Act.20

午後の練習が始まった。皆昼食を食べたばかりで元気が溜まったのか、最初から飛ばし過ぎな人も居たり、バランスを考えて動く人もいたり、午前よりも絶好調のようだ。それは私も例外ではなく、私もお腹が満たされた為か、午前よりもやる気が増している。



「今からグラウンド一周のタイム測りまーす。一人ずつ並んでくださーい」



ストップウォッチと記録用紙を挟んだバインダー、シャープペンと念の為の救急箱を持ち、立海と四天宝寺のメンバー達に言う。やる気のないような言い方に聞こえたのか、丸井が「やる気出せー」と言ってきた。私は眉間に皺を寄せ「出してるっての」と言う。そうしている間に、一人一人自由に列になって並んで行く。一番最初はやる気満々の髪の毛の色素が薄い人。



「名前教えてください」
「おっ、忍足謙也、ですっ」



四天宝寺は大阪にあるから関西弁なんだろうけれど、何故か敬語を使われた。でも私は気にせずに、記録用紙の四天宝寺の一覧から「おしたりけんや」という名前を探す。うん、漢字は「忍足謙也」で間違いないだろう。



「すぐタイム測るんで位置についてください」
「は、はいっ」



同い年だというのに、何やら緊張されているような。まあ、私も知らない男と話すとき変に緊張するし、仕方ないことなのかな。気を取り直し、位置についた忍足君を確認してから「よーい」と声をかける。ストップウォッチを見て、「ドンッ」と言ったところでストップウォッチのスタートを押す。私の言葉を聞き、忍足君が一気に走り出した。



「おお……」



思わず声が出てしまう程、忍足君は走るのが速い。もの凄く速い。私の声を聞いたのか、次走る桑原君が「アイツ、浪速のスピードスターって呼ばれてんだぜ」と教えてくれた。私は「へえ」と声に出しつつ、走っている忍足君をじっと見る。確かに、今まであんなに速く走れる人見たこと無い。



「謙也ーっ! マネージャーがお前のこと見とるでーっ!」
「ガン見よーんっ! ええとこ見せなーっ!」



「ヒューヒュー!」とノリノリで言う一氏君と金色君。二人の言葉が聞こえたのか、忍足君は走りながらも顔を真っ赤にし「なっ、何言うとんねん!」と二人を怒鳴った。怒鳴られた一氏君と金色君はいまだにニヤニヤしたままだ。その後、すぐに忍足君が走り終わった。忍足君は走り終わった瞬間、一氏君と金色君に「走っとる最中に何言うねん!」と文句を言っていた。少し笑ってしまいそうになる。



「次桑原君ー」
「おう」
「あ、今日の21時空けといて。ホラゲーやろ」
「はあっ!? 今日やるのか!?」



「早いほうが良いでしょ?」とケラケラ笑う私に、桑原君は少し青ざめながら「マジかよ……」と呟く。そのまま走るコースのスタート地点へと歩いて行った。私は記録用紙から桑原君の名前を探し、見つけたらストップウォッチを準備する。私と桑原君の会話を聞いていたのか、金色君と一氏君が「あら、マネージャーちゃんとジャッカルきゅん良い感じ」「おい謙也! 取られてまうで!」と会話をした。ツッコんだほうが良いのだろうか。



「忍足君、」



走り終わった人はやるべきことがある、ということを思い出し、忍足謙也君に声をかけた。私が呼んだことに「ひゃ、ひゃいっ!」と大袈裟に返事をする。そのこと内心苦笑しつつ、私は忍足君に一枚の紙とシャープペンを渡す。



「渡邊先生特製のクロスワードパズルです。走り終わった人はこれをやって頭を柔軟にしろと」



我ながら淡々としながら言うと、忍足君はぎこちなく私からクロスワードパズルの紙とシャープペンを受け取った。桑原君に視線を向けると、ちょっとした準備体操を終え、走る準備をしていた。私は桑原君に「位置について、よーい」と声をかける。桑原君がぐっと走る体勢を整えたところで「ドンッ」と言ってストップウォッチを押す。



「先輩頑張れーっ!」
「浪速のスピードスターに負けんなーっ!」
「負けんなハゲー」
「最後の悪口聞こえてるからな!」



走っている桑原君を応援する切原君と丸井、さり気なく悪口を言う仁王。切原君と丸井は良いとして、仁王の言葉に走りながらもツッコミを入れる桑原君。仲良いなあ。結果、桑原君のタイムは忍足君より上回ることが出来ず、丸井に「何やってんだよぃ。後でジュース奢れ」と理不尽なことを言われて終わった。



「次はー…、」
「俺だ」
「真田君ね」



記録用紙から真田君の名前を見つけると、頭に何かが乗った。そのことに驚いて顔を上げると、目の前にいる珍しく帽子を被っていない真田君がいた。頭に乗せられた何かに触れれば、それは確かに帽子の感触。



「運動はしていないとはいえ暑いだろう」
「や、でも、真田君今から走るし……」
「その間だけでも被っていろ。走っているからこそ帽子が暑くて仕方ないのだ」



あー、そういうこと。



「加齢臭はしないから安心してよ、御剣さん」
「な、何をっ……」
「あ、それ一応心配してたのよー」
「ぬっ、御剣!?」



楽しそうに笑みを浮かべる幸村君のノリに乗ると、真田君が焦って私を見た。その焦りがいつもの威厳ある真田君とは違って面白く、「ごめんごめん」と謝りながらも笑ってしまう。そのことに真田君は恥ずかしそうに「は、早く準備するぞ!」と言い、コースのスタート地点に早歩きで行ってしまった。



「あーあ、照れちゃって」
「幸村君なかなか意地悪だね」
「ふふ、御剣さんこそ」



幸村君と笑い合い、スタート地点で走る体勢を作る真田君に「よーい、ドンッ」と声をかける。ちゃんとストップウォッチを押すことも忘れずに。



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