Act.01

立海大付属高校、男子硬式テニス部レギュラー陣。
彼等は、ファンクラブが作られる程のイケメン揃い。普段は普通に過ごしているが、彼等の知らないところでは彼等を見て騒いでいる女子も少なくない。私の友達の何人かも彼等のことが好きであり、よく話を聞かされる。最早、この立海大付属高校に彼らを知らない者はいない、と言われるほど彼等は有名であり人気者なのだ。
そして今、



「……今、なんと……?」



放課後、私は親友である城阪夏菜から衝撃的なお願いをされてしまった。



「だから、その、あの、幸村君にね、土曜日の練習試合でマネージャーをやってほしいって。で、希代も……」
「あ、無理です。却下です」
「そこをなんとか! あたし一人じゃ出来そうもないし、希代がいれば助かると思うから! お願い!」



パンッ、と手を合わせて必死に頭を下げる夏菜。
必死な夏菜には申し訳ないが、私は土曜日に一日中ゲームをするという計画がある。いや、計画ではないけど。ほぼグータラしてるだけだけど。それに、正直知らない人とあまり関わりたくないっていうか。同じクラスメイトである丸井とは話せるが、同じクラスメイトであるにも関わらず仁王とはあまり話さないし。話しても一言二言だし。アイツなんか雰囲気がクールだから話しかけづらいし。そもそもテニス部とか女子が怖くて近づけないし。



「……なんでテニス部部長の幸村君と仲良くなったの……」
「同じ委員会で」
「うん」
「一年の委員会の時に話しかけてくれて」
「うん」
「入りたてだから他に話す人いなくて」
「うん」
「しかも有名だなんて知らなかったから、つい」
「……うん」



お前詰んだな。
哀れみの目をしながら夏菜に微笑みかけると、「見捨てないでー!」と両肩をガシッと掴まれ、ぐわんぐわん、と前後に揺らされる。その勢いが強いこと強いこと。



「ちょ、ま、うっ」



段々と気持ち悪くなり、片手で口元を抑えながら夏菜に「ギブ」ということを伝えると、夏菜は「あ、ごめん」と言いながら揺らすのを止めた。揺れは止んだが、いまだに気持ち悪さが残っている。おのれ夏菜。



「つか断ってくれば良かったじゃん」
「こ、断ろうとしたよ! でも、悲しそうに微笑んで、」

――急にこんなこと困るよね。本当にごめん、他に頼める人いなくて。

「って……! そんなこと言われたら断れないじゃない! 無理じゃない!」
「そこは意地でも断ってこいや」
「希代酷い!」




「ぶわっ」とわざわざ言いながら、わざとらしく両手で顔を覆って俯く夏菜。
いやいや、それ自分がやっちまったやつじゃねぇかよ。っていうか、幸村君も確信犯だったんじゃないだろうか。だって、わざわざ「他に頼める人いなくて」なんて言うか? これアレだろ、夏菜の人の良さを利用した計画的行為だろ。



「面倒なことになったね」
「え、結局一緒にやってくれないの!?」
「自分が招いた種だろうが」



呆れながらそう言うと、夏菜は「ですよね……」としょんぼりしながら言う。
あんなイケメン揃いのテニス部の中に女の子が一人、夏菜には本当に酷だと思う。けれど、可愛い子には旅をさせろ。ここはひとつ、厳しい態度で、甘やかしてきた夏菜の成長を願おうではないか。こういう過酷な状況を乗り越えてこそ、人はより一層強くなるものだ。



「城阪さん、」



放課後の教室で二人きり。そんな中、教室の空いたドアから誰かが夏菜の名を呼んだ。夏菜が振り向くのにつられて、私も夏菜の名を呼んだ人物へと視線を向ける。なんと、そこにはテニス部部長で有名な幸村精市が立っていた。



「幸村君」



夏菜が幸村君の名を呼ぶと、幸村君は綺麗に笑みを浮かべながら教室へと入ってきた。「男なのに女みたいに綺麗だな」と、じっと幸村君を見ていると、ふいに幸村君が私へと視線を向けた。バチッ、と視線が交わり、慌てて「どうも」と言う。すると、幸村君も私同様に「どうも」と言いながらニッコリ優しく笑みを浮かべた。
人付き合い上手そう。



「城阪さん、土曜日のことで話があるんだけど、良いかな?」
「え、あ……、」



幸村君の言葉に、夏菜は私へと視線を向ける。その視線に気づき、私は鞄を持って立ち上がる。その時、夏菜は「えっ」という顔をする。私に助けを求めているんだろうけれど、私は助けないぞ。



「じゃ、私帰るから。また明日ねー」



わざとらしく笑みを浮かべ、ひらひらと手を振りながら夏菜と幸村君に背を向けて教室を出る。
帰ったらラインでどうなったか聞こーっと。……楽しんでるわけじゃないよ?



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