Act.17

その後しばらく喋っていると、全校が集まったようで開会式が始まった。氷帝の跡部様主催であるこの合宿の開会式は、跡部様一人で進行してしまい、二、三分程度で終わった。話が長くならなかったのはとても嬉しいことだ。いつもなら開会式というものはお堅く、二十分以上もあったし、ぐだぐだ話が長く「それ言わなくても良いだろ」という無駄な話もあった。だが、跡部様は簡単かつ重要な部分のみをおさえて話をしてくれた。跡部様分かってらっしゃる。



「――で、この場合はこうやって書くんだ」
「へえ、なるほど」



現在、氷帝学園三年生の滝萩之介君にスコアの書き方を教わっている。
今日から合宿が終わるまで、マネはそれぞれの役割分担を決められた。私と滝君はスコア付け。試合をする場合はAコートとBコートの二つに分かれて試合をするから、最低でも二人、スコア付けをする人物が必要なんだそうだ。滝君はテニス経験者だし教え方がとても上手いから、スコアの書き方をすんなり覚えることが出来た。



「書いてるときに分からないことがあったら俺に聞いてね」
「うん、ありがとう」



滝君は優しい。話しやすいし気遣ってくれるし、凄く好感が持てる。ちなみに、ドリンク作りは夏菜、青学の竜崎桜乃ちゃん、小坂田朋香ちゃん、四天宝寺の白石友香理ちゃんの四人。球出しは部員に球を打つ役割もある為テニス経験のある青学の河村隆君、氷帝の日吉若君、四天宝寺の財前光君、不動峰の橘杏ちゃん、聖ルドルフの観月はじめ君の五人。球拾いは青学の堀尾聡史君、加藤勝郎君、水野カツオ君、浦山君、山吹の壇太一君の五人となった。



「あの、滝君、」



ずっと気になっていたことを聞きたくて、滝君に声をかける。滝君は「ん?」と優しく微笑みながら聞き返した。それだけでも話しやすさが増す。



「氷帝の跡部景吾、君、って跡部財閥の御曹司、だよね?」



自分の中では勝手にそうなのだと思っていた。名前からしてもオーラからしても、跡部財閥の御曹司なのだと。けれど、もし勘違いなのだとしたら恥ずかしい為、念の為に滝君に確認をとったのだ。滝君は私の言葉に、「うん、そうだよ」と頷く。……やっぱりっ……!



「でも、普通に接しても問題ないよ。御曹司とはいえ同い年だし、跡部も気にしないタチだから」
「怒られない……?」
「ふふ、全然。むしろ普通に接したほうが跡部も嬉しいと思うな」



そう微笑む滝君。その表情も髪の毛も美しいのなんの。まるで幸村君みたいだ。……それにしても……、そうか、普通に接しても良いんだ。あの有名な跡部財閥の御曹司だから、もっとこう、丁寧に扱ってあげないといけないのかと思っていた。これからは「跡部様」じゃなくて「跡部君」って呼んで、敬語も外して普通に話そう。ビビる必要はないんだ。



「ところで、御剣さんって化粧してるよね?」



滝君の言葉に、私は動揺しながらも「うん」と頷く。やはり合同合宿期間に化粧をするのはNGだったのだろうか。もしくは「合宿に化粧するなんてやる気あるの?」なんて思われてたり……。



「御剣さんって濃いメイク似合わなそうだよね」



……意外と女子力の高そうな言葉が来た。確かに滝君は見た目から女子力高そうだけれども、まさかJKみたいな話の振り方するとは思わなかった。滝君本当は男装している女の子なんだろうか。見た目は子供頭脳は大人なアイツが持っている声を変えられる機械を使って男の声に変えているんだろうか。



「それに綺麗な爪してる。爪切りで形ちゃんと整えて、透明のマニキュア塗ったらもっと綺麗になるんじゃないかな」



……どうしよう、私より女子力高い。



「詳しいんだね」



返答に困り、とりあえずそう言う。すると、「女心に興味があってね」とまたまた返答に困る返事が返ってきた。女心に興味があるってどういうことなんだろう。女装癖があるのか、オカマになりたいのか、本当の女になりたいのか。滝君って意外と謎なんだな……。



「さて、そろそろ練習試合が始まるみたいだ。俺はBコートに行くから、御剣さんはAコート頼むよ」
「うん、了解」



Bコートへ向かう滝君の背中を見て、私もAコートへと向かう。まだ何も書き込んでいないスコアの紙を見て「本当にちゃんと書けるんだろうか……」と不安になる。誰か隣にいて、私が間違えた時には教えてくれないかな……。ふと跡部君から貰った練習試合一覧を見る。今からAコートで試合を行うのは、大石秀一郎君&菊丸英二君ペア、金色小春君&一氏ユウジ君ペアのダブルスのようだ。……知ってる人いない……。



「あーんっ女の子やーっ! 仲ようしてーっ!」



Aコートに行くと、眼鏡をかけた坊主頭でくねくねしている人にテンション高く声をかけられた。「あ、はい」と戸惑いながら返事をすると、その人の横にいる緑色のバンダナを付けた人が私を睨んだ。え、何、何で私睨まれなきゃいけないんだ。



「もうっ、ユウ君失礼やろー!」
「せやかて小春! コイツ絶対小春のこと狙ってんで!?」



……あれ、いつ狙いましたっけ……。
私が思わず遠い目をしている間にも、二人は言い争っている。ふとAコート内を見ると、既に二人の対戦相手であろう卵のような髪型の人と頬に絆創膏らしきものをつけた人がテニスラケットを持って立っていた。……やばい、待たせちゃってる……。



「あの、試合……、」
「あ、せやった! ゴルァ一氏ィ! ワレのせいで待たせとるやろが!」
「そ、そんなあ、小春〜っ……」



小春と呼ばれた人は先程クネクネしていた時は丸っきり違い、男らしいというか怖いというか、なんだか性格が急変してしまった。しかし一氏と呼ばれた人は慣れっ子なのか、驚きもせずただ泣きべそかいている。そのまま二人はテニスラケットを持ってコート内へと入って行った。…………濃いな。



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