Act.03

「あ、希代ちゃんおはよう」
「おはー」
「ん、おはよ」
「ははっ、眠そう」



まだまだある眠気に必死に耐えながら教室に入ると、愛しの友人達が朝の挨拶をしてくれた。掠れている声で言うと、友人達は笑う。そのまま自分の席に行き、椅子に座る。机の上に鞄を置き、その鞄を枕代わりにしようと頭を乗せる。目を閉じると、このまま寝てしまいそうだ。



「希代ちゃん、おはよう」



危うく寝そうになっていると、頭上から私に話しかける声が聞こえた。重い目を擦りながら顔を上げると、目の前に友人がいた。大人しくてクラスで目立たない彼女は中川悠ちゃんといって、私の前の席の子だ。



「おはよ」
「眠そうだね」
「うん、昨日夜遅くまでゲームやってて」
「ふふ、またゲーム」



控えめに笑みを浮かべる悠ちゃん。そんな悠ちゃんに癒されつつも、私もつられて笑みを浮かべる。



「そういえば今日体育あったっけ?」
「うん、今日はソフトテニス。丸井君や仁王君は活躍しそうだね」
「そりゃあテニス部だもの。ずるいよなあ」



そう言いながら頬杖をつくと、立っている悠ちゃんは苦笑しながら「確かに」と言う。そして、持っていた鞄を机の横にかけ、椅子に横向きに座って私へと顔を向けた。



「でも、女子は喜ぶだろうね」
「ああ、人気だもんね」



笑いながら言うと、少し遠くのほうで「はよーッス」という丸井の声が聞こえた。今調度話題に出していた為、反射的に丸井へと顔を向ける。丸井はクラスのムードメーカーのような存在で、男子の輪にすんなり入っていった。後ろには仁王もいて、眠そうに頭をボリボリと掻いていた。仁王に関しては女子から人気が絶大で、女子から「おはよう」と話しかけられている。



「そういえば、まだ夏菜ちゃん来てないね」
「だね、休みかな?」



教室を見渡しても、我が親友の姿はどこにもない。いつもならこの時間には来ているのに。スマホを取り出して連絡が来ていないか確かめると、ラインが来ていた。夏菜からだ。ラインを開いて見てみると、「今日朝から男子テニス部部室に行った! 自己紹介のとき緊張しすぎて噛んだわ恥ずかしい」という内容だった。まあ、なんとも夏菜らしい。一応「吹いたwww」と送る。



「夏菜ね、なんか用事があったんだってよ」
「じゃあ休みじゃないんだ」
「みたい」



「良かったね」と笑みを浮かべる悠ちゃん。
傍から見れば私は相当夏菜が大好きなように見えるらしく、夏菜と一緒じゃないと生きていけないと思われているようだ。以前悠ちゃんに言われた。確かに夏菜は大好きだし愛してるしベッタリしてるけれど、周りからそう見られていたなんて。



「おはようさん、御剣、中川」



突然、横から声がかかった。意外な人物が声をかけてきて、内心驚きながらもいつも通りの表情でそいつへと顔を向ける。既に机の横に鞄をかけた後だったのか、仁王は鞄を持たずに立っていた。



「おはよ」
「え、あ……、お、おはよ」



仲の良い人じゃないと普通に話せない悠ちゃんは、緊張しながらも仁王に挨拶をした。仁王は私と悠ちゃんの言葉を聞いて「プリッ」と言うと、私の隣の席へと座った。私の隣の席は夏菜なのだが、まだ来ていない為座っても良いと思ったのだろう。……つか何故座った。



「珍しいね。いつもなら丸井と一緒か一人じゃん」
「雅ちゃんは気まぐれナリ」
「なんだそりゃ」



普段あまり話さない仁王が来たから、悠ちゃんってば何も喋れずにいるよ。同じクラスなんだから、悠ちゃんが引っ込み思案なの知ってるくせに。



「あ、あの、私、忘れた教科書借りてくるね」
「ああ、うん、行ってらっしゃい」



仁王がいるのに耐えられなかったのか、悠ちゃんは早口でそう言いながらそそくさと教室を出て行ってしまった。「あ〜あ」と言いながら仁王を見ると、仁王はムッとしながら「なんじゃ、俺のせいなんか」と言った。



「クラスメイトなんじゃから逃げんでも……」
「仲良くならないとちゃんと話せない子なんです、悠ちゃんは」



私がそう言うと、仁王は「ぶー」と言いながら頬杖をついた。男子高校生が「ぶー」って言っても可愛くないからな。自重しろ。



「そういえば、城阪が明日の練習試合に臨時マネとして来るらしいぜよ」
「うん、知ってる」
「御剣は来んのか?」
「幸村君に誘われてないし、誘われてもゲームやりたいから行く気はないな」



正直に答えると、仁王は「それはつまらんの」と言った。と、その時、教室に夏菜が入ってくるのが見えた。「おっ」と声に出しつつ反応すると、仁王は私の視線を辿る。



「城阪か。ほんに御剣は城阪が好きじゃのう」
「まあね」



呆れている仁王に返事を返し、人や机を避けて此方に歩いてきている夏菜に「おはよー」と聞こえるように少し大きな声で言う。夏菜は私の顔を見て笑顔で「おはよう」と返してくれた。そして、夏菜の席に座っている仁王を見たぎょっとする。



「え、ちょ、仁王、」
「城阪、おはようさん」
「あ、うん、おはよう。え、なんであたしの席に座ってんの」
「御剣と話しとったきに」



困惑している夏菜に対し、仁王はなんでもないように普通に話している。私と仁王という珍しい組み合わせに、夏菜は不思議に思いながらも、とりあえず鞄を机の横にかけた。そして、立ったまま私と仁王を見る。



「いつの間に仲良くなったの?」
「昨日の帰りにコンビニで会って話したんじゃ。そっからかの」



仁王の言葉に、「そうなんです」と頷く私。夏菜は「へえ」と意外そうに呟いた。
まあ、確かに私は夏菜に「仁王が苦手」と話したことがある。その当時は、仁王のことをクール気取ってるいけ好かない奴だと思っていた。けれど、今ではちょっと誤解だったかな、と思っている。コンビニで会った時にしろ、今こうやって話しているにしろ、仁王はクールというより人見知りなんじゃないか、なんて。悠ちゃんに話しかけたときは驚いたけれど、悠ちゃんとは人見知りって点で通ずるものを感じたのかな。



「あ、そろそろ先生が来る。俺は席に戻るぜよ」



その言葉に「ういー」と返事をする。仁王はそのまま自分の席に戻っていき、夏菜が椅子に座った。「う、なんか温もりが気持ち悪い」と言う夏菜の言葉に、思わず吹いた。



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