Act.18

金色君の頭脳、一氏君のモノマネ、大石君の広い視野、菊丸君の俊敏さ。それぞれの個性が出ていて、この試合、素人の私が見ても面白い。それに金色君と一氏君のお笑いネタは正直笑ってしまうものもある。素人を飽きさせないこのダブルスの試合……、最初こそは厄介だと思ったけれど、なかなか良いものを見れているのかもしれない。



「マネージャーちゃ〜んっ! 見とってなーっ!」
「女ァ! 小春見たらド突くぞ!」



まるでハートを周りに散らしながら満面の笑みで私に手を振る金色君。テニスラケットを私に向けて怒鳴る一氏君。私は一体どっちの言葉に従えば良いのか……。とりあえず軽く手を振ると、金色君が「手ぇ振ってくれたーっ!」と嬉しそうにクネクネした。それに対し、一氏君は「キィィィイ!」と歯ぎしりをしている。怖ひ。



「なんじゃ、目の敵にされとるんか」



試合再開したところで、今までの会話を聞いていたのか、仁王が近寄ってきた。私は「何もしてないんだけどね」と答える。ふとコートの周りを見れば、部員達が試合を観戦する為に集まって来ていた。それはBコートもそうなのだろう。最初に試合を行う者以外は、ウォーミングアップとグラウンドを五周走ってから試合観戦をする為、途中から集まってきたというわけだ。



「一氏は金色のことが大好きじゃからのう」
「……ホモ?」
「そういうことじゃ」



仁王の言葉に、私は「ふーん」と返事をする。ホモって本当にいるんだな……、初めて見た……。でも一氏君って目つき悪いけど顔は整ってるし、ホモじゃなければ彼女いそうだな。勿体ないと言うべきなのか、本人が良いのだからそれで良いのか。



「チェンジコート!」



大石君と菊丸君が点数を入れたことにより、コートをチェンジすることになった。ちなみに、審判は四天宝寺中学校男子テニス部顧問の渡邊オサム先生。高校男子テニス部顧問ではないものの、今回は特別に来てもらったんだそうだ。金色君達がコート移動をしている間に、私は自分が付けたこの試合のスコアを見る。なかなか良い感じの接戦ではないだろうか。まあ、人間離れしているとは思うけれど。



「にしても暑いのー……」
「夏だからね」
「御剣は冷たい」
「私だからね」



私の言葉に、仁王は無言になってしまう。仁王の顔を見ると、仁王は頬を膨らませて私を睨んでいた。いや、頬膨らませるなよ男子高校生。女子なら可愛いものの、男子がやったところで可愛くないぞ。「何じゃい」と渋々反応してあげたら、仁王はその顔のまま「御剣は優しくなるべきじゃ」と言われてしまった。だまらっしゃい、コート上の詐欺師が。



「御剣さーん、ちぃとスコア表見せてほしいんやけど」



渡邊先生が、審判台から降りてきてそう言った。私は渡邊先生に顔を向け、「はい」と返事をしてスコア表を渡邊先生に渡す。そうしている間にも、試合は行っている為、審判がきちんと見ていなくて良いのだろうか、と心配になる。けれど、渡邊先生はスコア表を一通り見て、すぐに「ありがとさん」と私にスコア表を返した。



「それにしても、自分字上手いんやな」
「ふへへ、よく言われます」



同年代の男子ならまだしも、先生という年上の男性と話すのは気が楽だ。「先生」だから気を許しているのかもしれない。普通に友達と話すように返事をすると、渡邊先生は「言われるんかい」とツッコんだ。



「それより試合見てなくて良いんですか?」
「おお、せやな。どやされるわ」



私の言葉に、渡邊先生は私の隣で試合観戦をし始めた。……審判台に戻らなくて良いのかな……。チラッと渡邊先生を盗み見るけれど、渡邊先生は試合を見ていて私の視線に気づかない。審判台じゃない此処で審判って大丈夫なんだろうか。先生だから許されるんだろうか。うーん……。



「なあ御剣さん、」



私も試合を観ることに集中しよう、と思った矢先、渡邊先生が声をかけてきた。今度はなんだろう、と渡邊先生を見る。けれど、渡邊先生は試合に視線を向けていて私を見ていなかった。もしかして私の聞き間違いだったのだろうか、と不安になっていると、



「ユウジ、悪い奴やないねんで」



と言った。「ゆうじ?」と首を傾げると、一氏君のことだと言われた。ああ、そっか、審判だから私が一氏君に怒鳴られていたところを見聞きしているのか。私はなんて返事をすればいいのか分からず、「はあ」と曖昧に返事をし、試合をしている一氏君に視線を向ける。先程私を睨みつけていたときとはまるで別人のように、今はキラキラと人を笑わす為に金色君と漫才をしている。こうやって見る限りでは面白い人だと思うんだけれど……、やっぱり、同世代の男子だと思ってしまうと怖いというかなんというか。



「せや、次何か言われたら言い返せばええねん」
「……また怒鳴られません?」
「怒鳴られたらボケるんや。ツッコんでくれるで」



……そういう問題なんだろうか。



「先生、こいつヘタレじゃから怒鳴られたら泣くぜよ」



仁王ゥゥウウウウ!
正に本当のことであった為、慌てて「ちょっと」と仁王に顔を向けると、渡邊先生が「さよか!」と笑った。どっちに何を言えば良いかあたふたしていると、仁王に「落ち着きんしゃい」と言われる。誰のせいだと思ってんだ馬鹿野郎。言い返そうとするのを諦め、大人しく試合を観る。



「希代さんっ」



その時、後ろから声をかけられた。この活発そうな声は、と予想をつけて後ろを振り返る。そこには、私が思っていた通り、ドリンクを担当している小坂田朋香ちゃんが居た。朋ちゃん(本人にそう呼んでほしいと言われた)は四つのドリンクを手に持っている。



「ドリンク用意しました! どこに置きますか?」
「審判台の横に置いておいて。ありがとう」
「いえいえ、ちょろいです!」



ニッと元気良く笑う朋ちゃんに癒されつつ、審判台の横にドリンクを置くべく足を動かす朋ちゃんを見ながらデレデレする。この合宿の臨時マネージャーとしてきた女の子はとても可愛い。朋ちゃんは元気ハツラツで笑顔がとても素敵だし、桜乃ちゃんはおどおどしていて守りたくなるし、杏ちゃんはしっかり者で私よりお姉さんって感じだし、友香理ちゃんは勝気で無邪気だし。皆がそれぞれ違う女子力を持っていて、見ていてとても癒される。



「あっ、朋ちゃーん、タオルも用意してくれるー?」
「はーい、分かりましたー!」



私の言葉に、朋ちゃんは元気良く返事をし、元気良く走って行った。うんうん、働き者で感心するね。朋ちゃんの背中を見送って再び試合を観ながらスコア付けを開始すると、隣にいる渡邊先生が「今年の臨時マネージャーはよう働くなあ」と呟いた。是非とも大きな声で言っていただきたい。はあ、お腹すいた。



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