12


立花仙蔵のクナイが私の首元に添えられている。それに加え、立花仙蔵の目は殺意が込められていて、今にも私も殺しそうな勢いだ。怖くなって、言葉が言えなくなる。きっと、目には涙がたまっているだろう。



「もう一度問う。貴様は、一体何者だ?」



恐怖心から声が出なくなった今、私はどうすることもできない。どうにかして声を出そうと口をぱくぱくさせていると、「答えろッ!!」と更にクナイを首に近づけられた。近づく刃物に「嫌!!」と思わず声を出す。けれど、それは立花仙蔵を拒否する言葉を言ってしまった。私ってば馬鹿。質問に答えなきゃ殺されてしまうかもしれないのに。



「立花君! 秋奈ちゃんは怪しくないよ!!」
「充分怪しいです!!」



私をフォローしてくれる小松田さん。しかし、小松田さんの言葉は立花仙蔵にバッサリ否定されてしまった。私達の様子を見た生徒たちが、「なんだなんだ」と言わんばかりに、周りに集まってきてしまった。その時、「仙蔵? その子は……?」と茶髪の優しげな男が立花仙蔵に話しかける。この男は多分、善法寺伊作。立花仙蔵が善法寺伊作へと目を向ける。



「伊作か。私も分からn――…ぐっ!? しまった!!」



立花仙蔵が油断している隙に、私は大胆にも相手のお腹を蹴って、立花仙蔵から逃れた。その瞬間、小松田さんが駆け寄ってきてくれた。



「秋奈ちゃん、大丈夫……!?」
「だ、大丈夫、です……」
「ちょ、血が出てるよ!?」



小松田さんの言葉に私は固まる。「まさか、逃げ出したときにクナイが……?」と思い、首元に手をあてる。すると、チクッとした痛みが走り、手にぬるりと何かが付いた。手を見てみると、確かに血がついていた。



「貴様、私から逃げるとは……! やはり怪しい!」
「え、い、いや、それは貴方が油断してるから……」
「なんだとォ!!?」
「ひっ!! ご、ごめんなさい……!!」



私を思いっきり睨んでくる立花仙蔵。それが怖くて、思わず近くに居る小松田さんの着物を掴んだ。しかし、その行動が誤解を招いたのか「小松田さんを人質にとるつもりか!!」と言われた。何なの、この人。もの凄く怖い。完全に疑われている。私にはどうすることもできない。



「――…秋奈姉……?」



そんな中、知っている声が私の名を呼んだ。この声、この愛称で私を呼ぶ子は一人しかいない。私は、声のした方へと顔を向ける。そこには、一週間前までずっと一緒に生活をしていたきり丸がいた。きり丸の両隣には乱太郎としんべヱの二人。きり丸は私だと確認すると嬉しそうな表情をする。しかし、目が私の首元に行くと、一気に険しい表情へと変わった。そして、ズンズン、と大股で私の元へと歩いてきた。



「この傷、なに? 誰につけられたの?」



明らかに怒っているきり丸の顔を見て、私は視線を逸らし「えっと、」と言葉に詰まる。なんて答えようか困っていると、立花仙蔵が「私だ」と自ら名乗り上げた。そのことに驚いて思わずきり丸を見ると、きり丸も驚いた表情で「立花先輩が?」と呟く。



「私が怪しい者だと判断し、攻撃をしかけた」
「ッ秋奈姉は一般人です!! 死んだらどうするつもりだったんですか!?」



きり丸の暴走が止まらない。怒鳴られている立花仙蔵も、周りの生徒達も驚いている。乱太郎としんベヱがきり丸を止めようとするが、きり丸の怒りはおさまらない。



「秋奈姉は俺の家族だ!! いくら先輩でも……、秋奈姉を傷つけたら、この俺が許さないッ!!」



立花仙蔵の胸ぐらを掴むきり丸。これはマズイ。私が止めなければ。慌てて「きり丸」と名前を呼ぶ。そして、きり丸の腕を引っ張って、きり丸を抱きしめた。



「――私は大丈夫、心配かけてごめんね」



そう言って、背中をぽんぽんと優しくたたく。きり丸は昔、戦で家族を失くしている。本当に家族を失くしたわけではない私だから、その本当のつらさは分からない。でも、私のことを”姉”だと慕ってくれているきり丸。”姉”である私まで失いたくないのだろう。きり丸は、何も言わずに私の背中へと手をまわした。その行動に、思わず苦笑してしまう。しっかりしていても、やっぱり子供だよね。




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