Act.22

昼間に「明智光秀」と答えた時から、跡部君が私を見ては悲しげな表情をするようになってしまった。氷帝で一番仲の良い滝君に聞いてみても「さあ、どうしてだろう」と首を傾げられた。もしかしたら知らないふりをされているのかもしれない。一日で分かったことだけれど、滝君って意外と意地悪なところがあるし。



「御剣せんぱーい、ゲームしましょーっ」



午後の練習も終わり、夕食も済ませ、今からは自由時間。皆が食堂から出て行く中、大きな声で私にそう言うのは切原君だった。隣にいる夏菜は「元気だねえ」と笑みを浮かべる。しかしながら、私としては恥ずかしい。



「良いけど、21時からは桑原君とホラゲーやる約束してるから、それまでね」



前まで近寄ってきた切原君に言うと、切原君は青ざめながら「えっ、先輩ホラゲーやるんスか……」と言った。ニッと笑みを浮かべて「やる?」と聞くと、無言で首を横に振る。どうやら切原君はホラーが苦手なようだ。素直な彼に笑みを浮かべ、「じゃあ準備しようか」と言う。




 ***




柳君と同室の切原君の部屋でゲームをやることにした。のだが、問題発生。



「……先輩、どうしましょう」



各部屋にテレビがあるものの、それらは全て壁に埋め込まれている液晶テレビ。跡部君はテレビゲームをしない人なのか、PS3のコードとテレビを繋げる為の物が無いのだ。ゲーマーな私と切原君にとってゲームが出来ないというのは死に等しい。多分。こうなったら……、



「……他にないか跡部君に聞いてこようか」
「……そうッスね」



思わず遠い目をして言う私と切原君。一緒にいる夏菜が苦笑しているのが分かる。柳君は他校の人達のデータを取りに行っていて部屋にはいない。どこまでもデータ好きな人だ。




 ***




「というわけなんスよ! 跡部さんどうにか出来ませんか!?」



跡部君の部屋に来て早々、切原君が事情を説明してそう言う。けれど、跡部君の部屋には同室である樺地君や芥川君のみならず、滝君も居た。ちなみに、夏菜は幸村君に呼ばれて今はいない。幸村君抜かりなし。



「それなら大広間にコードを繋げれる大型テレビがある。それを使え」
「マジッスか! ひゃっほーう!」
「……で、御剣はいつまで土下座しているんだ?」
「や、あの、これ、あの、」



私は決して土下座をしているわけではない、決して。ただ跡部君の部屋に来た時、同室の芥川君が私を見つけて「あー!」と駆け寄ってきたかと思うと、何故か後ろから圧し掛かりをくらい、そのままバランスを崩して土下座の状態になってしまっただけだ。いまだに芥川君は私の背中から退いてくれる気はないらしい。何故誰も助けてくれない。



「明智光秀好きの御剣さん、大丈夫?」
「殴って良い?」
「ふふ、物騒だなあ」



わざと「明智光秀好き」と強調する滝君に少しイラッときた。素直に言うと、滝君は笑顔でその言葉をサラリとかわしてしまう。効果無し。「ちくしょう」と思いつつ、背中の芥川君を退けようと起き上がろうとするものの、芥川君が重いせいか中々退けることができない。



「ったくジローの奴……。樺地、退けてやれ」
「ウス」



跡部君と樺地君の声が聞こえたかと思うと、背中の重い芥川君が退いた。「助かった」と安心しながら体を起こし、いつの間にか寝てしまった芥川君を退けてくれた樺地君に「ありがとう」とお礼を言う。樺地君は「ウス」としか言わなかったけれど、滝君から樺地君の良い評判はたくさん聞かされたし、優しい人なんだな、と思う。



「さっ、先輩、早くゲームしに行きましょーっ」



動けるようになった私の腕を引っ張り、満面の笑みで言う切原君。慌てて跡部君達に「お邪魔しました!」と言い、切原君と一緒に跡部君達の部屋を出た。
その後、私と切原君はシューティングゲームを満喫し、夏菜と桑原君と合流してホラゲーを楽しんだ。と言っても、プレイした桑原君は勿論、ヘタレである私と夏菜、ホラーが苦手な切原君の悲鳴がうるさかったのか竜崎先生に怒られてしまった。



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