公みたいな役割なんだけど。つーか蹴られた腹が痛ェ。



 
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