07
なんか僕の視点多くない? まあ良いか。それだけ出番があるってことだよね。というわけで、この話の視点はこの僕、善法寺伊作が務めさせていただきます。午前中の授業が終わり、今から昼餉を食べるべく食堂へ向かっている。今日はなんだか外に人が居ないなあ、と思いつつ食堂に着いた。だが、なんだか食堂が騒がしい。
「ああ、伊作に留三郎。やっと来たか」 「おう、仙蔵」 「なんだか騒がしいけど、何かあったのかい?」
食堂の出入り口前で中を覗きこんでいた仙蔵。そんな仙蔵が僕達に気づき、声をかけてきた。僕の問いに、仙蔵は「ククッ、面白いものをやっているぞ」と笑った。僕と留は疑問に思いながらも、食堂の中を覗いてみる。また学園長の思いつきだろうか。
「あ」 「さ、坂田真白!!?」
食堂の中は、凄まじいことになっていた。全学年集まっていると言っても過言では無い程大勢いる忍たまや先生方。数えきれない程積んである空になったお椀。そして、お茶漬けをガツガツと食べている文次郎と坂田さんの姿。これは……、早食い競争でもしているのだろうか……?
「負けるな文次郎ー!!」 「………負けたら図書委員に予算を……」 「負けるかァァ!!! 負けてなるものかァァア!!!!」
居ないと思っていた小平太と長次は、全力で文次郎の応援にあたっているらしい。しかし、坂田さんの方が空になったお椀がいくつか多い。ということは、坂田さんのほうが勝っているということだ。「おばちゃん、おかわりー」と平然とした表情でおかわりを求める坂田さん。辛い表情は一切見せていない。食堂のおばちゃんは焦った表情で「は、はーい!!」と返事をして、坂田さんにお茶漬けを渡した。
「真白お姉さんだ!!」 「えーっと、ボウズ共はたしか、つるぺた不思議そうと、良い名で乱太郎?」 「違いますぅー!! 鶴町伏木蔵と、」 「猪名寺乱太郎です!!」 「あ、そう、それそれ」
……坂田さんはとんでもない間違いをしていた。僕もああいう風に間違われる日が来るのかな……。思わず遠い目をしていると、坂田さんと早食い競争をしている文次郎が「おのれ!! 話し込むとは、余裕をぶっこきやがって!!」と坂田さんを睨む。それに対し、坂田さんはニヤニヤしながら文次郎へと視線を向けた。
「兄ちゃん、大丈夫かよ? 顔真っ青だぜ?」 「ええい黙れ!! 絶対負かs、うっぷ……!!」 「オイィィィ!!! なんかコイツ私に向けて吐きそうになってんですけどォォオ!!」 「ふ、ふふ……、俺が吐けばお前は食欲を無くすだろう……、おえっぷ!!」 「ソレ食欲無くすの私だけじゃないよね!!? お前含めこの場に居る全員が食欲無くすよね!!?」
坂田さんの言うとおりだ。せっかく昼餉を食べに来たのに、文次郎に吐かれたら食欲を無くす。もし此処で文次郎が吐けば、僕達は昼餉とおさらばだ。くっ……!! そんなことはさせない!! 朝から不運な僕だって、昼餉くらいはしっかり食べたいんだ!!
「坂田さん、頑張ってください!! 僕は坂田さんの味方です!!」 「お、おう……?」 「伊作!!? 何故その女の味方をするんd、おええっぷ……!!?」
文次郎、その答えは簡単だよ。――…目の前で吐かれたら困るからだよ。 その時、ピピピピッ、という音が聞こえた。どうやら、それはストップウォッチの音だったようだ。(この時代に何故あるかは考えちゃ駄目だよ!!)「あら、時間切れみたいね」と言う食堂のおばちゃんの言葉に「っなんですとぉぉお!!?」と声を上げる文次郎。食堂のおばちゃんが大食い競争にストップをかける。
「えーっと? 真白ちゃんが54で、潮江君が47ね」 「うおっしゃァア!!! WINNER坂田真白っ!!!」 「こ、この俺が、負けた、だと……!!?」
ガッツポーズをして笑う坂田さん。しかし、文次郎は絶望したかのような顔で唖然としている。「やりましたね、坂田さん!!」と声をかけると、僕に続いて伏木蔵と乱太郎が「そんなに食べてるのに、なんで痩せてるんですかー?」「いよっ!! さすが坂田さん!!」と坂田さんを褒める。
「やーめーろーよー!! 褒めんなよー!! でへへ」
僕達の勢いある歓喜に照れ笑いする坂田さん。文次郎はそんな坂田さんを恨めしそうに睨んでいる。あ、微かに涙目に……。坂田さんは一通り笑うと、立ち上がって「いやあ、食った食った」と言いながら、立てかけていた木刀を腰の紐のようなものにさした。
「おばちゃん、ありがとな。最高に美味かったぜ」 「ふふ、ありがとう。お世辞でも嬉しいわ」 「いや、お世辞じゃねぇって。あ、タソガレドキで働かない? おばちゃんなら、甚兵衛さんだってすぐに認めるだろ」
いきなりの坂田さんの勧誘に、周りがざわついた。確かに、忍術学園よりタソガレドキで働いたほうが時給は良いだろう。それについては、タソガレドキを選んだ方が得だ。しかし、食堂のおばちゃんは坂田さんの誘いを「申し訳ないけど、私は忍術学園で働きたいのよね」とやんわりと断った。そのことで周りが「さすがおばちゃん!!」「俺おばちゃんの飯以外食わねぇ!!」と喜んだ。一方、坂田さんは薄ら笑って「愚問だったみたいだな」と呟いた。
「なら、コレは受け取ってくれ」
坂田さんはそう言い、懐から一枚の小さな紙を取り出した。それを食堂のおばちゃんに渡す。おばちゃんはその紙を受け取り、「万事屋銀ちゃん……?」と呟きながら首を傾げた。
「私の兄が営んでる店だ。こっちでは私しか従業員はいねぇが、金さえ払えば何でもやるぜ」 「あらあら、真白ちゃん一人なの? 大変じゃない?」 「つっても、女だからって理由で簡単な仕事しかくれねぇんだ。小さな仕事から大きな仕事まで受け付けてるっつーのに」
坂田さんの言葉に疑問を思ったのか、食堂のおばちゃんが「大きな仕事って?」と聞く。その問いに、坂田さんは「あー…」と何やら考える素振りを見せ、「戦とか」と答える。その言葉に、再び周りがざわついた。まだ若いであろう女人が、戦関係の仕事をだなんて……。思わず耳を疑った。
「じゃ、私は帰るぜ。――…御馳走さん」 「”御馳走さん”じゃねぇだろうが小娘ェェエエ!!!!」 「なに食堂のおばちゃんに迷惑かけてんだゴルァァアア!!!!」 「ギャァァァア!! 化け物ォォォォオオオ!!!!」
その瞬間、坂田さんは何者かにより床に沈んだ。
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