Act.14

あの後、同じ臨時マネージャーの一年生である浦山しい太君が来て、桑原君が来て、仁王が来て、丸井が来て、最後に夏菜が来た。夏菜は寝坊したようで、夏菜のお母さんに車で送ってきてもらったんだそうだ。朝苦手なのはいつまでも変わらない。そうそう、浦山君とは今日初めて会った。語尾に「ヤンス」と付ける髪型も変わった子だけれど、良い子そうだ。



「さあ、着いたよ」



二、三時間くらいかけて、やっと長野県の目的地についた。最初は大騒ぎだった皆も、今では心なしかグッタリとしている。休憩時間にははしゃいでいたけれど。とりあえず、私の肩に頭を乗せて寝てしまった夏菜と切原君を起こさなければ。



「切原君、切原君、着きましたよ」



どっちから起こそうか迷っていると、切原君の前の席の柳生君が私の状況に気付いて切原君を起こそうとしてくれた。ありがたい。私はその隙に反対の夏菜の肩を揺らしながら「着いたよー」と声をかける。夏菜は薄ら目を開け、ぼんやりとしたまま「んー」と言って起きた。と、その時、切原君も起きたようで反対の肩の重みも消えた。



「二人とも大丈夫?」



立ち上がって夏菜と切原君を見ると、寝起きのせいか目がトロンとしている。特に夏菜が酷い。「ほら頑張って立って」と夏菜を立たせると、夏菜はまだ寝ぼけているのかよろけて私に寄り掛かった。どうしたものか、と呆れつつ「起きて」と背中をポンポンと軽く叩く。



「城阪、たるんどる。早く起きて降りんか」
「んー……」



いつの間にか私の後ろに来ていた真田君の言葉に、夏菜は寝ぼけたまま返事をし、荷物を持ってバスの出入り口に向かって通路を歩き始める。よろよろしている姿を見て「大丈夫かな」と心配しながら、私も夏菜に続いて荷物を持って通路を歩く。バスを降りると、既に他校の生徒達がいた。資料ではたくさんの学校がこの合宿に参加するみたいだけれど、あの人達はどこの学校だろうか。



「あれは氷帝学園だ」
「……柳君怖い」
「分からないだろうと思って教えたのに、失礼な奴だ」



口にしても聞いてもいないのに私の思っていることが分かった柳君に、私が正直に言うと、柳君はわざと悲しそうな表情をしてそう言った。教えてくれたのはありがたいけれど謝らないぞ、私は。もし柳君に好きな人が出来たら、柳君がストーカーになるんじゃないか凄く心配だ。



「やあ、跡部」
「幸村、早かったじゃねーの」



幸村君が「跡部」という人と話し始めた。顔はここからでは真田君と柳生君が邪魔で見えないが、なんだか聞いたことのあるような声をしている。そういえば、「跡部」って氷帝の部長って夏菜が言っていなかったっけ。



「皆、とりあえず氷帝が集まってるところに移動しようか」



一通り話し終えたのか、幸村君がそう言った。その言葉により、皆がぞろぞろと氷帝学園の生徒が集まっている方へ移動する。その時、前方から「あーん?」という声が聞こえた。「あーん」って食べ物を箸で食べさせてもらっているのだろうか。つかこんなところで食べ物って。疑問に思って顔を上げると、目の前に以前学校のテニスコートで会ったことのある人物がいた。そうか、この人が氷帝の跡部って人なのか。



「なんだ、忍者も来たのか」



まだ忍者だと思っているようだ。とりあえず何か言わないと無礼であろうと思い、「こんにちは」と軽く頭を下げる。そのことに、目の前の人は「ああ」と言うだけだった。もっとフレンドリーな感じで返してくれると気が楽で有り難かったのに。



「俺様は氷帝学園高等部三年の部長、跡部景吾だ。お前は?」
「あ、同じ三年の御剣希代です」



そう言い、軽く頭を下げる。そういえば、跡部景吾ってあの跡部財閥の御曹司の名前じゃなかったっけ。……あれ、嘘でしょ、ちょい待って。目の前に立ってる跡部景吾君は御曹司の跡部景吾ってこと? 待って待って待って、これ無礼な真似したら死ぬんじゃないのコレ。何かあったら家族にも被害が及ぶんじゃないのコレ。



「あーん? 急に黙ってどうした?」
「あ、いや……、」



いかん、金持ち御曹司だと分かった瞬間、この人と話すのが余計に緊張してきた。なんで幸村君は金持ち相手にあんなに自然と話せていたんだろう。幸村君のような偉大な人に私はなりたい。



「ところで忍者、お前はどんな術が使えるんだ?」
「は? ……あっ、口答えじゃないんですごめんなさい」
「あーん? 何を謝っている?」



予想外な質問に思わず「は?」と言ってしまったから謝ったわけだけれど、どうやら跡部景吾様は気にも留めていないようだ。心の広い御曹司のようで良かった。これで甘やかされた短気な御曹司だったら、今頃「テメェ誰に向かって口答えしてんだ」と睨まれるところだ。御曹司の扱い難しい。



「あの、今更ですけど、私忍者ではないんです」
「……ああ、そうだな。忍者は普段身を隠しているから、本当の姿をバラされるわけにはいかねぇんだよな」



違うんです、本当にそういうことではないんです。思わず遠い目をしていると、丸井の笑いを堪える声が聞こえた。そちらに顔を向けると、丸井は明らかに私と跡部様を見ていて、口を手でおさえて笑わないように堪えていた。キッと睨むと、丸井はいまだに笑いながら手を合わせて「わりぃわりぃ」と口パクで言う。絶対悪いと思ってないだろ。



「丸井がどうかしたか?」



私の視線の先を辿ったのか、跡部様がそう聞いた。丸井は跡部様と目が合うとニカッと笑い、仲良く話している桑原君と切原君の元へ向かった。それを見ると、跡部様は私へと視線を向ける。



「あ、いや、なんでもないんです。ただ目が合っちゃっただけで」
「そうか。まあ、一週間俺様の傍で頑張れよ」



跡部様はそう言い、私に背を向けて行ってしまった。「俺様の傍で」というところが気になり、跡部様を止めようと声をかけようとするが、跡部様は足が長いようで、あっという間に氷帝の輪へと入って行ってしまった。おいおい、マジかよ……。



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