Act.06

現在地、目標地点から200m程離れた木陰。目標地点である男子テニス部コートを確認。テニス部ファンはどうやらいない模様。彼等は私に気づいておらず、テニスをしている。いまだ夏菜の姿は確認できていない。



「……まるで潜入捜査だな……」



自分の学校だというのに、休日に男子テニス部のコートに行かなければならないという理由で、何故か潜入捜査というか忍者というか、まあコソコソしなければならなくなった。さて、此処からどうやって皆にバレずにコートに辿り着けるだろうか。



〜♪



ラインの音が聞こえ、思わずビクッと大袈裟に反応してしまう。ラインの音ということに気づいて「なんだよ、もう」と悪態をつきながらポケットからスマホを出す。ラインを開くと、それは仁王からで、内容は「今どこじゃ?」というもの。



≪今学校内。コートから200mくらいの距離にいる≫



なるべく手短に返す。すると、またもやすぐに既読文字がついた。相変わらず早いなオイ、と思いながら返事を待つ。だが、一向に返事が送られてこない。「あれ?」と顔を上げて男子テニス部が使用しているテニスコートへと顔を向けると、フェンスの外に出た仁王がキョロキョロしている姿が見えた。こっちだ仁王! 気づけ!



「――あれ? ここの生徒?」



すぐ後ろから声をかけられ、私は身の危険を感じ、木陰から出るように横に飛び退く。その出来事は一瞬で、自分でも驚く程俊敏に動けた。改めて、声をかけてきた人物を見る。
……多分同じくらいの歳なんだろうけど……、うん、知らない人だ。



「すっげー! 何今の動き全然見えなかった! 君って忍者なの!?」



今の私の動きに感心したのか、私に声をかけた人物は何故か目を輝かせて私を見ている。不審者だと思って警戒していたのだけれど、もしかしたら違うのかもしれない。迷子か、学校に用があったのか。どちらにせよ、初めて見る人物だ。



「跡部に見せなきゃ!」



「やばいコレこの後の展開どうしよう」なんて思っていると、目の前にいる人物がそんなことを言った。そして、めっちゃ笑顔で私の手首を掴むと、小走りで走り出した。「え!?」と混乱していると、こちらに近づいて来ていた仁王が私に気づいた。



「お? どういう状況じゃ?」
「助けて仁王超助けて!」



必死に仁王に向けて手を伸ばすけれど、私を引っ張っている人物はお構いなしに走り続ける。それにより、仁王の横を通りすぎてしまった。そ、そんなっ……! 仁王はきょとんとしながら私と私を引っ張る人物を見るだけ。「お前もっと頭フル回転させて私の状況を全部察しろよ!」なんて心の中で思っても仕方がない。



「跡部っ跡部っ! 忍者見つけたーっ!」



大声でそんなことを言いながらフェンスの中に入るこの男。「おまっ、馬鹿野郎大声出すんじゃねぇよ!」とは言えないが凄く言いたい激しく言いたい。私を引っ張るこの男のせいで、近くにいるテニス部部員が私達へと視線を向ける。マジかよ勘弁してよ仁王助けてよ仁王。



「あーん? 忍者だと?」



辿り着いた場所は、普段男子テニス部部長である幸村君が座っているベンチ。そこには幸村君の代わりに、何故か泣きボクロが特徴の美青年が座っていた。どうやら彼が「跡部」らしい。っていうかね、忍者は今時いませんよ。逆にいるって思ってるほうが極稀ですよ。だからこの人は私のこと忍者だと思わないんじゃないかな。



「フッ、やはり忍者はいたのか」



おいィィイ! この美青年頭残念だぞ大丈夫か!?



「俺様の忍者にするのも惜しくねぇな」



……この人頭イッちゃってる。今すぐにでも精神科病院をオススメしたいけど、流石に初対面相手には言えないな。どうしよう、どう切り抜けよう。半ば「これもうダッシュで逃げてしまおうか」と思っていると、後ろから「あっ、御剣」というクラスメイトの声が聞こえた。そうだ、まだお前が居た!



