Act.02

私の家は学校から徒歩二十分。気分によって自転車か徒歩か決めているが、今日は徒歩の気分であった為、のんびり歩きながら帰っている。「あーあ、今日も一日頑張ったなあ」なんて思っていると、視界にコンビニが入った。喉が渇いたせいか、体は自然とコンビニに向かう。



「いらっしゃいませー」



コンビニに入ると、レジにいるお姉さんが笑顔で迎えてくれた。その笑顔に癒されつつも、奥に入って飲み物を選ぶ。紙のほうも美味しいのあるけど、帰り道だからペットボトルの方で探す。お茶も良いけど……、どうせ帰るだけだからジュースにしようかな。んー……、午後の紅茶のレモンティー…、いやストレートティー……。



「お? 御剣?」



横から私の名を呼ぶ声が聞こえ、そちらに顔を向ける。「げ」と言いたくなるのを堪え、私は平常心を保とうと必死になる。



「おやまあ、仁王」



いつものようにマイペースに返す。すると、私の名を呼んだ張本人である同じクラスメイトの仁王雅治が「なんじゃ、その反応」と言いつつおかしそうに薄ら笑みを浮かべた。あ、笑った。



「部活は?」
「今日は休みじゃき。土曜日に練習試合があるから、体力温存じゃと」



ああ、だから放課後幸村君が来たのか。……あの後、夏菜どうしたんだろ。



「飲み物、何買おうとしとったんじゃ?」
「午後の紅茶のさ、レモンティーかストレートティーかで選んでたんだ」
「ミルクティーという選択肢は?」
「だって昨日飲んだし」



だから、今日はレモンティーかストレートティー。そう言うと、仁王は「午後の紅茶シリーズ好きなんか」と呟いた。と思ったら、何故か「うーん……」と手を顎に当てながら悩み始めた。そのことに「え、何、選んでくれてるの?」ときょどる。



「じゃあストレートティーで」
「了解、レモンティーね」
「ピヨッ!?」



ギャグのつもりで、わざと仁王が言った反対のレモンティーを手に取る。すると、仁王は面白いくらい大袈裟に反応してくれた。そのことに思わず「ぶふっ」と吹く。店内である為あまり騒いではならないと思い、口に手を当てて俯き、笑いを堪える。



「……御剣は捻くれとるのう」
「なんだとこの野郎」



仁王の言葉に、私は笑っていた表情を一瞬で真顔に変える。そのことに、今度は仁王が「ぶふっ」と吹く番だった。そんな仁王をスルーし、手に取ったレモンティーを元の場所に戻し、仁王が言ったストレートティーを手に取る。



「なんじゃ、結局ストレートティーか。なんだかんだ言って優しいきに」
「うん、知ってる」
「やっぱ優しくない」



なんだよ。



「で、仁王は何買うの?」
「んー、せっかくじゃしレモンティー」



そう言いつつ、仁王は私が戻したレモンティーを手に取る。そのことに「パクリか」と言うと、「パクリじゃ」と肯定されてしまった。そこは否定しようぜ。ってか凄く今更だけど、仁王ってこんな感じの性格してたっけ? なんかクールで一匹狼みたいな感じじゃなかったっけ? こんなにお茶目だったっけ? 私が知らなかっただけ?



「ジュース奢っちゃろうか?」
「そう言って後で何か言ってくるんでしょ」
「何故分かった」
「私それ前にやったことあるから」
「……捻くれとる……」
「お互い様」



軽く会話をしながらレジへと向かう。レジにいる店員さんは二人に増えていて、私は最初に居たお姉さんの店員さんのレジを選んだ。仁王はもう一人の男の人にレジをやってもらっている。



「ポイントカードはお持ちですか?」
「いいえ」
「では、――円になります」



ニコッと笑顔を浮かべるお姉さんに再び癒されながら、財布からお金を出す。お金はぴったりあった為、お釣りはない。



「有難う御座いました」



ペコ、と頭を下げるお姉さんに、私もつられて軽く頭を下げる。財布を鞄にしまいながらコンビニを出て、邪魔にならない程度のコンビニの前に移動する。買ったストレートティーの蓋を開けて飲みながら空を見ると、まだまだ青かった。ふと視界に仁王がコンビニから出てきたのが見え、ストレートティーを飲むのを止めて仁王へと顔を向ける。



「店員さんの態度悪くて怖かった……」



標準語でそう言いながら、泣きそうな顔をする仁王。意外とコイツはヘタレで臆病なんだろうか。よく分からん。



「お姉さんのほうは優しかったよ。癒しだった」
「俺もお姉さんのほうにしときゃ良かったぜよ」
「だが断る。お姉さんは渡さん」



そう言いながら笑みを浮かべると、案の定「お姉さんは御剣のじゃなか」という返事が返ってきた。その言葉に「知ってる」と私が言うと、仁王は私の隣に立って、先程の私と同じように買ったレモンティーを一口飲んだ。



「甘い」
「そりゃあね」



仁王に返事をしながら、ストレートティーを鞄の中に入れる。制服のポケットに入れていたスマホを手に取って時間を確認すると、四時半くらいだった。「ああ、そろそろ帰ってゲームしたいな」なんて思いつつ、再びスマホをポケットの中にしまう。



「じゃ、そろそろ帰るから」
「おう、また明日」
「うん」



軽く手を振り、仁王に背を向けて歩き出す。
今日の帰りはいつもと違って不思議だったな。滅多に寄り道しないのにコンビニに寄って、仁王と会って、そのまま自然と話し込んで。苦手意識を持っていたはずなのに、なんだか話しやすかった。やっぱり、私は仁王を知らなかっただけなのかもしれないな。



(”あの後どうなった?”)
(”臨時マネやるしかなくなったよ! 馬鹿!”)
(”はっはっは、それは愉快”)



戻る 進む
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -