Act.08

月曜日



「――というわけで、合同合宿の間手伝ってくれる御剣さん」
「三年の御剣希代です。よろしくお願いします」



夏休みまで今日を含めあと五日。
自己紹介は早めのほうが良いということで、幸村君からの命令により、放課後、男子テニス部に来た。どうやら合同合宿はレギュラー陣しか参加しないようで、自己紹介はレギュラー陣のみで良いらしい。



「御剣さんには城阪さんからマネージャーの仕事を教わってもらうようにするけど、皆いつも通りしっかりやろう」



幸村君の言葉に、レギュラー陣の皆さんが元気よく「はい!」と大きな声で返事をする。そのことに幸村君は満足そうに笑みを浮かべ、「じゃあ各自ウォーミングアップ」と言った。それにより、レギュラー陣がそれぞれウォーミングアップへと取り掛かる。



「城阪さん、よろしくね」
「うん、了解!」



幸村君が柔らかい笑みを浮かべながら夏菜に言う。それに対し、夏菜は元気よく頷いた。……おい、コイツ等デキる直前とかじゃないよな……?



「さあ、希代! ビシバシ行くよ!」
「うん、程々に頑張ろうや」
「あたしが教えたら多分希代一人でやってのけちゃうね!」
「それ全部私に押し付けようとしてない?」



私の言葉に、夏菜は笑顔でピシッと固まった。「本当かよ」と内心ツッコんでいると、夏菜は気を取り直したようで「ささ、早く覚えるよ!」と言って足を動かした。呆れながらではあるものの、私も夏菜の後ろを追って足を動かす。こんなんで当日大丈夫かね……。




 ***




合同合宿でのマネージャーの仕事は主に、ドリンク作り、球出し、スコア付け、球拾い、応急手当て、夏バテしないように氷を大量に作る、の五つらしい。割と簡単そうだが、夏菜曰く「やってみると結構キツい」らしい。



「希代が一緒なら安心だわ。楽出来るし」
「ちゃんと仕事はやってよね。サボってるとこ見たら容赦なく胸揉むから」
「あたし頑張る!」



なんて単純だこと。マネージャーの仕事を箇条書きで書いたメモをポケットにしまい、夏菜と一緒に男子テニス部の部室を出る。こんな所を男テニファンに見られたらおしまいだ。どうか見られていませんように。



「御剣さん、どう? 大丈夫そう?」
「ああ、うん。大丈夫そう」



ベンチに座っている幸村君に話しかけられた。声をかけてくるとは思わなかった為、少し驚きながら返事をする。私の返事を聞いて、幸村君は「それは良かった」と言いながら綺麗に微笑んだ。……幸村君って女装似合いそうだな……。



「説明終わったけど、あたし達どうすれば良い?」
「んー…、そうだね……、せっかくだしゆっくりして行けば良いよ」
「迷惑じゃない?」
「全然。あ、隣座る?」
「あ、うん、ありがとう」



仲良く喋る夏菜と幸村君。何故か入り込むことの出来ない二人の会話に、私はただ冷めた目をしている。二人の周りに見えそうなピンクのオーラ、飛び散っていそうなハート、まるで付き合っている男女カップルかのようだ。本当、知らない間にこんなに仲良くなっていただなんて思わなかった。



「あ、希代のスペース無いね……」
「あ、や、大丈夫。私ちょっと行ってくるから」
「そうかい? ごめんね?」
「平気平気、本当大丈夫」



本当に申し訳なさそうな二人の表情に、何故だか私が惨めに思えてくる。「ちくしょう」と思いつつ仁王を探すが、仁王は軽く試合をしているようで話せる状況じゃない。ならば、と丸井を探すと、丸井は同じレギュラーであるジャッカル桑原君と仲良く喋っていた。桑原君とは話したことがないから近づくのは正直微妙だけれど、この際仕方ない。



「御剣、今ちょっと良いか?」



足を動かそうとした時、声をかけられた。近づいてきた足音は聞こえていたけれど、まさか私に用があるとは思っていなかった。内心驚きながらも振り返ると、そこにはノートとシャープペンを手に持っている柳蓮二君の姿。「大丈夫」と返事をすると、柳君は「場所を変えよう」と言って歩き出した。柳君は他人のデータを取ると言われているし、きっと私のデータも取るのだろう、と大人しく柳君の後ろを着いて行く。



「勘づいていると思うが、少々データを取らせてもらいたい」
「うん」



テニスコートの隅っこに移動すると、案の定柳君がそう言った。頷くと、柳君は「ありがとう」とお礼を言ってノートを開いた。



「ある程度のデータは取れているが、細かいデータは取れていなくてな。まずは……、趣味でも聞こうか」
「趣味……、えっと、ゲームとパソコンと、絵を描くこと」
「では、お小遣いは何に使う?」
「主にゲームと漫画」
「好みのタイプは?」
「誠実で浮気しない人」
「行きたいデートスポットは?」
「あー…、特にはないけど、二人が楽しめる所、かな?」



聞きたいことは終わったのか、柳君は「ありがとう」とお礼を述べ、ノートを閉じた。
本当誰がこれを参考にするんだ、っていう質問ばっかだったけれど、柳君は取ったデータを何に使うんだろうか。ただ私と仲良くなりたくてデータを取ってるのか、もっと違うことに活用しようしているのか。



「何故俺が御剣のデータを取っているか、不思議そうだな」



私の考えていることが分かったのか、柳君はそう言った。さすがは立海三強のマスター、といったところだろうか。普段データを取ってるから、私の考えてることなんてお見通しなのかな。



「俺と普段話さない者は、俺がデータを取っていると大体不思議そうな顔をする。御剣も例外ではなかったな」
「へえ、よく見てんだね」
「伊達にデータを取っていないさ」



自慢げに言う柳君に、私は「ふ〜ん」と呟く。で、結局はデータをどう活用するのか分からないな。悪いことに使われなきゃ良いけど。



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