「どうしたんだよぃ?」
「あ、丸井君。この子ね、忍者なんだよ! 凄いよね!」
「は? 忍者?」



私を引っ張った人物は目を輝かせながらそう言い、その言葉を聞いた丸井は私の顔を見る。口パクで「助けて」と伝えると、丸井は何故かニンマリと悪戯っ子のような笑みを浮かべた。おい、お前変なこと考えてるんじゃねぇだろうな。



「気づいちまったか! そうだぜぃ、コイツは忍者なんだ!」



お前マジ覚えてろよ赤毛ェェエエエ!



「やっぱりーっ! ねえっ、忍者の技とか出来るっ!?」
「え、いや……」
「コイツな、ここぞって時じゃねぇと技出さねぇんだよ」
「Aー、そんなー……」



あれ? 何? なんかフォローしてくれてる? コレ丸井フォローしてくれてる? とりあえず流れに身を任せることにし、丸井と私を引っ張った人物の会話に耳を傾ける。本当なら今すぐにでも夏菜と幸村君の関係について調べたかったのだけれど、捕まってしまったものは仕方ない。仁王が助けてくれることを願おう。



「でな、走るのは遅いし逃げ足も遅いけど、なんでか他の動きが俊敏なんだ! この前クラスメイトが背中押して驚かそうとしたときに、コイツいち早く気づいて避けたんだぜぃ!」
「すっごぉおおい! 俺絶対気づけないC!」
「ほう、気配に敏感なのか」



…………仁王は、まだですか……。
仲が良さそうに話している三人を遠い目で見ながらそう思う。仁王どこかなあ、とテニスコートを見渡す。どうやら他校との合同試合らしく、立海とは違うジャージを着ている人達がいる。部員達は真面目にテニスの試合をしていて、その中でも同じ学年の真田君が目立った。「もっと力を出さんかぁあああ!」と声をあげながら試合をしている部員を怒鳴っている。……怖っ……。



「ピヨッ」



そ、そそそそその声とその意味の分からん言葉はっ……!



「仁王っ」



いつの間にか後ろに来ていた仁王。私が振り向いて仁王を見ると、仁王は「変に巻き込まれたもんじゃの」と言った。その言葉に、「だよねー…」と力なく言う。相変わらず丸井達三人は喋ってるし、私の話なのに何故か放置されてるし……。



「あ、結局夏菜と幸村君の関係は?」
「今のところ進展無し。幸村はどう思っとるか知らんが、夏菜は友達だと思ってるようぜよ」



そうか、少なくとも夏菜は幸村君に恋愛感情は持っていないのか。……でも、仁王の「幸村はどう思っとるか知らんが」っていう言葉が気になるな。友達曰く、幸村君は優しくて紳士的らしいけど、実際はどうか分からんしな……。実際、仁王は私が思ってた性格とは違ったわけだし。



「成程、分かった。ってか、言葉で教えてくれるんならラインでも良かったじゃん」
「まさか本当に来るとは思わなかったぜよ」
「夏菜関係だからね」



さて、目的は果たしたし、そろそろ帰るか。夏菜の姿は見てないけど、きっと一生懸命頑張ってるだろうな。本当は会って話がしたいけど、邪魔するわけにはいかない。



「じゃ、私帰るわ」
「来て早々帰るんか」
「うん、じゃあまた。頑張ってね」



そう言いながら軽く手をあげると、仁王は「おう」と言って私と同じように軽く手をあげた。それを見て、私は仁王に背中を向け、テニスコートを囲っているフェンスの外へ出る。再びテニスコートへと顔を向けると、丸井達三人はまだ話しているものの、仁王は既に別の誰かと話していた。あれは多分柳生君だな。
数時間後、夏菜から「仁王から聞いたけど、希代今日テニスコート来てたの!!?」というラインが届いた。とりあえず笑って誤魔化しておいた。



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