Act.07

「馬鹿、希代の馬鹿」
「まあまあ、そんなに拗ねんなよハニー」
「ダーリンのせいよ」



昨日、私が男子テニスコートに行ったことを仁王が夏菜にチクったせいで、夏菜は昨日の夜から拗ねてしまっている。機嫌を取ろうと日曜日である今日、遊びに誘ったのだけれど、まだ機嫌は直らないようだ。でも、そんな機嫌が悪い時でも私のギャグにノってくれる夏菜は流石だと思う。



「来てたなら会いに来てくれても良いのに……」
「頑張ってるところを邪魔したくなかったわけよ」
「……何かあたしの為になることをしてくれたら機嫌直す」



口を尖らせて言う夏菜に、私は「お安い御用」と笑みを浮かべる。すると、夏菜も笑みを浮かべてくれた。やっぱり夏菜は笑顔でなくっちゃ。



「っつっても、何すれば良い?」
「夏休みに行われる合同合宿に一緒に来てください」
「……ごめんなさい、私英語分からないんです」
「全部日本語です」



簡単なことかと思っていたけれど、全然簡単なことではなかった。口元を引き攣らせながら、少し青ざめる私。土曜日の練習試合、あの時は正直夏菜を見捨てた。それで済むと思っていたのに、合同合宿なるものがあるだなんて。なんだよ合同合宿って。中等部高等部全学年の男子テニス部が合同で合宿するの? それとも高等部の男子女子テニス部の合同合宿?



「実は昨日のあたしの頑張りが認められてね、他校との合同合宿にも臨時マネとして参加してほしいって頼まれたの」



おい、まさかの他校とかよ。そこは私にとって一番良さげな高等部の男子女子テニス部合同合宿にしようよ頼むよ。



「でも、立海も他校もマネージャーが誰一人としていないみたいで、出来る限り合宿に参加できる臨時マネを探してほしいらしくて。で、希代、どう?」
「いや、どうって……。激しく拒否したいんだけど……」



ただでさえ人見知りだから、人が多い所には行きたくない。それに、絶対男ばっかだし。かと言って、そんな男ばかりの合宿に夏菜だけ行かせるのも……。いや、仁王と丸井に頼めば夏菜のこと守ってくれるかも。いやいや、アイツ等とて男だ。……難しい選択……。



「なんでまた断らなかったの?」
「なんていうか、行かなきゃいけない雰囲気が出てて、流れで……」
「……このお人好しめ」



呆れて言う私に、夏菜は「断れない性格なのは認めるけど……」とシュンとした。そんな夏菜を横目で見ながら「どうしたものか」と自分なりに考える。確かに男の集団に「合同合宿でも臨時やってくれる?」と頼まれたら怖くて逆らえないかもしれない。今回ばかりは夏菜が不憫だとは思うけれど、そこに自分も加わるとなると……、うん、逃げたい。



「……やっぱり駄目?」
「駄目っていうより無理。男だらけのとこに居たくない」
「気持ちは分かるけど……」



いまだにシュンとしている夏菜。……このままじゃ夏菜が本当に可哀想だな。この子だって不本意なわけだし。



「合宿って何日あるの?」
「えっと、確か一週間だったと思う」
「うわ、長いな。まあ、でも、そうだな、……幸村君が許可したら一緒に行ってあげる」



私の言葉を聞いて、夏菜が目を輝かせながら「本当っ!?」と聞いてきた。私は一応「幸村君が許可したら、だからね」と念を押しておく。夏菜は私の言葉を聞いてか聞いていないのか分からないが、すぐに「幸村君に聞いてみる!」とすぐにラインを開いた。



「幸村君とラインやってたんだ」
「あ、うん。練習試合について話す為に交換したの」



ほー、随分と仲が良いこと。



「それに、希代も仁王とラインしてて仲良いじゃん」
「そんな頻繁にやってないけどね」
「希代はあたしのなのに」



幸村君へのラインの文を打ちながら、夏菜がそう拗ねる。「はいはい、そうね」と言いながら夏菜の胸を触る。突然のことに、夏菜は「どわあっ!?」と変な声をあげながら驚いた。



「あっ! 送っちゃった! 何してんの変態!」
「待ってる間暇だから」
「んもーっ! 幸村君に変な文送っちゃったよ!」
「どれどれ」



ぷんぷん怒る夏菜を余所に、夏菜のスマホを覗く。ラインの幸村君とのトークが開かれていて、そこには確かに変な文があった。



≪合同合宿、友達も臨時として連れてって良い? あたし一人じゃ出来るか不安ではないです≫



思わず「ぶふぉっ!」と吹いた。本当は「あたし一人じゃ出来るか不安で」って送りたかったんだろうけれど、余計なものまで付け足されている。きっと私が驚かした時に、変換候補に指が当たっちゃったんだろうな。



「あ、既読ついた」
「えっ」



笑っていると、夏菜が送った文の横に既読文字がついた。私も夏菜も一緒になって幸村君の返事を待つ。



≪不安じゃないなら呼ばなくても大丈夫じゃない?≫
≪なんて嘘だよ( *´艸`) 勿論、呼んで良いよ。俺達も助かる。≫



お、おお……、あの幸村君から返事が……。夏菜の誤字にノってくれた。なんて感じの良い人。一人でちょっと感動していると、夏菜が幸村君に「誤字拾わないでwwありがとう!」と送っていた。この子本当にあの有名な幸村君とラインしてるんだなあ。私も仁王としてるにはしてるけど。



「ってか幸村君許可しちゃったよ!? 良いの!?」
「良いんです!」
「良くないんです!」



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