13


立花仙蔵に目を向ける。目が合った瞬間、立花仙蔵がビクッとした。



「あの、きり丸がご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。私は、土井先生ときり丸と一緒に暮らしている天道秋奈と申します」



軽くペコッ、と頭を下げる。あ、でも今は一人で暮らしてるよな……。まあ良いか。向こうも察してくれるだろうし。私は勇気をふりしぼり、なるべく怖がっている気持ちを隠しつつ、「土井先生がどこにいらっしゃるか知りませんか?」と聞く。立花仙蔵は動揺しているようで、「あ、え……」となんて言ったら良いか分からない様子だ。



「秋奈ちゃん!! 土井先生より、今は傷の手当てしないと!!」
「そうですよ!! って、ああ!! 少し血が乾いてきてる!!」



私の首元を見て、慌てる小松田さんと善法寺伊作。本人以上に慌てていて、密かに笑ってしまった。そうしている間に、善法寺伊作は「医務室に案内しますね」と言い、立花仙蔵にも一緒に行くように声を掛ける。「きり丸、行こう?」といまだ怒っているであろうきり丸に声をかけると、「ん」と小さく言った。きり丸の後ろでは、小松田さん、乱太郎、しんベヱの三人も一緒に行くと言っていた。




 ***




「これで良し、と」
「ありがとうございます」
「いえ、保健委員なので」



善法寺伊作に首を消毒してもらい、包帯まで巻いてもらった。お礼を述べると、彼はにっこりと笑ってくれた。この人、本当に言い人だなあ。ふと、きり丸に目を向けると、きり丸はムスッとしていた。



「きり丸……?」
「…………」



声をかけても反応がない。仕方ない、と思いつつ袖から銭の入った袋を取り出す。そして、袋の中から銭を一枚取って、きり丸の前へと投げる。



――ポイッ
「小銭ィィィイイイ!!!!」



その瞬間、先程の暗さとは打って変わって、目を小銭に変えて満面の笑みで小銭を拾うきり丸。乱太郎としんべヱが、その姿を見て苦笑している。他の皆は呆然としているようだ。



「うん、やっぱりきり丸には笑顔が似合うね」



ニコッ、と笑って言う私。私の言葉に、きり丸は「秋奈姉……」と目を潤ませている。笑顔を見せるタイミングが違うとか、そういうツッコミは無しの方向で。気づけば、きり丸が拾った銭を袖に入れようとすしていた。



「おいコラ、感動しつつも私のお金を袖に入れるんじゃないよ」
「え!? くれるんじゃないの!?」
「誰があげるか」



「ちぇー」と言いつつ銭を私に返すきり丸。ただでさえ金があまりないのに、これ以上なくなってたまるか。……ふと、きり丸以外の視線を感じた。周りを見渡すと、皆さんが私に視線を向けていた。「あの?」と声をかけると、皆の心を代表した善法寺伊作が「す、すみません。なんだか、性格が変わったなあって……」と言った。隣にいるきり丸が「ああ、なるほど」と納得したように呟く。



「あー、えっと……、お恥ずかしながら人見知りで……。慣れた相手じゃないと、ああいう風に話せなくて……」



恥ずかしくて、俯き加減で言う。皆さんは納得したようで「へぇー」「なるほどー」と言った。うう、この人見知りの性格変えたいな……。



「秋奈姉、酷いときは口悪くなるよなー」
「な、仲が良い証拠だよ……!!」



仲良い相手じゃないとはしゃげないし。どうせなら、分け隔てなく話せる明るいフレンドリーな子になりたかった。私だって、望んでこんな性格になったんじゃないやい!!



「――…先程はすまなかった」



立花仙蔵が私に頭を下げた。いきなりのことで「え!? は!?」と混乱してしまう。そんな私に気づかず「初対面の女子に殺気を向けてしまうなんて……、私は六年生なのに……」と言う立花仙蔵。本当に悔いているようだ。私は落ち着きを取り戻し、立花仙蔵に声をかける。



「えっと……、忍が疑い深いのは重々承知している、つもりです……。あなたは、忍として当然のことをしたまでかと……」



初対面相手に、私は上手く話せているだろうか。初対面の人とこんなに話すのは始めてだ。日本語がおかしくなければ良いけど。立花仙蔵が私の言葉に少し照れつつも「ありがとう」と言ってくれた。私は嬉しくて「はい」と返事をする。……どこからか、ドドドドド、と凄まじい足音が聞こえた。その音は、段々と近づいてきている。



「――…秋奈!!!!」




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