Act.19

「御剣が帰りたいと思っている確率78%」
「ほなさっさと帰れや!」
「マネージャーちゃん帰るん? そんな嫌やわあ」
「やっぱし帰ったらド突く!」
「あーん? 御剣が帰るわけねぇだろうが」



初日の午前練習が終わり、今は昼食。今日の昼食はバイキング式らしく、それぞれ好きなものを食べられる。のだが、どうやら席が決められているらしい。幸村君から指示された席に行くと、そこには柳君、金色君、一氏君、跡部君の四人の姿。



「チェンジ!」
「ふふ、我が儘言うんじゃありません」



思わず近くの円テーブルの席に座っている幸村君に言うと、幸村君はふんわりとした笑顔でそう言った。そのことに「マジかよ」と絶望していると、同じテーブルの柳君が私の肩に手を置いて「諦めろ」と哀れんだ感じに言ってきた。そ、そうだよね、まだ柳君がいるんだもんね。例え苦手な跡部君やら金色君やら一氏君やらがいたとしても、参謀である柳君さえいればフォローしてくれるはず。



「マネージャーちゃん、隣に来てーんっ」



先に座っている金色君にそう言われ、一氏君に睨まれながらも金色君の隣に座る。金色君の反対隣には一氏君が座った。私の隣には柳君に座ってほしいと思い、柳君に声をかけようとしたその時、跡部君が私の隣に座った。遅かったか……。



「御剣、スコア付け頑張ってたじゃねぇか。覚えるのも早いし字も上手いって滝が褒めてたぜ」



いきなり跡部君が褒めるものだから、私は「え、あ、」と言葉に詰まる。少しぎこちなく「ありがとう」と笑顔でお礼を言う。初めて跡部君の前で笑ったせいか、跡部君は少し驚いた表情をした。けれど、すぐにフッと綺麗に微笑む。……ずっと思ってたけど、この合宿って無駄に顔整ってる人が多い気がする。



「よし、全員席についたな。バイキングだからと言って偏ったものばかり食べていると体を壊すから注意しするように。では、いただきます」



桜乃ちゃんのおばあちゃんである竜崎スミレ先生の言葉により、全員が「いただきます」と言う。竜崎先生は青春学園中等部男子テニス部顧問なのだが、青学レギュラーや桜乃ちゃんに頼まれて来ているようだ。部員に信頼されてる顧問って、それだけで本当凄く見えて仕方がない。バラバラに自分の好みの食べ物を取りに行く皆を見ながら、私も立ち上がって食べ物コーナーへと足を運ぶ。



「…………」



正直お腹はだいぶ空いていた。空いていたのだけれど、目の前で「これも! あ、これも!」と言いながらケーキばかりを大量に選ぶ丸井を見て、私のお腹は満たされたような感じがする。よくあんなにケーキばかり食べられるものだ。女子でもそんなに食べないぞ。……いかんいかん、丸井に惑わされるな自分。私は私の食べたい物を思う存分食べるんだ。丸井なんぞに私の昼食を邪魔されてたまるか。



「希代さん、選ばないんですか?」



立っているだけの私を見て、近くにいた杏ちゃんがそう聞いてきた。私は「あれ見てよ」と遠い目をしながら丸井を指さす。私の指先を辿ると、杏ちゃんは「うわ」と引き気味に丸井を見た。ざまあ、杏ちゃんに引かれてるよ、アイツ。



「あ、それより。はい、希代さん、あーん」



杏ちゃんが何やらクロワッサンを私に差し出してきた。しかも「あーん」と言うことは、食べろ、と言うことなのだろう。杏ちゃん可愛すぎか。私は内心ニヤニヤしながらも、杏ちゃんが差し出したクロワッサンにかぶりつく。杏ちゃんはそのことに「きゃっ」と嬉しそうに笑い、周りにいた人達は少し驚いているようだ。やば、時と場合を考えなきゃいけなかったかも。



「御剣、行儀が悪いぞ! たるんどる!」
「城阪ー、御剣が浮気しとるー」
「なんですとっ!?」



真田君にも見られていたようで説教されてしまった。仁王にいたっては面白がっているのか、夏菜にそんなことを言い、夏菜はそれにノってしまっている。私は杏ちゃんからかぶりついたクロワッサンを受け取り、とりあえず真田君に「もうしない」と言っておく。真田君は大きく頷き「分かれば良いのだ」と言い、好きな食べ物を取りに行った。よし、これで安心。



「あたしがいるのに他の女に手を出すなんて酷いわっ! あんまりよっ!」
「貴女は希代さんに捨てられたんです! 大人しく引き下がってください!」
「仁王、肉じゃがどこにあるか知ってる?」
「え、あの二人放置なんか」



変な茶番を始めてしまう夏菜と杏ちゃんをスルーする。仁王はそのことに驚いていたようだけれど、私は気にしない。とりあえずもう一度「肉じゃが」と言うと、仁王は呆れながら「右の隅っこにあったぜよ」と教えてくれた。「ありがとう」とお礼を言い、私は肉じゃがを食べるべく肉じゃがの元へ足を運んだ。




 ***




指定された円テーブルに行くと、金色君と一氏君が既に食べていた。二人共、私より明らかに量が多い。「流石男子だなあ」と思いつつ、自分の昼食を机に置いて椅子に座る。ふと、一氏君が私をジッと見ていることに気づいた。その視線が自分にとっては異様に怖くて、なんだか睨まれている感じがする。



「……お前、それだけしか食わへんのか」
「え、あ、ああ、うん」



話しかけられるとは思っていなかった。返事ぎこちなかったけど、変に思われなかったかな……。落ち着け自分、と心の中で言いながらも肉じゃがを一口食べる。おお、美味しい。



「少食じゃ胸大きくならへんぞ」
「えっ、せ、セクハラっ……」
「やかましい! ほら、別けてやるからぎょうさん食え」



そう言い、一氏君は自分の箸で食べかけであろう小さなお好み焼きを私のお皿に乗せた。ちょっと待ってちょっと待って。これ食べたら間接キスになる気がするんですけど、気のせいじゃないですよね。それとなく「悪いからいいよ」と言うけれど、一氏君は「問答無用や」と一刀両断してしまった。助けを求めようと金色君に視線を向けるけれど、金色君は私と一氏君を微笑ましそうに見るだけ。……味方がいない、だと……。



「あの、ほら、一氏君、私あんま食べれないからさ。残ったら勿体無いし、一氏君も食べたいだろうし、ね、大丈夫だから、ほんと、うん」
「何言うてんのや。ほんまもう女子ときたら……」



そう言いつつ、自分の昼食を食べ始める一氏君。私はもう一度自分のお皿を見る。自分が運んだ昼食に一氏君の食べかけのお好み焼きがプラスされている。これ残さず食べれる自信がない。
その後、跡部君にまで「少ないだろ」と昼食を追加されてしまい、泣く泣く食べることにした。柳君が「後でしっかりデータに記しておかねば」とかなんとか言っていたけれど、気にしないことにする。



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