Act.13

「あ、御剣さん、おはよう」



少し余裕を持って家を出て集合場所である学校の校門に辿り着くと、既に幸村君と真田君、柳君と柳生君が居た。声をかけてくれた幸村君に対しても、他の真田君達に対しても「おはよう」と言うと、真田君達も「おはよう」と返してくれた。



「意外にも早いのだな」
「家近いからね、余裕」



真田君の言葉に、片手でピースサインを作って笑う。すると、私達の会話を聞いていた柳君がノートとペンを出して、ノートに何かを書き始めた。ぶつぶつと聞こえてくるのは「御剣の家は学校から近い」という私の家に関すること。そんなことメモしなくて良いのに。



「ところで、荷物が多いようですが……」



柳生君の言葉に「ああ、これ?」と持っている手提げカバンを少し上げる。衣類や必要な物は、背負っているリュックの中に入っているわけだが、私はもうひとつ、手に手提げカバンを持っている。



「これね、ゲームが入ってんの」



そう言う私に、柳生君は「ゲーム?」と首を傾げる。私は手提げカバンの開け口を開いて、中身を見せる。3DS、PSP、PS4、ソフト達、と大量に入っているゲームに、柳生君は「ほう」と言いながら、眼鏡をクイッと上に上げる。そんな中でも、いまだに柳君のデータを取る手は止まっていない。



「随分とたくさんのゲームがあるんですね……」
「柳生君もやる? んでハマる?」
「いえ、私はちょっと……こういったものは苦手で……」
「そっか、残念だ……」



苦笑しながら断る柳生君に、少ししゅんとする私。確かに、柳生君にはゲームをやるというイメージはないけれど、まさか苦手だったとは……。柳生君は私がショックを受けていることに気付いたのか、「申し訳ありません」と苦笑しながら謝った。謝らなくても良いのに、柳生君は優しい人だ。



「おはよーッス!」



そんな時、後ろから元気で明るい声が聞こえた。振り返って見ると、そこにはまあ元気に明るい笑顔を浮かべた切原君の姿。「おはよう」と言う幸村君や真田君達に続き、私も「おはよう」と言う。丸井からは「後輩の赤也って奴、遅刻魔なんだぜ」なんて話を聞いたことがあったけど、今回は遅刻しなかったな。珍しいことなのか、真田君が「うむ、成長したな」って呟いてる。



「あっ、御剣先輩ゲーム持ってる! 漁っても良いッスか?」
「うん、良いよ」



目を輝かせながら私の手提げカバンの中を漁る切原君に、可愛いなあ、なんて思ってしまう。弟が出来たらこんな感じだったのかな。でも、私は弟より妹のほうが良いかな。「お姉ちゃん!」なんて甘えられたらそれだけでデレデレしちゃいそう。



「先輩先輩っ! 俺これ持ってますよ! ってか持って来てる!」



切原君がそう言って私に見せてきたのは、私が今一番ハマっているPS4の海外の吹き替え版シューティングゲームソフト。切原君の嬉しい言葉に、私は単純にもぱあっと笑顔になる。



「本当!? 私それ凄く好きなの!」
「俺もッス! 自由時間に共闘しませんか!?」
「是非! 是非お願いします!」



同士だ、同士がいた。まさか切原君もこのシューティングゲームソフトを持っていただなんて。予想外な出来事に、私はそれだけで合宿というか、自由時間が楽しみになってきてしまった。どうしよう、嬉しすぎる。今すぐにでもこの喜びを言葉にして叫びたい。



「御剣先輩は銃、何が得意なんスか?」
「スナイパーライフル」



私の言葉に、切原君が「スナイパーライフル!?」と驚く。その驚いた表情も可愛いのなんの。犬みたいだ。



「遠距離が得意でね。でも最近は突然の近距離でも撃てるようになってきた」
「えっえっ、凄ぇーっ!」
「えへへへへへ」



尊敬の眼差しを向けられ、私はヘラッとだらしなく笑う。目の端のほうで柳君がペンをガガガガッと走らせているけれど、もしかして私のデータを取っているのだろうか。こういう何気ない会話からもデータを取るなんて、柳君恐るべし。



「切原君は?」
「これといって得意なのとかはないですけど、マシンガンはよく使いますね」
「ああ、良いねえ、マシンガン。弾が尽きるまで連続で撃てるから素晴らしい」
「そうなんスよーっ。俺全然的に当てられないからマシンガンありがてえ」



分かる分かる。私もライフル使えるようになるまではマシンガンと両立してたわ。ライフル使える今でもマシンガンは使ってるし。それに比べて、ナイフはちょっと使いづらいんだよなあ。最初からナイフ使うタイプじゃなかったから、気まぐれで使うようになった今ではナイフの上達は全然見られない。



「あ、バスが来たみたいだね」



幸村君の言葉に、私と切原君は話を中断させてバスを見る。幸村君の言った通り、道に沿って「立海大学付属高校男子テニス部」と書かれた紙が貼ってあるバスがこちらに向かって来ていた。そのバスは邪魔にならない正門の脇に停まる。



「俺は此処で残りの連中待ってるから、皆は乗って」



幸村の言葉に、柳君が「ああ」と返事をしてバスへと向かう。それに続き、柳生君も柳君の後を追うようにバスの方へと足を運んだ。私と切原君も重い荷物を持って此処で立っているのは疲れる為、「じゃあ行きましょうか」「うん」と会話をしながら、バスへと向かう。



「御剣先輩っ、せっかくだから隣同士で座りましょうよっ!」



バスの中に行くと、切原君がキラキラした目でそう言ってきた。シューティングゲームのことで盛り上がったから切原君と席が隣でも良いけれど、そうすると夏菜はどうなるのだろうか。ぶっちゃけ私は夏菜と隣同士で座ると思っていたから、誘われるのは予想外だ。



「一番後ろの席なら良いよ。夏菜も隣になれるし」
「ほんと城阪先輩のこと好きッスよね」
「むしろ愛してる」



即答する私に切原君は「へいへい」とわざと呆れたように言う。生意気だなこの野郎、という意味を込めて切原君の頭をわしゃわしゃと片手で乱暴に撫でると、切原君は「ちょっ、ボサボサになる!」と抵抗してきた。だが止めるものか、こんちくしょう。……ところで柳君は、いつまでデータ取ってるんだろう……。



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