Act.21

「…………」
「…………」



困った。
忍足君、桑原君、真田君と、次々に順調に走ってタイムを測ることが出来た。そして、いよいよ最後の一人、というところで厄介なことが起きた。最後に走るのは仁王なのだが、その仁王が「御剣が遊んでくれたら走る」と言いだしたのだ。……子供か、コイツは。私は小さく溜め息をつき、「じゃあ遊ぶよ」と言う。仁王は私の言葉が意外だったのか、「えっ」と驚いて私を見る。



「はい、最初はグーッ、じゃんけん、」



「ポンッ」と拳を作った片手を出す。思わずなのか、仁王も慌てて片手でチョキを作って出す。ふむ、私の勝ちだ。私は「これも遊びの内に入るよ」と勝ち誇った笑みを浮かべる。仁王はそのことに「酷いのう」と不貞腐れた。



「はいはい、氷帝と青学の人達来るから早く走っちゃって」
「御剣はひねくれとるー」
「今始まったことじゃないでしょ」



「ほら」と仁王の背中を押してスタート地点に立たせる。いまだに仁王が「酷いー天邪鬼ー」と言っているが全て無視だ。記録用紙から仁王の名前を見つけ、「よーい、」と言いながらストップウォッチをかまえる。そして、「ドンッ」と言う。その瞬間、先程までだるそうだった仁王が、いきなり真剣な表情で走り出した。……最初からその表情しろっての。



「御剣さん、氷帝と青学連れてきたよ」



その時、調度氷帝メンバーと青学メンバーを連れてきた滝君が来た。此処からは滝君と一緒にタイム測定をすることになっている。ちなみに、滝君は今まで氷帝、青学メンバーの素振りの指導をしていた。



「今日結構暑いね。大丈夫? 気分悪くない?」
「大丈夫。あっ、でも化粧溶けてないかな? 溶けてたらニキビ見えちゃう」
「んー…、ちょっとてかってる」
「マジか!? えっ、マジか!?」



滝君の言葉に、私は少し後ずさりながらどうにか顔を隠せないかとあたふたする。そんな私を見て、滝君が「ぶふっ」と吹き、口に手をあてながら「あははっ」と笑った。私にとっては笑いごとじゃないっていうのにっ……。



「滝君、女の子の気持ちになろう。午前の時”女心に興味がある”って言ってたじゃん。思い出そう、今すぐに」
「ちょ、御剣さん目が本気すぎて怖い。あ、ほら、仁王来たよ」



滝君の言葉に、私は「えっ」と言いながら走っている仁王へと視線を向ける。確かにゴールに近づいていて、私は慌ててストップウォッチを構える。そのまま何秒かして仁王がゴールに辿り着き、ストップウォッチを押した。走り終わった仁王に「お疲れ」と言いながらクロスワードパズルの紙を渡し、ストップウォッチに出ている数字を記録用紙に書く。



「はい、じゃあ次滝君ね」



そう言いながら、ストップウォッチと記録用紙、シャープペンを滝君に手渡す。滝君は「うん」と言いながら私が渡した物を受け取る。さて、立海や四天宝寺メンバーはまだクロスワードパズル解けてないし、私はどうしようかな……。



「なあなあっ、姉ちゃんの好きな戦国武将って誰なん?」



何もすることなく青空を見ようと決めた時、横から声が聞こえた。内心驚きながらも声のした方を向くと、首を傾げた遠山君の姿。「なんで?」と聞くと、「これに問題で出てるんや」と言い、クロスワードパズルの紙を見せた。問題を一から見てみると、最後の問題には確かに「御剣希代の好きな武将」と書いてあった。……渡邊先生……。



「これ皆のにも書いてあるんだよね?」
「おん。皆一緒」



ということは……、皆私にこの問題の答えを聞いてくるわけだな……。



「先輩大声で言っちゃえば良いんじゃないッスか? その方がいちいち聞かれなくて先輩も楽っしょ」



話を聞いていたのか、切原君が私に顔を向けて言った。その隣で一緒に問題を解いていたであろう柳生君も「確かに」と頷く。いや、それ私のメンタルが潰れやしませんかね。いきなり好きな戦国武将の名前言われても皆驚くだけなんじゃ……。っていうか、私の好きな戦国武将、渡邊先生に教えたことないんだけど……。じゃあ、



「”一体誰が教えたんだろう”とお前が考えている確率94%」
「テメェの仕業か柳」



いつの間にか横にいた柳君の言葉を聞き、私は思わず柳君の胸倉を掴む。柳君は至って平然としながら「他校の奴等も見ているというのに大胆だな。評判落ちるぞ」などと言ってきやがった。誰のせいだと思ってるんだこの野郎。渋々手を離し、柳君を睨みつける。



「察しの通り、俺が渡邊先生に教えたんだ。というわけで、俺は終わったぞ」



そう言い、柳君がクロスワードパズルの紙を私に手渡す。それを受け取りながら、「というわけで、じゃないよ」と柳君に文句を言う。けれど、柳君はフッと笑みを浮かべるだけだった。柳君のクロスワードパズルの紙を見ると、確かに全て答えが埋められていた。私は紙から柳君に顔を向ける。



「終わった人はAコートで、竜崎先生の愛のボールを5分間打ち続ける練習です。全て打てなかった人は竜崎先生からの愛のお仕置きがあるそうなので、頑張ってください」



私の言葉に、柳君達が青ざめる。そして、話を聞いていたのか、まだクロスワードパズルを完成させていない立海、四天宝寺メンバーも「げっ」と青ざめた。「計算外だ……」と呟き、青ざめながらもAコートに向かって行く柳君。強くなれ。



「で、結局姉ちゃんの好きな戦国武将って?」
「ああ、それは、」



明智光秀。
そう言った瞬間、その場にいた全員の視線が私に注ぎ、いたたまれなくなった。



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